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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第七章 ローカル小説で行こう
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第7章 6話目

「お願いします、絶対面白い本にします!」

「今年は地元密着型の小説特集です。こんな感じです。この同人誌を差し上げますので是非ご検討くださいっ!」

「表紙の裏で、四分の一ページ五千円です。こんなデザインなんかどうでしょう! 『バンドやるなら日の出楽器』ってコピーで、ここに電話番号を載せて……」


 僕たちは広告のひな形を幾つか準備して、お店の人に提案していった。


「はいっ! ご予約ありがとうございます! 発行は九月末です。またその前にお伺いしますねっ!」


「翔平くん、読みいいわね。ホントにスカートの中が丸見えだわ!」


 嬉しさのあまり階段の上で思いっきり頭を下げる立花さんと深山さん。


「いいカット一枚戴きました~ 羽月さんも要りますか~」 

「欲しいけど、諦める!」

「言葉が正直ですね~」


 僕たちは一軒一軒商店街のお店に入ってお願いして回った。


「チェーン店は厳しいね、個人経営のお店に絞ろう!」

「そうっすね、そもそも店長いなかったりしますしね」

「お酒を出すお店もダメね。あたし達高校生だからね」


 商店街のお店に飛び込んでは去年の本を見せ、『無鉄砲』の最新刊を渡して広告の出稿をお願いする。


 けれども。


「あっ、繭香ちゃん。今日は何の用かしら?」

「はいっ、実は松院高校の文芸部で秋に同人誌を発行するのですが……」


 立花書店の繋がりで、彼女が紹介してくれたお店は、少なくとも愛想はよかった。

 それでも広告が取れるのは半分以下。


「ごめんね、繭香ちゃん。うちも厳しいから……」


 立花書店にとっても相手は『お客さん』だ。強くは言えない。


「そういうの興味ねえから」


「残念だけど、うちのお客は高校生じゃないからねえ」


 普通に飛び込んでも、けんもほろろに追い返されることがほとんどだ。

 もう四十軒以上回っただろうか。

 予想はしていたけど、なかなか厳しい。


「明日は駅前に行ってみよう!」


「「「「「はいっ」」」」」


 そして。

 翌日も僕らは広告を取るために頭を下げて回った。


「わあ~っ、大きなくまさんだ!」

「ハチ公って書いてあるよっ!」


 くまのハチ公は通りを歩く子供達に大人気。

 深山さんが作った『文芸部応援団長・ハチ公』と書かれたピンクのタスキが目を引く。

 巨大なプラカードも相まって僕たちの注目度は抜群だったが。


「ダメだったわ。翔平くん、次、あそこのうどん屋さんにいきましょ!」

「わかった。深山さんも行こう!」


 表紙の裏は四分の一ページで五千円。

 この四面は埋まりそうだった。

 しかし、それ以外のページは人気がなく全くダメだ。


「小説の途中とか、巻末は全然人気ないわね」

「そうですね、その分安くしてるんですけどね……」


 現実は厳しかった。


「ダメで元々だよ。何とかなるって」

「そうね、広告出してくれなくても、皆さん結構好意的よね。さっきも頑張りなさいって応援されたし」

「そうですっ。ファイトですっ!」


 うどん屋に向かいながら小金井と深山さんが力強く前を向く。

 今日も既に三十軒以上回っているけど、本当にみんな頑張ってくれる。


「次よ次。次はあの金物屋さん!」


 もう日が沈む。


「羽月先輩、あの路地裏にある喫茶店、まだ行ってません」

「ああ本当だ、行ってみよう」


 五万円分の広告を取るのがこんなに大変だとは。

 それでもみんな頑張って店を回る。


「羽月部長、麻雀屋さんはダメっすか?」

「ダメだろうな、さすがに……」

「お金がないんなら、『お金のこと、何でも相談してください』ってお店があったですっ」

「深山さん、それ、消費者金融だから」


「羽月さん~ そろそろメイド喫茶がオープンしているかと~」

「そうだった、あっちのビルの二階だよな。行ってみよう」

「私も行くですっ!」

「翔平くん、あたしもっ」

「興味あります、先輩!」

「俺もっす!」


