第9章 2話目
光る海、光る大空、光る砂浜。
ここは名崎市からバスに乗って一時間。横の岬海水浴場。
目の前に広がる白い砂浜は湾状にエメラルドグリーンの海を取り囲む。
海岸から百メートルほど先にはブイが浮いて、それに囲まれた穏やかな海にカラフルな浮き輪がちらほらと見える。
民宿に荷物を置いた僕たちは、すぐさま水着に着替えると、この広い砂浜にやってきた。
「綺麗ね~ お客さんも思ったほど多くないし、天気も最高!」
そう言うと小金井は、両手を大きく広げ深呼吸をする。
「でも部長、打ち合わせの時にあったバーベル上げとか布団を掛けての腹筋はしなくてもいいっすか?」
「ああ、今年はいいんだ。メニューは毎年進化するんだから!」
「単に~ 行き当たりばったりでやってるだけのような~」
「核心を突くなよ、大河内……」
笑顔でふざけ合いながら、僕らは民宿で借りたビーチチェアを並べる。
「しかし遅いわね、繭香ちゃんとあかねちゃん」
「少し遅れてくるって言ってたけど、もう来てもいいよね」
「まさか、民宿から来るのに迷子、とか!」
「まさか…… でも、月野君、探そう」
「はいっす!」
そして二,三歩歩くと、ふたりの姿はすぐに見つかった。
「先輩、あそこ……」
「何、あのふたり組の男」
二十メートルほど先、立花さんと深山さんがサングラスを掛けたふたりの男に挟まれていた。
「多分、ナンパされてるっす」
「行こう!」
僕と月野君は全力で駆け寄る。
「待ったかな?」
「あっちだよ、さあ行こう!」
僕は立花さんの手を、月野君が深山さんの手を取るとサングラスの男を無視して歩き出す。
「ちっ、男連れかよ!」
男達の舌打ちが聞こえる。
「先輩、ごめんなさい」
「あかね、足がすくんで動けなくて……」
「こっちこそ気が付かなくてごめん」
「怖かったね、もう大丈夫だよ」
僕と月野君の言葉に安堵するふたり。
ビーチチェアの近くまで歩いて行くと、小金井も寄ってくる。
「ふたりとも大丈夫だった? ああ言うときは無視して歩くのよ、止まっちゃダメよ」
「はい、弥生先輩、ごめんなさい」
「立ち止まったのはあかねなんです。ごめんなさい」
「しかし」
小金井は立花さんを見つめながら。
「なんかずるいわ。だいたいいつまで手を繋いでいるのよ、翔平くん」
「えっ!」
そう言えば、今、立花さんの柔らかい手の感触が……
次の瞬間、僕は慌てて彼女の手を放した。
「ごめん、咄嗟のことだったんで」
「いえ、先輩、嬉しかったです」
紫の地に花柄が可愛いビキニを着た立花さんが俯き加減にポツリと漏らす。
可愛い紐が結ばれた胸の谷間に目が釘付けになって、僕の心臓が高鳴り始める。
「なんかずるいわ。絶対ずるいわ」
黒のビキニにパレオを巻いた、赤毛のツインテール。
吊り目がちでも優しそうな小金井の瞳が僕を見つめて。
どっきん!
僕の心臓の二段目ブースターが噴火する。
「翔平くん、あたし今から砂浜を散歩してくる。困ってたら助けに来てよね!」
言うが早いか彼女は歩き出す。
「あっ、何言ってるん……」
十メートルほど歩いたところでいきなり声を掛けられる小金井。
「小金井先輩、凄いっすね。さすが松高のマドンナっす」
「えっ、そんな二つ名がついてるの?」
「知らないっすか? あと、立花さんは松高の姫様っす」
「なんだそれ。他にもいっぱいいそうだな、プリンセスとか王女様とか花子さんとか」
「そんなことより羽月部長、ほら!」
ふたり組の男に声を掛けられた小金井は、さっきの自分の忠告とは裏腹にその場に立ち止まって困った顔をしながら、チラチラとこちらの方を見ている。
「はあっ……」
小金井なら走って楽勝で逃げれらるだろうに。
僕は彼女の元に駆け寄ると男達に声を掛ける。
「すみません。彼女は僕の連れなんで。行こう!」
小金井は僕を見ながらも何故か動かない。もう、何してるんだ。
「ほらっ!」
彼女の手を取り引き寄せる。すると急に笑顔になる彼女。
「おいっ、どうして走って逃げなかったんだよ。さっきの深山さんは震えてたけど、小金井は堂々としたものじゃないか!」
「どうしてって、決まってるじゃない。翔平くんに助けて貰うため!」
僕らが元の場所に戻ると大河内が不満そうな顔をしている。
青いビキニに大きな胸をぶるんぶるんと揺らしながら口を開く。
「何となく~ ずるいです~」
「行くなよ大河内」
「だって~」
「じゃあ、今からポテチ喰うぞ!」
「わあいっ!」
一瞬で大河内の瞳が輝きを取り戻した。




