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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第七章 ローカル小説で行こう
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第7章 9話目

「最近ポテチの消費量がハンパじゃないよな……」


 学校帰り、立花書店へ向かいながら思わず呟く。

 先日ラノベの印税とやらが入ったので、財布に余裕はあるのだが。


 そんなことより地元紙、名崎新聞の連載小説の内容を考えないと。

 宮脇さんは地元の魅力を伝えたいって言ってたよな。

 僕らから見た地元の魅力って何だろう。


 名崎市は地方の中核都市だが、主要産業の重工業や水産業も思わしくなく人口は減少の一途だ。

 歴史ある街だから地元の魅力というと、どうしても歴史と伝統の話が多くなる。


 でも、宮脇さんが期待しているのは多分そんな話じゃない。

 じゃあどんな内容がいいのか……

 う~ん、難しいな。来週みんなで話し合おうかな。


 気が付くと立花書店はもう目の前だった。


          * * *


 お勧め本のコーナーには変わらず『ご主人様のお気に入り』が置かれている。

 最初は十冊近く置かれていたのに、残りはあと一冊。

 小さな本屋さんにしては凄く売れていると思う。


「いらっしゃいませっ!」


 店の中から立花さんの明るい声。

 その声に顔を上げる。


「あっ! たっ、立花さん?」


 ぴょこんと伸びた黒いウサミミ、細い首筋には蝶ネクタイ。

 胸元が強調された黒のレオタードからすらりと伸びる長い脚には網タイツ。

「先輩、ピーナッツいかがですかっ?」

 お茶目にくるりと身を翻すと、お尻にモフモフした真っ白なウサギのしっぽ。


 ズバキュ~ン


 瞬間破壊された。

 心臓には矢が三本、思考回路はショートして爆発、視線も体の自由も奪い取られて言葉すら出てこない。


「あ、ば、ば、ば、ばに、ばに、ばに、ばに、ばに…………」

「はいっ、バニーガールですっ!」


 くりっと大きな瞳を輝かせて、大輪の笑顔を咲かせる立花さん。


「な、な、な、な、な、な、な、な、なぜ、なぜ…………」


 バニーガールは見たら分かるけど。

 何故にバニーガールがここに。

 街はずれの本屋のレジから何故こんなに綺麗なバニーガールが現れるんだ!


