第8章 2話目
「翔平くん、遅かったじゃない」
「ああ、ちょっとね」
「どうせ奈々世先輩に絞られてたんでしょ!」
「どうしてそれを……」
「あたしと奈々世先輩は仲がいいの!」
そう言うと小金井は小さく嘆息する。
「ともかく、翔平くんがいない間に決めたからね」
「決めたって、何を?」
「リレー小説よ!」
「そうです~ 前回の作品は不完全燃焼の失敗作と認定されましたので、市中引き回しの上、廃棄処分となりました~」
「いちいち引き回すなよ」
「それで、新しいリレー小説の出だしを部長に書いて欲しいっす」
「別に構わないけど……」
「但し、その設定はこれよ!」
小金井は勝ち誇ったようにドヤ顔で白板を叩く。
★リレー小説 二期 設定資料
■葉山くん 【主人公】 かまぼこ研究会の部長
優しく頼りになる学園女子の憧れ でも超絶に鈍感
■金井さん 【メインヒロイン】 学園のアイドル
葉山くんの恋人 明るく優しく可愛い美人さん
■河内さん 【プリマドンナ】 学園のお姉さま
葉山くんのフィアンセ のんびり屋でボンキュボンな超美人
■立原さん 【唯一の攻略ルート】 幼なじみの魔法少女
葉山くんと相思相愛 可愛くって葉山くんひとすじ
■美山さん 【真のヒロイン】 両刀使い
謎の力でかまぼこ研究会を支配する マニアに絶大な支持を持つ
■日野くん 【主人公の執事】 学園一の美少年
葉山先輩は誰にも渡さないっす 超イケメン
「この設定に沿って物語を作ってね! ここまで考えてあげたんだから、あとは簡単よね!」
「いや、何も考えてくれない方が、ずっと簡単なんだが」
って言うか、この設定でどう言う話を書けってんだ。
そもそも『かまぼこ研究会』って何?
「ダメよ。みんな一生懸命考えたんだから、その願いを叶えるのが部長でしょ!」
「いや、それは何かが違う!」
僕は暫く白板と睨めっこをして。
「じゃあ、葉山くんは六股を掛ける鬼プレイボーイってキャラで進めるね」
「「「「「ダメです!」」」」」
瞬間で却下された。
「何だよ、みんな一斉に!」
「設定を見てよ。葉山くんは優しくて恋人の金井さんひとすじなのよ!」
「弥生さん~ 違うわよ~ 葉山くんはフィアンセひとすじです~」
「皆さん違いますっ! 葉山くんと相思相愛なのは立原さんですっ」
「支配者は美山さんですっ! 全ては美山さんの思い通りに進むですっ! 葉山さんは受けですっ!」
「はあっ!」
僕は大きく溜息をつく。
「週末までに言い争いが起きない、まともな設定に変えてくれよ」
「翔平くんがこの全てを満足すればいいのよ!」
「じゃあ葉山くんは六股を掛ける鬼イヤミなヤツ決定な」
「それはダメですっ」
「じゃあ、葉山くんは六つ子」
「六つ子って!」
「それじゃ、まるで犬ですっ……」
「じゃあ……」
僕はリレー小説用パソコンの前に座る。
「我が輩は犬である、名前は葉山、っと」
「し、仕方ないわね」
小金井が小さく嘆息する。
「分かったわ、考え直してあげるわ。でも諦めた訳じゃないんだからねっ!」
「わたしもですっ」
僕は少し笑顔でみんなを見て。
「じゃあ、リレー小説の件は振り出しに戻すとして、新聞小説について、ちょっと打ち合わせをさせてくれ」
そう言って話題を変えると有無を言わさず白板の設定を一気に消した。
そして先週の宮脇さんとの話の概要を書く。
★新聞連載小説について
■宮脇さんの要望
地元の魅力が伝わる小説
僕たちの(若い人の)視線で書いて欲しい
■毎週日曜掲載 三千字程度
三ヶ月程度の連載を予定
■作者名は『松院高等学校文芸部』
■余った収入で美少女キャラクターの抱き枕を購入(妃織たん)
決定事項はこんなところだけど、何か質問は?
「はーい。抱き枕購入は却下で~す。ポテチ購入で決定で~す」
そう言って小金井は立ち上がると、白板の内容を勝手に書き換えた。
うぐぐ。
でも、仕方ないか。死ぬほど残念だけど。
「先輩、ここに名崎新聞の日曜朝刊を持って来たんですけど」
立花さんが机の上に新聞の文化欄を広げた。
僕たちは身を乗り出してそれを見る。
「見ての通り、今連載中の小説って地元の歴史物なんです。だから新聞社の人の期待は、『地元・名崎の今』を書いて欲しいんじゃないかと思うんです」
「さすが繭香ちゃん、その通りだと思うわ」
「それともうひとつ」
立花さんは新聞小説の後ろに続く部分を指差す。
「この小説への感想を送るとプレゼントが当たるんです」
みんな目を凝らして新聞を見る。
「図書カード五百円分か作者先生の直筆サイン色紙の、いずれかひとつ、ですか」
「図書カードだな」
「俺もそう思うっす」
「異議なしですっ」
「いや、論点はそこじゃなくってですね!」
あきれ顔の立花さん。
代わって小金井が口を開く。
「でも、どうせプレゼントが当たるんなら、ってことでしょ」
「そっか、推理小説っす!」
「そうなんです、わたしも話の中に何かしらクイズになるものを織り交ぜたらどうかと思うんです」
さすが立花さん、ちゃんと考えてくれている。GJ!
「いいね、少し小説の方向性が見えてきたね。じゃあ、もう少し議論をしてみようか」
僕はまた白板の前に立つ。
★小説内容(案)
■推理小説
地元のおもしろスポットで起きる難事件を高校生探偵が解決する。
・くだらない事件がいい(殺人事件はパス)
トイレから戻ったら食べかけのケーキが忽然と消えた、とか。
・くだらない結末がいい(コメディか!)
実は隣の席に座っていた、とか。
・たまにはまともな事件にしようよ
少数意見のため激しくボツ
■主人公
某高校の文芸部員
・女の子 可愛い 胸大きい× → 小さい
・好きな食べ物 ポテチ
・いつも女の子四人組で事件に遭遇
■タイトル (案)
・いますぐ犯人に逮捕だっていいたい
・普通の女子高生が【たんてい】やってみた。
・ホシに寄りそう探偵の作法
「タイトル案の中に高校生として不適切な元ネタがひとつあるような……」
「部長、言わなきゃ誰にもバレないっすよ、美少女ゲーなんて」
最近、月野君と息があって嬉しい。
「あかねのお兄ちゃんもその美少女ゲーム持ってるですっ。あかねも一緒にやったですっ」
兄妹でエロゲやってるのか、深山家は!
「タイトルはともかく、この内容で明日からもっと具体的に考えましょう」
「はい、弥生先輩っ!」
みんなやる気満々だ。
「じゃあ、僕は宮脇さんに了解を取ってくるから。それと……」
みんなの顔を見回しながら。
「今週末に市内のおもしろスポットを実際に回って小説の具体的アイディアを考えたらと思うんだけど、どうだろう?」
「いいと思うわ、翔平くん!」
「はい、大賛成です、先輩!」
みんな頷いてくれる。
「じゃあ、今週の土曜日でいいかな?」
「「「「「ほ~い!」」」」」
ノリ軽いな。
「じゃ、それまでみんなでココがいいってスポットを調べてきてくれ」
「「「「「へ~い!」」」」」
ヘリウムより軽いヤツらだった。




