第8章 5話目
「面白かったわね」
「うん、凄く迫力あったっす」
「腹が立つほど、アベックが多かったです~」
やっぱり周囲全てがスクリーンというのは迫力がある。
プラネタリウムと言いながら、全天スクリーンを使ったビデオ映像をふんだんに使い、地球の歴史や星々の姿が360度に映し出された。本当にその世界に迷い込んだみたいに感じる臨場感。一時間のプログラムが凄く短く感じられた。
「被害者は道に迷って開館前のプラネタリウムに迷い込む、って話はどうっすか?」
「やめてくださいよ、月野さん!」
「でも、ムードがあってロマンスを演出できるよね、ここは」
「そうね、翔平くん!」
僕らはブラネタリウムを出ると売店に向かって歩いた。
売店は結構充実していて科学館に関する色々なグッズが売られている。
「あれっ?」
少し先を行くサングラスを掛けた人は生徒会長の青木先輩じゃ?
友達と一緒だけど、みんなサングラスを掛けていた。
友達は四人……
「なあ小金井、あれって青木先輩じゃないか?」
「えっ?」
小金井は僕の指差す方向を見ると突然腕を引き寄せた。
「そうだけど、違うわ。ねえ翔平くん、サングラスを掛けてる青木先輩は見なかったことにしてあげて」
「えっ、どうして?」
「どうしてもよ!」
納得できないけど、無言の圧力をかけられた。
ま、こんな曇った日に、しかも屋内でサングラスを掛けているなんて、何かの隠密行動なのだろうけど、小金井は仲がいいから知っているんだな。
何となく仲間外れにされたみたいで面白くない。
僕はぶつぶつ呟いてみた。
「ぶつぶつ……」
「ぶつぶつ言わないでよ」
「じゃあ、ぶちぶち……」
「ぶちぶち言わない!」
そんなことをしながら。
売店の手前まで歩いて行くと派手なポスターが目に飛び込んできた。
『NZK49ers スペシャルライブ イン 科学館!』
あの49ersのライブ告知だった。
ポスターを見ると、ライブは今日の夕方四時半から。
「なあ、みんな、一通り回った後で、このNZK49ersライブを見に来ないか?」
咄嗟に僕はみんなに提案した。
「えっ、翔平くん、49ersのファンなの?」
「いや、そうじゃないけどさ。僕たちの小説に使えるかもと思って」
僕たちが考えた新聞小説アイディアはもう一段の工夫を要求されている。
当然みんなにもその事は伝えてあるし、今日の重要な課題だ。
「なるほどね。止めないけど……」
珍しく小金井の歯切れが悪い。
「いいっすね、俺、見たいっす」
「あかねも見たいですっ」
「わたしも見たいですけど、いいですか、弥生先輩……」
「そうね、じゃあみんなで見ようか」
小金井は渋々のように肯いた。
* * *
「美味いっす! もう一個いくっす。俺、絶対元取るっす」
ここはケーキバイキングのお店『スイーツ・あり地獄』。
ひとり一千二百八十円でケーキ九十分食べ放題のお店だ。
「年甲斐もなくデパートの屋上ではしゃいだからお腹空いたっす」
「そうね、あたしも」
この店は去年オープンして、今、女子生徒の間で絶大な人気を誇っているらしい。
どうりで。
今年になってクラスの女子が片っ端から太ったわけだ。
目の前にはイチゴのショート、モンブラン、レアチーズと言った定番のケーキから、かぼちゃのワインケーキや不思議なピーチパイなどバラエティに富んだケーキがズラリと並ぶ。
「アップルパイ美味しいです~ 何個でもいけそうです~」
「佳奈、折角だから色んな味を楽しんだら?」
「次、8個目いくっす。頑張って元取るっす!」
ハイペースで飛ばす月野君。
爽やかなイケメンだけど、結構面白いヤツだ。
「でもさあ、元取るって、どう言うこと?」
「店に勝つってことっす。払った分以上のケーキを食べるっす」
「でも、千二百八十円でケーキって何個作れるんだろう?」
「聞いた話では20個以上は作れるらしいですっ」
いちごを頬張りながら深山さん。
「20個っすか!」
一瞬、戸惑いの表情を見せた月野君は、しかしもう一度気合いを入れ直す。
「漢・月野。一度決めたら負けないっす。もうドリンクは一切飲まないっす!」
「なあ、そこまでして食べたって楽しくないだろ」
「そうよ月野さん。お店にはちゃんと儲けさせてあげましょうよ。そしてわたしたちも楽しむ。それが理想じゃない?」
さすが立花さん。本屋さんを手伝っているだけはある。
「そうだよな。普通のお店でケーキ4個食べたら軽く千円超えるよな。だからそれでお互いハッピーじゃ」
と言いながら、僕も6個目のケーキに手を出す。
「いいえ、羽月部長。それでも俺は挑戦するっす! そこにケーキがある限り!」
「別に止めないけど。頑張ってね~」