 興味本位から、みんな一緒にメイド喫茶へ向かった。


 カランカランカラン……


「お帰りなさいませっ、ご主人様っ、お嬢さまっ!」


 ヒラヒラの正統派メイド服を身に纏ったメイドさんがふたり、僕らを迎え入れる。

 この辺りにメイド喫茶はこの一軒。僕も入るのは初めてだ。


「あのっ、僕らは客じゃなくってですね、店長さんいますか?」

「あっ、はい、分かりましたっ」


 ひとりのメイドさんが店の奥に駆けていく。


「店長~、バイトの面接の人たちです~!」


 いや、違うけど。


「あっ、その制服は松高の生徒さん! さあさあ、こちらへ!」


 店の奥から出て来た人は子供向けアニメ『うりゃ魔女ドミソ』のお面を付けた男の人だった。

 有無を言わさず店の奥へ案内される。


「あの、僕たちはバイトの面接に来たんじゃなくって、この文芸同人誌に広告を出して貰えないかと……」

「あ、そうなの」


 店長を名乗る『うりゃ魔女のお面の人』は、お面を付けたままで同人誌をめくる。

 恥ずかしがり屋か何かだろうか?

 僕は出稿場所とその価格などを説明していく。


「分かった。一カ所出してあげるから、九月の発行前にまたおいで。売れ残った場所でいいから」

「えっ、それでいいんですか! ご要望とかは?」

「あなたたちの都合のいいところでいいよ。ところで……」


 うりゃ魔女のお面を付けた店長は僕らを見回す。


「あなたたち、うちの店でバイトしない? 絶対人気出るよ。時給もはずむよ」

「えっと、失礼ですけど、人材難、とか?」

「違うよ。ただ、お嬢さま方がみんな凄く可愛いからね」


 口説かれていた。


「ごめんなさい。あたしたち、今バイトは探してないので。ご縁があったらその時は是非お願いします」


 小金井が音頭を取って女性部員が一斉に頭を下げる。


「う~ん残念、まあ仕方ないか。いずれにしても広告は出してあげるから、発行前にいらっしゃいよ」

「ありがとうございます!」


 僕らは何度も頭を下げて店を出た。


「いい店長さんね」

「でも、あのお面は何だったのでしょう?」

「夢を売る商売だからとか言ってたっすよね」

「あかね、あの店長さん好きですっ、優しくて涙が出そうになったですっ!」


 しかし。

 それからはみんな玉砕の連続。

 結局、広告を出してくれたお店はメイド喫茶が最後となった。

 あそこで運を使い果たしたか。


「はあっ!」


 正直、疲れた。

 僕らは通りの角に集まって腰を下ろした。


「はあっ。なかなかうまくいかないっすね」

「そうね。ねえ翔平くん、予約いくら取れた?」

「えっと、三万二千円かな」

「目標の五万円には全然足りませんね~ どうしましょう~」

「正直、大善戦じゃないかな。僕らの行きつけのお店とかがある訳じゃないしさ」

「でも、どんなに善戦しても、一円でも足りなきゃ意味ないでしょ」

「そうですよね。ごめんなさい、わたしが言い出したのに……」

「繭香ちゃんは悪くないわよ。他に手はなかっんだから」


「でも、裏表紙の裏面の広告代ってその中に入ってないっすよね」

「ああ、月野君は知らないよな。今までの常連さんからは発行後、冊子と引き替えにお金を貰うんだ。それにその収入は秋の高校交流会に使うから」

「そうっすか……」


 現実を突きつけられ、完全に日が沈んだ街角で肩を落とす。

 可能性がありそうなお店は、もうほとんど回った。


「ねえ、どうするの翔平くん?」

「正直、困ったな。少し考えさせてくれ」


 明日からも場所を変えて継続しようか。

 無駄な気もするが……


 と、足音が近づいて来た。


「ねえ、君たち、同人誌の広告を取っていた人たちだよね」


 その声に顔を上げると、背広を着た男性が立っていた。年の頃なら三十歳代後半か。


「松高の生徒さんだよね。さっき配っていた同人誌を一部、僕にも貰えないかな」

「あっ、これですか? どうぞ、是非読んでください」


 僕は立ち上がると、そのサラリーマン風の男性に『無鉄砲』を差し出した。


「僕、好きなんだよ、こう言うの。読ませて貰うね。じゃあ、みんな頑張ってね!」


「「「「「はいっ!」」」」」


 男性が立ち去ると僕はみんなに声を掛けた。


「今ので『無鉄砲』も終了だ。今日は帰ろう」


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