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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第九章 夏の海には危険がちっぱい
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第9章 7話目

「えっ?」


 志賀先輩が僕を文芸部に残して部長にしてくれた理由って……


 僕は自分が知っている事、即ち、文芸部の人数が規定に満たないこと、そして小金井が僕を残すよう要請した事を話した。

 それを聞いた左岸先輩は少し笑って。


「確かにその通りだわ。だけどね、一番の目的は別よ。志賀部長は今年ラノベ部の部長はわたしになると思っていたらしいの。ねえ、羽月くん。もしそうなっていたらと想像してみて?」

「左岸先輩がラノベ部の部長だったら?」


 彼女が言いたいことはすぐに分かった。


「多分、文芸部とラノベ部は元のさやに収まっていましたね」

「そうね、ラノベ部の分裂は去年の小高副部長と志賀部長の確執が原因だからね。ふたりが卒業したら元の状態に戻る。とっても自然な流れだわ。だけどラノベ部を旗揚げした小高先輩が次期部長に指名したのは夢野だった。小高先輩は自分が作ったラノベ部の永続を望んだのよ」

「だから僕と仲が悪かった夢野先輩が部長に指名された、と?」

「多分ね、だから夢野は城島くんじゃなくって星野を指名するつもりなのだと思うの。あなたと城島くんって仲がいいものね。だけど星野は違うでしょ」

「……」


「分かったかしら。志賀先輩があなたを部長にしたのは、去年の三年生が起こした失敗をあなたに回復して欲しかったからよ」

「それならそうとハッキリ言ってくれれば……」

「知ってるでしょう志賀先輩の性格。あなたに対して自分の尻ぬぐいをやれ、なんて言うと思う?」

「言いませんね、絶対」

「そして、その意志を、志賀先輩の望みを叶えたいと思っているのが奈々世」

「生徒会長の青木先輩…… だから文芸誌の発行予算を半分ずつにしたんですね」

「ええ、それもあるけど、予算も本当になかったらしいわ」

「……」


「ねえ羽月くん、想像してみて。二年先、三年先の事を。ふたつの部がひとつだったことを知らない人たちが互いに部員争奪や予算争奪をするのを」

「ラノベと文芸で括りが違うから共存できる…… って、無理がありますね」

「でしょ、そんなの境界線が不明だわ」

「ですね」

「将来またふたつの部がひとつになるにしても、また色んな確執が起きかねない。志賀先輩は自分の失敗を何とかしたかったのよ」

「……」


「これはここだけの話にしておいてね。奈々世は、自分が生徒会長でいる間に文芸部とラノベ部をひとつに戻すつもりよ。彼女は志賀先輩の望みを何とかして叶えるつもりだわ。夢野もそれを知っているのよ」


          * * *


 志賀先輩の望みはふたつの部がひとつに戻ること。

 そして夢野先輩が目指しているのは『ラノベ部』の永続。

 文芸部がラノベ部に飲み込まれればこのふたつは満たされる。


 しかし。


「なあ小金井」

「何、翔平くん」

「もし、もしもだよ。文芸部とラノベ部がひとつになるとしたら?」

「う~ん、別に構わないわよ。翔平くんが部長なら」


「僕が部長でも部の名前がラノベ部、だったら?」

「どうして? 文芸部の方がいいじゃない! ラノベは文芸の一部でしょ!」

「許されないの、かな?」

「う~ん、翔平くんが許すんなら仕方がないわね」


 意外だな。小金井は絶対拒否すると思ったんだけど。


「じゃあ、部長が星野だったら?」

「絶対にあり得ないわ!」

「ですよね~」


 こっちは予想通りだ。


「ねえ翔平くん、何かあるの? 困ったことがあったらあたしに話をしてよね、秘密はダメだよ」

「うん、分かってる」

「あの、横からごめんなさいですけど、羽月先輩はもう何かお困りですよね?」

「えっ!」


 立花さんの声だ。さすが鋭い。


「困ってなんかいないよ」

「そうですか? 疑わしいです」

「そんなことより新聞小説の完成と『埠頭』の作品作りを頑張ろうよ」

「うむむ、ごまかしましたね。でも一生懸命頑張ります」

「次の作品はあたしも本気出すからねっ!」

「じゃあ佳奈は次の作品でポロリ出すわ!」

「佳奈先輩は大っきいからずるいです。あかねはマニアを狙うですっ!」

「俺もポロリ出していいっすか?」

「月野君やめてくれ。見たくない。僕の前で出すな!」


 こうして。

 文芸部夏合宿の夜は更けていった。


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