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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第八章 ロコドルの純情
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第8章 7話目

 科学館の建物前に準備された特設ステージは既に人でいっぱいだった。


「凄いな、メチャ人気だな」


 用意されていたパイプ椅子三百席ほどは満席。

 その周りに更に二百人ほどが立っていて。


「まだ開演二十分前だよな」

「最初の頃は、こんなに人気なかったのにね」


 小金井がポツリと漏らす。


「えっ、そうなのか?」

「うん、今日行ったデパートの屋上、去年あそこでやったときなんか椅子に座っていた観客は十一人だったもん。うち子供が六人。思わず数えちゃった」

「ふうん、小金井はそれ、見てたのか?」

「うん、十一人のうちのひとりだよ。凄いでしょ。地元物産展を見た時、偶然ね」

「貴重な経験だな」


 そう言いながら僕は周りの人を観察する。

 観客は若い男性と親子連れが目立つ。

 特に特徴的なのはカラフルなはっぴを着た人が多いこと。よく見るとはっぴには五種類あるようだ。赤、青、黄、ピンク、そしてオレンジ色。背中に名前が書いてある。


「あのはっぴ着てる人は熱烈なファンっす。応援するメンバーによって色が違うっす」


 僕が周りを珍しそうに見ているのに気が付いたのか、月野君が説明してくれる。

 なるほど、赤のはっぴの背にはゆかりん、青のはっぴの背にはななちゃんと言う風に、応援するメンバーの名前が入っていた。一番多い色は、オレンジかな?


「やっぱみかりんのファンは多いっすね」

「オレンジ色のはっぴを着てるのがみかりんのファンなのか?」

「そうっすよ、背中にみかりんってかいてあるっす」

「顔出しNGの着ぐるみアイドルが一番人気とは凄いな。しかしファンの人って小さな子供から大きなお兄さんまでホントに色々だよな。って、おやっ?」


 僕の斜め前方に見覚えがある顔があった。


「志賀先輩!」


 間違いない、志賀先輩だ。しかもオレンジのはっぴを羽織はおって。


「なあ、小金井、ほらあそこ。志賀先輩が来てる」


 小金井は僕が指差す方を見ると嬉しそうに。


「本当ね、終わったらご挨拶しましょ!」


 しかし、あの志賀先輩がロコドルの追っかけ?

 飄々ひょうひょうとしていて知的で僕が尊敬する志賀先輩が?


「うわあああ~」


 周囲がやかましくなり始めた。


「そろそろ始まるようです~」

「あかね見えないですっ! 羽月部長かたぐるましてくださいですっ!」

「えっ、いいの深山さん!」

「あかねったら何言ってるの。羽月先輩にかたぐるまして貰うのはわたしですっ」

「繭香ちゃん、どさくさに紛れて何言ってるの! 翔平くんはあたしを抱くのっ!」

「弥生さん~ いま脳内が激しく漏れましたよ~」


 何言ってるんだこの人達は。


「で、羽月さんは~ 誰を抱くんですか~」


 大河内まで参戦するなよ! 話も変わってるし!


「そういう時のために、これっす!」


 そう言うと月野君がどこからともなく踏み台を取り出す。


「さあ、乗ってくださいっす。ちゃんと四個あるっす」

「なあ月野君、それどこから出した?」

「折りたたみ式っすよ」


 色んな疑問が浮かんでくるが、「これ以上は聞くな」と月野君の目が訴えていた。


 ともかく。

 月野君が置いた踏み台に女性陣が乗ると声援が激しさを増した。


「みんな~ 今日も来てくれてありがと~!」


「うわあああああああああっ~!」

「み~かり~ん!」


 メンバーが一斉にステージに現れる。


「NZK49ersフォーティナイナーズで~す。オープニングナンバーはエンジョイフィートっ!」


 アップテンポなラテンのリズムに乗っていきなりヒートアップする会場。


「みんな~ 一緒に手拍子してね~ せーのっ!」


 みかんの着ぐるみを着たみかりんが、子供番組のお姉さんのように、子供に手拍子の見本を見せる。大きなアクションで、何度も、何度も。

 会場はすぐに盛り上がり、ライブは最初からクライマックスだ。


 オープニング曲が終わるとメンバーがひとりひとり自己紹介を始める。みんな高校生だそうだ。


「そして最後はわたし、名崎のマザーテレサこと、みかりんで~すっ!」

「先週はナイチンゲールだったぞ~」


 観客からのつっこみに笑いが起きる。

 って、今の声、志賀先輩?

 しかもこのパターン、最近聞いた記憶が……


「皆さ~ん、科学館の新しいプラネタリウムはもう見ましたか~! 星を見るだけじゃなく、世界を巡って、時代も遡るんですよ~」

「見たよ~ マーライオン出てた~」


 子供らしい声が。


「出てたよね~ マーライオンは『世界三大がっかり』のひとつとしても有名ですよね~ あとふたつはベルギーの小便小僧とデンマークの人魚の像ですけど、わたしはひとつも見たことがありませ~ん がっかりしてもいいから見てみたいな~っ!」


 みかりんは派手な動きもあってか、かなりうけている。


「これ知ってますか~ はい、そうです~ 星座早見表で~す。科学館の売店で特価だったので、貧乏なみかりんにも買えちゃえました~ 星座早見表には賞味期限がないからお買い得だったかな~ 今日は夜空の星座を見てみま~すっ そして!」


 みかりんがステージのセンターから下がると、他のメンバーが各々売店で買った商品の自慢を始める。こやつら科学館の売店とグルなのか?


「じゃあ、次の曲は、ザ・セプテンバーレインボー!」


 中庸ちゅうようなテンポながら、哀愁を帯びた凄く綺麗な旋律。

 やるな、49ers。

 みかりんは着ぐるみ着て派手なアクションでパーカッション叩いてる。

 歌ありお喋りあり寸劇ありで時間はあっと言う間に過ぎていく。


「昔は見ている子供さんをステージに上げたりしてたのよ。でも人気が出て今は無理ね」

「本当に楽しいステージだよな。間奏をメンバーがリコーダーで奏でるとか子供うけも凄くいいよな。なあ小金井、さっきから気になってるんだけど……」

「何?」

「みかりんって、どうして着ぐるみ着てるんだ?」

「人様に見て戴けるようなルックスじゃないって、本人は言ってるらしいわ」


「いや、ホントのところをさ。小金井知ってるんだろ。あとでいいからさ」

「……」


 ラストナンバー『マンボ・49ers』が始まる。

 激しいマンボのリズムに乗って僕らも最後までしっかり盛り上がった。


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