第9章 6話目
「あれっ、翔平くん思ったより早かったわね。お風呂に入ってきたら」
民宿に戻るとみんなはトランプをしていた。
「もうみんな入ったのか?」
「うん、入ったけど」
「じゃあ僕、入ってくる。『文芸部秘技・男湯はロマン』を堪能してくるよ」
「羽月部長、俺もう一回入るっす」
「さすが月野君は理解が早いな。僕の秘技を全て伝授しよう」
「楽しみっす」
「ふっ、あたしたちを甘く見ない事ね。行くわよ、監視隊!」
「いや、小金井は来なくていいから」
そう言い残して月野君と風呂場に向かう。
「で、秘技ってどんなのっすか? この女湯との壁のどこかに秘密の穴があるとか、天井に秘密の鏡があるとか?」
この民宿のお風呂は5~6人が入れるくらいの男湯と、多分同じ大きさの女湯が二メートル以上の壁で仕切られている。壁と天井との間には一メートルほどの隙間があって、声は筒抜けだ。
僕は湯船の中で尋ねてくる月野君に小さな声で答える。
「そんなのないよ。ただね……」
そう言うと僕は大きな声で。
「女湯には誰かいますか~?」
「……」
「女湯には誰もいませんね~」
「……」
返事はない。
僕は風呂桶に冷たい水を汲むと女湯めがけて投げ上げる。
「きゃあっ~」
「冷たいです~」
一瞬驚いたように僕の行動を見ていた月野君。
僕と目が合うとふたり堪えきれず吹き出してしまう。
「「ぷっ…… ぷはははは~っ!」」
「なっ、こう言う遊びもあるんだ。但しね……」
「うぎゃあ~っ!」
月野君の頭上に情け容赦のない冷水の塊が降り注いだ。
「……反撃されるから要注意」
「部長、先に言ってくださいよ。俺やられたじゃないっすか。部長だけそんな端っこに逃げてずるいっす」
「これでいいんだよ。去年は僕が同じ事をやられたんだから」
「分かったっす。この憂さは来年の新入生で晴らすっす」
彼は拗ねた風をしながら笑っている。物分かりがいいヤツだ。
僕と月野君が大部屋に戻ると、女性陣はまだ風呂場から誰も戻ってきていなかった。
「ところで月野君も文芸誌『埠頭』に何か書くんだよね」
「はい、勿論っす。現在鋭意執筆中っす」
「楽しい?」
「もち、楽しいっすよ、自分が書いたものが本になるんでしょ、待ち遠しいっす」
「今年の一年生はみんな熱心で心強いよ」
* * *
「これであがりっ! またあかねの勝ちですっ」
「あかねちゃん強すぎ! じゃあ次は大貧民よっ」
「なあ、まだやるのか?」
トランプするのにも疲れてきた。
「そうね、そろそろ潮時かしら……」
もう時間は十二時近く。
僕らは布団をひくと、大部屋を仕切る障子を閉める。
勿論男女別の部屋にして寝るためだ。
「ねえ、翔平くん」
障子の向こうから小金井の声がする。
「どうした小金井?」
「今日、城島くんとはどんな話をしたの」
「ああ、単に昔話さ。去年の合宿の想い出とか」
「仲良かったもんね、翔平くんと城島くん」
「ところでさ、ラノベ部の次期部長は星野なんだって」
「ええっ!」
驚いたように大きな声を出す小金井。
「そんなのあり得ないでしょう! 城島くんじゃないの?」
「実は、左岸先輩にも会ったんだけど、夢野先輩はそう考えてるみたい」
「夢野は何考えてるんだか……」
城島の部屋から戻る途中に出会った左岸先輩。
城島から聞いた話をするとあっさり肯いて、意外な話を教えてくれた。
「ねえ羽月くん、志賀先輩が君を文芸部に残して部長にした理由、知ってるかしら?」




