第9章 4話目
目の前には大きなスイカ。
僕は目隠しをされると三回ぐるぐると回されて十歩歩かされる。
「ではこれから、ラノベ部VS文芸部のスイカ割り競争を始めます」
勝負は一本勝負。
ひとりの味方が声を使って僕をスイカの在処へ誘導する。
敵の部、即ちラノベ部の連中は声だけでその誘導を邪魔するのだ。
但し、声を出して邪魔していいのは女性部員だけ。
そして、よりスイカに近い方を叩いた者が勝ち。
ピーッ!
笛の音ともに試合が始まる。
「翔平くんこっち!」
「きゃ~~っ!」
「しょ~へいくんこっち!」
「キィ~~ッ!」
「翔平くんこっち!」
「翔平く~んこっち!」
……ハッキリ言って分からない。
いつも聞き慣れているはずの小金井の声がよく分からない。何より、
「きゃ~~っ!」
「キィ~~ッ!」
さっきから僕の耳元で黄色いノイズを上げている女の子が二名。
彼女らの声で小金井の声の方向はほとんど把握不能だ。
「なあ、耳元で叫ぶ作戦はずるくないか?」
大きな声で抗議する。
「甘いわ。勝負は常に非情なのよ!」
誰の声か分からないけど、ともかくやめるつもりはないらし。
僕は必死に神経を集中する。
しかし、心頭滅却しても火はやっぱり熱い。
「しょ~へいくん、ここだってば!」
「ええいっ、信じた! ここだっ!」
ざっ!
棒が砂にめり込む感覚。
「もう、翔平くんってば何やってるのよ!」
目隠しを取ると、目の前には見知らぬ女の子が立っていて。
小金井は僕の右手三メートル先で頬を膨らませている。
「ごめん。分からなかった……」
「ただいまの結果、スイカとの距離は3.141593メートル」
ご丁寧に巻き尺を持って星野が計測する。
巻き尺で小数点以下四桁目以降がどうやって読めたのか不思議だ。
「仕方ないわね。夢野を妨害しまくって、もっと外れさせてあげましょう!」
さすが小金井、切り替えが早い。
彼女の一言に大河内、立花さん、そして深山さんが気合いをれる。
「じゃあ、わたしと佳奈が夢野の耳元で叫ぶから、繭香ちゃんとあかねちゃんは、玲奈先輩の声マネをして星野を惑わしてね」
ラノベ部の誘導係は左岸先輩だ。
この勝負は別に何を賭けているわけでもない。
単なるお遊びだからか、左岸先輩も笑顔で参加している。
ピ~ッ!
ぐるぐるに回された夢野先輩が歩き出す。
「夢野こっちよ!」
「わあああああああああ~~」
「ゆめのこっちよ!」
「ほれほれほれほれい~~」
「夢野こっちよ!」
一瞬戸惑うように動きを止めた夢野先輩だったが、次の瞬間。
「っ!」
「きゃあ~~~っ!」
一瞬の出来事だった。
彼の耳元で妨害音を発する小金井と大河内に夢野の魔の手が伸びた。
小金井は持ち前の反射神経で間一髪難を逃れたが。
大河内の青いビキニで隠しきれない白くふくよかな胸を夢野先輩の右手が鷲掴みにしていた。
「何やってるのよ、夢野っ!」
「佳奈先輩~っ!」
「きゃあっ~!」
夢野の暴挙を非難する左岸先輩、大河内を気遣う立花さん、悲鳴を上げる深山さん。
一瞬で砂浜は修羅場と化した。
最早、誰がどう見てもスイカ割りなどという呑気な遊びには見えない。
「クククッ! この大きさ、柔らかさは佳奈ちゃんだね!」
「放してっ!」
「佳奈先輩っ!」
「やめてあげて~!」
「夢野っ、いい加減にしなさいっ!」
「そこだっ!」
次の瞬間、大河内の大きな胸から手を放した夢野は左岸先輩の元へ一直線に駆けた。
「はいっ!」
ばしっ!
見事、スイカは割れていた。
「見たか、この俺さまの秘技、攪乱スイカ割り打法を! この黄金の右手で相手を攪乱し、敵の妨害を無効化。その隙を狙って味方の位置を確認しスイカを割るのだ!」
「何バカなことを言ってるの! 佳奈ちゃんに謝りなさい!」
「これは作戦だ。罠に嵌った佳奈ちゃんが悪い! それにしても大きかったな!」
バシッ!
バシッ!
大河内と左岸先輩のダブルハリセンが飛ぶ。
しかしミジンコほども挫けない夢野は星野と並んで僕らを睨みつける。
「ほら月野、何してるんだ、踏み台出せ、踏み台!」
「はっ、はい!」
「月野君、お前どうして海に踏み台持って来てんだよ!」
って言うか、夢野の言うこと聞いてんじゃねえよ!
「羽月部長すいません、つい昔のクセで」
しかし、夢野は調子にノリノリで僕らを指差す。
「何をやってもダメダメな文芸部の諸君、君たちはもうすぐ我がラノベ部に吸収合併されるのだ!」
スイカ割りをしていた時のほんわかした空気は吹っ飛んだ。
「何わけわかめな事を言ってるんだ! 文芸部はお前らの言いなりにはならないっ」
「ふっ。いつまでも平和ボケしているようだな。全ては文化祭で分かるだろう。ではさらばだ! いくぞ星野、夏の海で危険なアバンチュールの続きだ!」
理解不能な脳内をダダ漏らししながら、夢野と星野は去っていった。




