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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第七章 ローカル小説で行こう
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第7章 8話目

「すう~ はあっ~……」


 校長室の前に立つと深呼吸をひとつ。

 こんなとき志賀先輩なら……

 部員は絶対に守り抜くはずだ。


「よしっ!」


 僕は意を決し、顔を上げる。


 トントン


 震える手で校長室のドアをノックする。


「二年F組の羽月です」

「入りなさい」

「失礼します……」


 僕は校長室の扉を開けると精一杯頭を下げる。


「この度は、すいませんでしたっ。でも今回の件は僕が強引に決定したことで……」

「羽月くん、何を言ってるんだい?」

「だから部員達にはなにも…… えっ?」


 恐る恐る顔を上げる。

 正面にある校長先生の席には誰もいなくて。

 少し横を見ると、応接テーブルに座った校長先生が怪訝けげんそうに僕を見ていた。


「あの、今日は……?」

「まあ、こちらに来て座りなさい」


 応接テーブルにはもうひとり、背広を着た男性が僕に背を向け座っている。


「はじめまして、かな?」


 男性は立ち上がると僕の方を向く。


「あっ、あなたは!」

「覚えていてくれたんだ」


 駅前の街角で『無鉄砲』を貰ってくれた人だ。


「はじめまして。わたしはこう言う者です」


 その中肉中背の、三十歳代後半くらいの男性は僕に名刺を差し出した。



  名崎新聞社

  本社編集部 文化担当

  デスク 宮脇一人



 地元紙の編集者さん?


「は、はじめまして。羽月翔平です。昨日はありがとうございました」

「まあ、ともかく座りましょうか」


 僕は校長先生の隣に座る。

 目の前の宮脇みやわきさんは笑顔で僕に新聞を差し出しながら。


「さっきの様子を見ると、驚かせてしまったようですね。でも、今日の話はきっといい話ですよ」

「いえ、僕の方こそ慌ててしまって……」


 目の前に『名崎新聞』を広げる宮脇さん。


「ところで羽月さんのお家ではどこの新聞を取っていますか?」

「すいません。四経新聞です」

「はははっ、いや大丈夫ですよ。実はね、うちの新聞では毎週日曜日の朝刊に連載小説を掲載しているのですが、次の連載を羽月さん、あなたの松高文芸部で書いて貰えないかと思っているのです」

「えっ!」


 いま、僕らに、新聞小説の連載を書かないかって、言った?


「あの同人誌、無鉄砲、でしたっけ。あれ読んでいて思ったんですよ。次は地元を舞台にした小説にしたいって。それも羽月さんのような若い人の視線で見た地元の魅力が描かれた小説をってね」

「あ…………」

「勿論、少しですけど原稿料も払いますよ。大体一話三千字で七千円くらいですけど」


 こんなにいい話があっていいのだろうか。


「どうでしょうか?」


 そんなの決まってる。どう答えよう。どういう風に言おう。


「はっ、はい。やります。いや、やらせてください、書かせてください。書きます、書くとき書けば書こう書きまくりますっ!」

「やっぱり元気ですね。昨日もそう思いましたよ。皆さん元気だなって」


 それまで黙って話を聞いていた校長先生が口を開いた。


「羽月くん、宮脇さんはね、君たちの同人誌の文章も気に入ってくれたそうだが、君たちの行動力も凄く褒めてくれたよ。かなり頑張っていたそうじゃないか」

「は、はあ、まあ、うちの部員達はみんな優秀なものでして……」


「ひやっほ~いったああああっ!」


 気のせいかな。

 さっきから校長室の扉の向こうが騒がしいような。


「じゃあ、まずは小説のあらすじを考えてもらえますか。今の連載はあと一ヶ月ちょっとで終了します。ちょっと急ですけど皆さんなら大丈夫でしょう。期待していますから」

「はい、全然問題ありません。すぐにあらすじ決めてご相談に伺いますっ!」


 僕は今後の段取りの話をしたあと、校長先生と一緒に宮脇さんを学校の正門まで見送りに行った。


「ところで広告はちゃんと取れましたか?」

「それが恥ずかしながら、目標の60%と言ったところでして」

「いや、この不景気な中で立派じゃないですか」


 宮脇さんは僕をひとりの大人として扱ってくれている、そんな感じがする。

 期待に応えないと。うん、やるぞ!


 正門前まで行くと何やら見慣れた一団が直立不動で横一列に並んでいた。


「なんだお前ら!」


 思わず声が漏れる。


「せーの……」


「「「「「ありがとうございました!」」」」」


 小金井の音頭で大河内、立花さん、深山さん、それに月野君が一斉に頭を下げた。


「文芸部の皆さん、わざわざありがとう。宜しく頼みますね」


 笑顔を残して宮脇さんが去っていくと、校長先生はポンと僕の肩を叩いた。

 そして他の部員にも聞こえるような大きな声でこう言った。


「大変期待されているね。頑張りなさい」


          * * *


「お前ら、校長室を盗み聞きしてただろ!」

「当然でしょ! 心配したんだから! でもよかった。これでタンタンたぬきの一挙解決じゃないの、翔平くん!」

「弥生先輩、タンタンたぬきはビー玉です!」

「違うよ繭香。タンタンたぬきは銀玉だよっ」

「あかねさん~ 違いますよ~ タンタンたぬきはきんた……」


「もういいからっ!」


「まあ、そんな真面目な事言わないで、先輩もポテチ被りましょう!」

「凄いっす。ポテチの掛け合いなんて初めて経験するっす!」

「僕も背中にポテチ突っ込まれるの、初めてだ……」

「食べてもいいのよ~!」

「ひやっほ~い!」


 文芸部室はポテチ吹雪が舞う、狂乱の祝勝会場と化していた。


 名崎新聞への連載小説掲載はそれ自体大変名誉なことだが、同時に『埠頭』発行費用不足の問題も解決していた。連載開始から埠頭発行まで二ヶ月弱。その間の原稿料は捕らぬ狸のきんた●……、もとい、捕らぬ狸の皮算用だが四万円以上だ。広告代と合わせると不足分を補って余りある。


「原稿料で『おにたい』妃織ちゃんのフィギュア買うっす!」

「月野君、意見が一致したな! でも抱き枕も捨てがたい!」


 こう言う時、他に男子部員がいると意見の一致をみて凄く楽しい。


「ふへへへ…… 毎週七千円でポテチが87袋買える。つまり毎日17袋……」


 電卓片手によだれを垂らす小金井。


「あかね、新しいぬいぐるみを買いたいですっ! セバスチャンのぬいぐるみが欲しいですっ!」


 何、そのセバスチャンのぬいぐるみって!


「ビーカーとフラスコと、アルコールランプもお忘れなく~」


 大河内、何を作るつもりだ?


「先輩、よかったです、よかったです!」

「ああ、広告を取るアイディアを出した立花さんのお陰だね」

「違います。プラカードとハチ公持参を英断した先輩のお手柄ですっ!」


 褒められてるのか微妙だな。


「……ま、みんなのお手柄だね」

「そう、ですね。ところで先輩、今日あたり本を買いたいとか……」

「そうだね、今日の帰りに寄ってもいいかな」

「はいっ!」


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