第10章 1話目
第十章 文化祭に願いを込めて
朝五時。
こんな早起きは久しぶりだ。
今日は夏休み最後の日曜日。
僕は新聞受けから朝刊を取ると居間の電気を付ける。
「おおっ! 載ってる載ってる!」
つい声が漏れる。
ちゃ ちゃちゃっ ちゃ~
ちゃ~ ちゃちゃ~
と、突然携帯が大泥棒の三代目が疾走しそうな曲を奏でる。
「こんな早朝からメール?」
ひとりごちると携帯を取り出す。
件名:弥生ちゃんだよ
本文:朝刊見てるなう。
小金井からだ。
よほど嬉しいんだろう。何しろ今日から連載開始になる新聞小説・第一話「甘いものにはフタをしろ!」の執筆担当は小金井なのだ。彼女は奇妙な経緯で文芸部に入ったけど書き物をするのは好きらしい。流れるように綺麗な文章を紡ぎだす。
件名:今何時だと思ってる
本文:赤飯は炊いたか?
返事を返してやった。
赤飯炊いてなくても絶対ケーキは食べているに一票だ。
ちゃ ちゃちゃっ ちゃ~
ちゃ~ ちゃちゃ~
また携帯が鳴る。
件名:パジャマのままで
本文:勿論見てますよ
今度は大河内からだ。
まだ外はうっすら白み始めたばかり。日も昇っていない。
早朝からホントにはた迷惑なヤツらだ。
と、また携帯が。
件名:あかねですっ。
本文:勿論見てますですっ。新聞二十二面下段の記事も笑えるです。
深山さんまで参戦?
不思議に思ってメールの送信先を確認すると、最初の小金井のメールは部員一斉送信だった。
「あのバカ!」
つい叫んでしまうも、また携帯が鳴る。
件名:月野っす
本文:二十二面下段の記事引用「日の出町に変質者:三十日夜、
日の出町交差点で四十代と見られる男が女子高校生の前で
黒いマントを脱ぎ全裸になる事件がありました。
機転を利かせた女子高生が「かわいいですね(うふっ)」と言うと、
男は号泣しながら川田町方面に逃走。警察は行方を追っています」
どっちが被害者か分からない記事だな。
でも、これでこの男は二度と同じ犯行は犯さない気がする。
と、またまた携帯が鳴る。
件名:立花です
本文:実は、その被害者はわたしです。
「ええっ~!」
思わず大声が出てしまった。
立花さん大丈夫だったのかな。怖い目に遭ったんじゃないのかな。
急に心配になった僕は携帯のメールを打とうとする、が、そうはさせじと携帯が鳴りまくる。
件名:被害者と言うより
本文:それ、加害者っすよ!
件名:写真
本文:撮ってないの。あかねにも見せてぷりーず。
件名:繭香ちゃんに質問
本文:本当に可愛かったの?
件名:色は
本文:やっぱり黒いの? 明日レポートを佳奈に提出してね。
件名:立花です
本文:残念。本当は暗くて見えませんでした。
「ふああっ…… どうしたのお兄ちゃん。なんだか朝から賑やかね」
気が付くと居間の入り口に桜子が立っていた。
「あっ、桜子ごめん。起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ。あっ、新聞か。今日から連載開始だったんだね」
「そうなんだ、それで部のみんなが朝からメールを打ちまくっててさ」
そう言いながら僕は彼女に携帯を見せる。
「ふうん…… って、何これ!」
急に大きな声を出す桜子。
「あっ、変質者騒動ね、凄いだろそれ。それで朝からメールが飛びまくってるんだ」
と言ってる間にも着メロが鳴りまくる。
「大変じゃない。繭香先輩大丈夫だったの?」
「うん、それを聞きたいんだけど、着信が鳴り止まなくって……」
「わたしがメールするよ」
そう言うと桜子は自分の携帯からメールを打ち始める。
暫くすると彼女の携帯に着信が入る。
「大丈夫だったそうよ。第一、繭香先輩は被害届出してないらしいわ。でも他に目撃した人がいて大騒ぎになったんだって」
「そうか、それならいいんだけど」
桜子は台所に立って。
「何だか目が覚めちゃった。お兄ちゃんもパンケーキ食べる?」
「うん、ありがとう」




