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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第七章 ローカル小説で行こう
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第7章 4話目

 方針も決まり、一段落ついて。


「あの、羽月部長。話は変わりますけど、リレー小説書いたですっ。次、羽月部長書いて下さいですっ!」


 深山さんが嬉しそうに僕を見る。


「さすが早いね、深山さん。でも、月野君は?」

「えっと、入部したてなので、部長にお手本を見せて貰いたいそうですっ」

「すみません先輩、俺、一回パスで勉強させてくださいっす」


 プレッシャー掛けてるな。


「分かった、じゃあ、ちょっと読ませてよ」


 僕はリレー小説用パソコンの前に座った。

 みんなが息を殺して僕の反応を伺っているような気がする……

 僕はこれまでのリレー小説を思い返した。


 高飛車なヒロイン・春宮さんに想われる主人公、葉山くん。

 しかし、小金井が書いたパートで突然現れた「金井さん」が葉山くんと急接近していた。


 僕はその続き、大河内が書いたパートから目を通す。


          ● ● ●


「じゃあ一緒に行こうね、葉山くん!」

 葉山くんは金井さんに案内されてパフェが美味しいお店『喫茶ぽろりん』に向かった。

 途中、ふたりを呼ぶ声がする。


「葉山くん~ 金井さん~!」


 振り返ると金井さんのクラスメイト、河内かわちさんだった。

 大きな胸を揺らしながら手を振って駆けてくる。


「あ、河内さんだ! 河内さんも一緒に行かない?」

 金井さんは河内さんも喫茶店に誘った。


「勿論行くわよ~」


 河内さんは男性にも女性にも人気抜群な女の子。

 金井さんも葉山くんのこと、河内さんになら負けても仕方がないと思っている。


「河内さん、腕組んでいい、かな?」

「勿論です~」


 河内さんと腕を組んで歩く葉山くん。

 ふたりは金井さんの案内で喫茶ぽろりんに着いた。


「やっぱりこのお店で一番美味しいのは新鮮いちごパフェですね」

 みんなで新鮮いちごパフェを食べる。


「はい、あ~ん!」

「あ~ん…… うん、美味しいよ、河内さんっ!」

「葉山くんったら~ 次はいちごです~」


 見つめ合い、頬を染め合う葉山くんと河内さん。

 そんなふたりを見て、もっと応援しようと思う金井さんだった。


          ● ● ●


 金井さん、あっと言う間にヒロインの座から転落していた。

 代わって突然現れた河内さんが葉山くんとくっついた。


 と言うか、金井さん、あっさり身を引いて応援に回るなんて健気で不憫すぎ。

 このっ、葉山の浮気もの!


 僕は金井さんに同情しながら先を読んだ。

 次は立花さんが書いたパートだ。


          ● ● ●


 新鮮いちごパフェを堪能した葉山くんはふたりと別れ帰路についた。

 ふと目についたのは商店街のはずれにある小さなクレープ屋さん。


「凄くいい匂いがするな」


 運命の糸に引き寄せられるようにクレープ屋さんの前に立つ。


「いらっしゃいませ、こちらがメニューです!」

 凄く可愛い女の子。


「えっと、じゃあチョコバナナで」

「はいっ、すぐお作りしますねっ!」


 華麗な手さばきでクレープを焼く女の子。どこかで会ったことがあるような。


「あっ、貴女あなた立原たちはらさん!」

 中学の委員会活動で一緒だった立原さん。確か今は同じ高校の一年生のはず。


「はいっ、葉山先輩どうぞ。三二〇円です!」

 代金を支払うとクレープの甘い香りにたまらず一気にかぶりつく。


「美味しいっ!」


 こんな美味しいクレープ、いや、こんな美味しい物は産まれて初めて食べた。

 申し訳ないけどさっきのパフェなんか全然目じゃない。

 顔が勝手にほころんで、美味しい美味しいと声が出る。


「葉山先輩、ありがとうございますっ!」

「絶対また食べに来るからね!」

「はい先輩、お待ちしていますっ」


 その花開くような可憐な笑顔は葉山くんの脳裏にしっかり焼き付いた。


「絶対毎日通うからね。僕はこの誓いを絶対忘れないよ、立原さん!」


          ● ● ●


 哀れ、喫茶ぽろりん。

 街はずれのクレープ屋に自慢の新鮮いちごパフェが大敗を喫していた。


 それにしても葉山くん、浮気性すぎ。

 放課後に始まって、まだ家にも帰っていないのに、春宮さん、金井さん、河内さんを乗り換え、今は立原さんにご心酔とは。


 しかもこのクレープ屋、通う度にとんでもない企画をぶち上げてきそうで怖い。

 ただまあ、この調子でいくと立原さんもあっと言う間に次の女の子に取って代わられるんだろう。

 もう驚かないぞ。


 気合いを入れて、僕は深山さんが書いた最新章に目をやる。


          ● ● ●


「ただいま」


 アパートに着いた葉山くんは同室の日野ひのくんに声を掛ける。


「遅かったじゃないっすか、葉山先輩」


 台所で炒め物をしていた日野くんが玄関に走ってくる。

 赤毛で爽やかなイケメンの日野くんは葉山くんを見てパッと頬を染めた。


「うん、ちょっとクラスの女子と喫茶店に寄って来たから」

「葉山先輩…… まさか……」


「日野、僕を信じてくれ。女なんかに興味はないから。日野、お前だけだから」

「葉山先輩! 俺も先輩一筋っす。さあ、晩ご飯っす。俺が愛情を込めて作った手料理、堪能してくださいっす」


「ああ、ありがとう日野!」


          ● ● ●


 ごめん。驚いた。

 僕の予想の遙か斜め上空の大気圏外を飛んでいた。


 葉山くんに想いを寄せた春宮さん、金井さん、河内さん、立原さん、皆さんご愁傷様。

 葉山くん、この先君はどこ行くの?


 と言うか。


「このBLボーイズラブ展開、一体どうしよう……」

 思わず独り呟く。


 この薔薇の花園を一体どうしろと。

 続きをどう書けと。

 それにしても深山さんって、もしかして腐女子さん?


 僕はリレー小説の続きを必死で考えて。


「この混乱を収拾するには、もうあの手しかないよな。使いたくないけど……」


 意を決し、僕はキーボードに手を載せた。


          ● ● ●


「葉山くん、葉山くん!」


 わたしの声に葉山くんはハッと飛び起きた。


「もの凄くうなされていたわよ、悪い夢でも見たのかしら?」

「ああ、どうやらそうみたい……」

「疲れていたのね。でも折角このわたしが待っていてあげたんだから、今日こそ一緒に帰りなさいよね!」


 目覚めて机から顔を上げた葉山くんは、わたしを見ながら笑顔で頷いた。


「うん分かったよ。一緒に帰ろう、春宮さん」


          ● ● ●


 書き終えた僕が席を立つと、一斉に女子部員達がモニターの前に集結して。


 その日、彼女達は誰ひとり、僕と口を利いてはくれなかった。


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