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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第九章 夏の海には危険がちっぱい
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第9章 8話目

 朝。

 太陽燦々、雲ひとつない青空。


 今日も暑くなりそうだけど、少し風があるせいか民宿の大部屋は意外に快適。

 僕らは鮭の切り身でご飯を頬張りながらテレビを観る。


 去年のチャンネル権争いはゾンビが出る勢いだったのに、今年はみんな平和に朝のアニメ再放送『うりゃ魔女ドミソ』をご鑑賞。

 いや、正確には月野君が『鉄仮面ソルジャー・アキバ』を主張したが女性陣の無言の圧力に戦わずして無条件降伏したのだった。


「意外と面白いっすね、このアニメ」


 その月野君も食い入るように見入っている。


「あったり前でしょ! うりゃ魔女は女子高生のバイブルなのよ!」

「いや、それは君たちだけだ」

「翔平くんの味付け海苔、一枚没収!」

「ふぎゃっ!」


 そんな平和な朝。

 卵かけご飯を味付け海苔で食べる至福の時間。

 ふと、僕は自分の名前が呼ばれた気がした。


「?」


 周りを見るが、みんなテレビに釘付けで僕を呼んだ気配はない。


「はつきってさ……だから……」


 ふすまの向こうから声が?

 僕は隣の部屋に続くふすまに耳を当てる。


「サッカー部の山本もだし、あのイケメンの塩谷もあっさり断られたんだろ!」

「どんだけ理想高いんだって」

「確かに可愛いけどさあ、少しは男の気持ちも考えてやれっての」

「そう言うお前らだって好きなんだろ」


「先輩、何してるんですか?」


 小さな声とともに背中を叩かれる。


「ちょっと、ね」


 立花さんへの返事もそこそこに、僕はまたふすまの向こうの声に神経を集中させる。


「そりゃ、可愛いし優しいし……」

「宿題教えてくれるし、消しゴム貸してくれるし」

「球技大会のサンドウィッチバカ旨だったしな。小倉も喰えばよかったのに」

「それだったらみんな羽月の悪口は言うなよ。断る方だって辛いんだよ、きっと」


「確かに……」

「……そうだな」

「ま、どっちにしても俺ら四バカトリオには関係ない話だな」

「四人だからせめてカルテットにしようぜ、バカルテット!」


「「「「ひやっはははは~!」」」」


「おい、そろそろ行こうぜ。集合時間だ」


「……羽月先輩」

「ん?」


 気が付くと僕の背後でふすまに耳をあてていた立花さん。


「お隣の話って、もしかして」

「桜子の話かも? いや、まさかね」

「でもそうだったら、悪い噂にならないようにしないと……」


「何してるの、そこのふたり! そろそろ行きましょうよ!」


 小金井の声に僕らはまた熱い太陽の下に向かうのだった。


          * * *


「さあ、そろそろ到着ですよっ!」


 昼過ぎまで砂浜で遊んだ僕らは疲れ果て、帰りのバスでは爆睡状態。

 なかなか楽しい合宿だった。

 海で騒いで風呂場で騒いで、部屋で騒いで。

 小説の一行も書いたわけではないけど、これでいいのだ。

 新聞小説の件もあるから、夏休み中も何度か部室に集まることにしている。

 夏休み明けには連載開始。

 あとは合宿で蓄えたエネルギーをキーボードに叩きつけるのだ。


 「羽月先輩、お疲れなら明日でもいいですよ」


 薄目を開けた僕に立花さんが声を掛ける。


「いや、ちょっと寝たからハイオク満タンになった。今日の八時に買いに行くよ」

「はい、待ってます」


 僕自身忘れていたけど、今日はめでたい『魔王がエロ本屋で大赤字を出しまして』二巻の発売日なのだ。


「先輩、今日は『魔王がエロ本屋以下略』の二巻発売日なんです。帰ったら読むの楽しみで。あっ、先輩も買われますか?」


 そう言われると今までの経緯から「買いに行くよ」としか言いようがない。


「じゃあ、また次の月曜ね~」


 バスから降りると僕らは解散、みんな帰路につく。

 僕は一旦家に帰って食事も済ませ、また家を出たのだった。


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