「先輩、そんなに緊張しないでください。わたしだって凄く緊張しています。胸だってドキドキときめいて止まらないんですから……」

「えっ?」

「わたしだって恥ずかしいんですよ、この格好」


 彼女の言葉に僕は少し落ち着けた。


「じゃ、じゃあ、何故バニーガールの格好を……」

「えっと、プレイガイ特別版が一冊販売できた特別記念企画ですっ!」


 なるほど。

 あの雑誌をめくるとブロンド美女のバニーガールが見開きで迫ってきたけど。


「一冊売れただけで特別企画が立ち上がるって凄いね」

「先輩、そこは軽く流すのがお約束です!」


 今、目の前にいるバニーガールはより可憐で、それでいてとても清楚だ。


「そう言えば、お勧めコーナーのコミックは凄く売れてるね」

「はいっ。あのコーナーはわたしが本当に面白いと思った本を置いているんですけど、結構信用して買って戴けるんです。と言っても数冊ですけどね」


「なるほどね、バニーちゃんのお勧めだもんね」

「先輩、バニーちゃんは先輩とわたしだけの秘密ですっ」

「あ、そうだった。秘密だったね。でも、こんなに可愛いのに独り占めって悪い気がするな」

「先輩っ!」


 立花さんの大きな瞳が更に大きく見開かれる。

 数瞬の後、彼女はおどけるように身を翻した。


「ピーナッツはいかがですか?」

「あっ、ありがとう」


 ガラスの器に盛られたピーナッツを二粒ばかり口に放り込む。


「もっと食べてください。お代は戴きませんから。うちは本屋ですから!」


 今までこの店で彼女の色んな姿を見てきた。

 黒ストのお姉さま、メイドさん、スク水、ビキニ、婦警さん、劇の衣装にナイトドレス。

 しかしバニーガールって、実物は一度も見たことがない。

 大体どこに行ったら見られるんだろう。それすら知らない。

 だからそれがどんなものか、ホントはよく知らないんだけど。


「じゃあピーナッツ、もう少し貰うよ。ありがとう」


 彼女よりこの衣装が似合う人は、いないと思う。


「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」


 しなやかな肢体が凛と伸び、折り目正し中にも妖しい色香が漂って。


「新聞の連載、頑張りましょうね。わたしもアイディア考えてきますね!」

「そうだね。宮脇さん、今日の新聞社の人だけど、彼は地元の魅力が伝わる小説を、僕らから見た魅力が見える小説を期待してるんだ」

「簡単そうで、きっと難しいですね」

「そうだね……」


 ふと目の前に並んでいる雑誌に目を落とす。


「あれっ?」


 NZK49ersフォーティナイナーズ

 僕は目に前にあったアイドルのファンブックのような冊子を手に取る。


「先輩、知ってるんですか? NZK49ersフォーティナイナーズ

「いや、知らない。誰なの?」

「地元、名崎市の公認ロコドルですよ。去年結成されたんです」

「ロコドルってローカルアイドル?」

「そうです」


 知らなかった。そんなのがいたんだ。


「メンバーが四十九人もいるの?」

「違いますよ。1849年のゴールドラッシュのように、たくさんの観光客を地元に呼び寄せたいって付けた名前だそうです」

「なるほど、名崎市は観光も有力な収入源だもんな」


「ちなみに、メンバーは4.9人です」

「何その小数点以下?」

「5人いるんですけど、ひとりだけ、顔出しNGなメンバーがいるんです。だからその人だけ0.9人」

「アイドル舐めてるな!」

「ロコドルです」


 なるほど、表紙を見ると四人の可愛い女の子に並んで、みかんの着ぐるみが立っている。


「そのみかんの着ぐるみが『みかりん』です。歌がすごく上手いんですよ!」

「これってどう見ても、ゆるキャラじゃん!」

「いいえ、みかりんもロコドルなんです。ちゃんとアイドルしてるんです!」


 理解出来なかった。


 ぱらぱらとページをめくる。

 メンバーの写真やプロフィールは勿論、地元の色んな場所で開催されたライブやイベントの様子が目に飛び込んでくる。


「元々、市の観光協会が発起した地域密着のユニットらしいんです」


 なるほど、市も色々頑張ってるんだな。

 でもこれ、宮脇さんが期待してる地元の魅力を伝えるって部分は同じなんじゃ……


「今日はこの本を買うよ、『NZK49ers ビジュアルブック』を頂戴」

「えっ、何も無理に買って戴かなくてもいいんですよ」

「いや、僕も地元の魅力について色々勉強したいなって思ってね」

「さすがは先輩です。では、『NZK49ers ビジュアルブック』一点で二千円丁度になります」


 立花さんが何か期待に満ちた瞳を僕に向ける。


「はい、じゃあ二千円……」


 あれっ、いつも置かれている釣り銭受けのトレーがない。


「先輩、ここに……」


 頬を染めて胸を突き出す立花さん。


「……?」

「…………」


 谷間がハッキリ見えるレオタードの胸を更に突き出す彼女。


「?」

「先輩、千円貸して戴けますか?」


 彼女は僕の手から千円札を一枚を抜き取ると、それを丸める。

 そして、自分の白く滑らかな胸の谷間に差し込んだ。


「先輩、あと千円です」


 これは、僕に千円札を胸の谷間に突っ込めと!

 小ぶりながら形のよい胸が黒いレオタードに寄せられて綺麗な谷間を作って。

 じっと動かず恥ずかしそうに目を伏せる立花さん。


「せんぱい……」


 僕は千円札を丸めて、そして、そして…………


「ありがとうございますっ。二千円ちょうど頂戴します!」


 頬を染め、笑顔とも安堵とも取れる表情を浮かべる彼女。


「男の人はこういうのが好き、なんですよね?」


 いや、それはエロオヤジだけのような。


「でも、ごめんなさい。こんな貧相な胸で……」

「何言ってるの! 最高だよ! 嬉しいに決まってるよ! こちらこそ、その、ごちそうさま」

「はいっ、先輩ありがとうございますっ」


 立花さんは端正な顔を上げると大きな瞳を見開いて破顔した。


「では、レシートと商品です」


 僕は彼女からそれらを受け取る。


「じゃあ、家に帰ってロコドルについて勉強をするよ」

「じゃあ、わたしもロコドルの練習をしますっ」

「……?」


 今、練習って言った?

 夢見るお年頃なんだろうか。

 ま、いいや。


 僕は可憐なバニーガールの笑顔を脳裏に連写しながら彼女に背中を向け歩き出す。


「毎度お買い上げありがとうございましたっ。またお待ちしていますっ!」



 第七章 完


 これにて第七章は完結です。ご愛読本当に感謝です。


 文芸部の日常と彼らの頑張りが伝わったら嬉しいです。

 ところで。

 最近書いていて桜子ちゃんが可愛くて仕方ありません。

 最初はちょっとした便利役で出したんですけど。

 ええ、出来心で作ったキャラクターなんです。

 ごめんね桜子ちゃん。

 でも、そう簡単には小倉くんとくっつけてあげないんだからねっ!


 だからねっ! と言えばツンデレ。

 個人的に不思議なのですが、現実にツンデレっているのでしょうか?

 僕の周りにはいないんですけど。


 見た目はお高く「ツン」な人でも、デレる人は話した瞬間に普通になりますし。

 ツンな人は、大体永久にツンですね。

 すいません、どうでもいい話でした。


 さ~て、次回、第八章は?

 新聞連載小説のアイディアを探す文芸部員。

 活動的な彼らの前に、またまた何かが起こる予感。

 そして、セクシー路線で突き進んできた立花書店の謎企画にも異変発生か?

 どこまでやる気だ、繭香ちゃん!


 次号「ロコドルの純情(仮)」も何卒お楽しみに(はあと)。


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