第7章 5話目
学校帰り。
明日の下見も兼ね、ふらふらと日の出商店街を歩いていた。
スーパー、レストラン、ハンバーガーショップ、喫茶店に花屋にドラッグショップ。
地方都市である名崎市でも3番手辺りの商店街。一通りの物は揃うけど5分もあれば通り抜ける規模。買い物のピークは過ぎたのか、商店街は人もまばらだった。
「よう、羽月じゃないか!」
肩を叩かれた。
「志賀部長!」
振り向くと去年の文芸部部長、志賀先輩が笑いながら立っている。
「何を言う。今の部長は羽月だろう。久しぶりだな」
「お久しぶりです。先輩、大学の帰りですか?」
「まあ、そうだな。これから合コンってヤツに行くんだけど、まだちょっと時間があって。そうだ羽月、コーヒーでもどうだ」
「はい、ありがとうございます」
志賀先輩は僕の大好きな先輩だ。ふたつ返事でお供した。
階段を上った、雑居ビルの二階にある小綺麗な喫茶店。
窓際に座ると商店街の往来がよく見えた。
「先輩、合コンって、女の人との集団お見合いですよね」
「ははっ。そんな堅いもんじゃないさ。同じ学生同士で会話を楽しむだけ。ただ、その男女比が一対一ってだけだよ」
志賀先輩はコーヒーカップを傾ける。
「先輩もそう言うのって好きなんですか?」
「正直、僕は好きじゃない」
「王様ゲームとか下ネタ一発芸とか、いきなり脱いだりとかするからですか?」
「それはマンガの見過ぎだよ」
「じゃあ、既に意中の人がいるから、とか?」
「そこは想像に任せるよ」
否定もせずに鷹揚に笑う志賀先輩。
なんか、どっしりとして安心感があるんだよな。僕もこんな人になりたいな。
「ところで、先輩」
僕は心配事を聞いて貰おうと思った。
「『埠頭』の事なんですけど……」
予算がなくて『埠頭』の発行がピンチな事、文芸部とラノベ部の仲が思わしくないこと、僕は全て包み隠さず吐露した。
「で、もしかしたら今まで先輩達が築いてきた伝統が僕のせいで途絶えるかも知れないんです。毎年、部員達の想いを乗せて世に出してきた伝統を……」
僕は今一番心配していることを、昨日の夜なかなか眠れなかった原因を正直にぶつける。
「はっはっは。そんなことはどうでもいいじゃないか!」
志賀先輩は僕の心配を、いとも簡単に笑い飛ばした。
「伝統なんて守るためにある訳じゃない、君たちのためにあるんだから。羽月が最善だと思うようにやればいいんだよ。お手製でも廃止でも、同人マンガと合同でも、羽月が納得できればそれでいいさ」
「でも……」
「埠頭が二十七号まで続いているのは、代々の判断の結果に過ぎない。羽月は、羽月が最善と思う判断をすればいい。僕らの先輩もきっとそう思ってるよ」
「そう言って貰うと気が楽になります」
「いや、真実そうさ。その点、ラノベ部との分裂は最善と思ってしたことじゃない。だから僕は後悔しているし、こうして羽月にも迷惑を掛けている。僕は最低の部長さ。だから僕を反面教師にしてくれ」
「何言ってるんですか、先輩!」
「ごめん。なんか湿っぽくなったな」
先輩は残ったコーヒーを一気に飲み干した。
* * *
翌日。
梅雨だと言うのに見事な晴天。
放課後の文芸部には部員が勢揃いしていた。
「じゃあ、今から日の出商店街並びに駅前の商店から広告を取りまくる、クライアント獲得大作戦、コードネーム『埠頭を渡る金』を決行する!」
パチパチパチパチ!
「でも翔平くん、本気でその文芸部のプラカードを商店街に持ち込むの?」
「やるよ、徹底的にやろうよ!」
「それじゃ、スカートの下は体操着を着用って、なぜ?」
「パンチラも辞さない!」
「翔平くん、キャラ崩壊してない?」
「後悔はしたくない。ハチ公も連れて行く!」
「いや、逆に後悔するかもよ?」
「わたしはそんな羽月先輩も嫌いじゃありません、と言うか、嫌いの反対です!」
「どさくさに紛れて何言ってるの、繭香ちゃん、あたしだって!」
「じゃあ佳奈も~ 胸ポロリの準備を~」
「ひとり何の準備をしてるんだよ、大河内!」
「部長、こっそり背が高くなる踏み台も持って行くっす! 三十センチアップっす」
「いらんわ!」
僕たちは『無鉄砲』の在庫も全て持ち、商店街へ向かった。




