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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第六章 魔法少女がついた嘘
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第6章 7話目

 今週も怒濤どとうの一週間だった。

 僕はこの数日間の出来事を思い返しながら立花書店へ向かっていた。


 まさか、あの時の女の子が立花さんだったなんて。

 でも、あの時僕は彼女とどんな話をしたのだろう。

 思い出せない。

 気になる。凄く気になる。


 気になると言えば。

 桜子。

 僕は桜子の事を思い出す。

 球技大会の日の夜、彼女が話した出来事を。


          * * *


「小倉くん、わたしのサンドウィッチ食べてくれなかった……」

「……」

「わたし、もう消えたい……」

 台所に立ったまま、桜子は唇を噛みしめていた。

「……椅子に座ろうか」

「……」


 彼女は何も言わず食卓に座るとゆっくり言葉を紡ぎ始める。


「球技大会ね、みんな頑張って、お昼ご飯の時も多くのチームが勝ち残っていて、盛り上がってたの。わたし、お昼は女友達と一緒だったけど、思い切って声を掛けたんだ」


 桜子は前方一メートルの何もない空間を見つめる。


「彼はハンドボールチームのみんなと一緒で、だからみんなに声を掛けた。他のみんなは喜んで食べてくれたよ。でも小倉くんは「僕は一回戦で負けたから、午後から試合があるヤツに分けてあげてよ」って言って……」


「彼のチームは残念だったんだ……」


「あのね、違うの。小倉くん凄かったんだよ! うちの男子ハンドボールチームはあまり運動得意じゃない子が集まってて、クラスの作戦だったんだけどね。でも小倉くんはハンドボールのキーパーに立候補したんだ。点さえやらなければ勝てるって。凄かったんだよ。優勝した一組相手にシュートを片っ端から止めて、ハッキリ言って実力差は凄かったから一方的に攻められて、ノーマークのシュートが乱れ飛んできて、サンドバック状態で。でも小倉くんは必死で止めたの。顔で受けても相手と交錯してもめげなくて。でも7対3で負けた」


 地味にかっこいいヤツだな、小倉くん。


「ハンドボールの応援したの、わたしだけだった。人気のサッカーと時間が重なってたからね。小倉くん喜んでくれたよ。羽月の応援でみんな頑張れたって。一組相手に3点も取れたって」


「いい雰囲気じゃないか、桜子!」


「だからハンドボールチームは全然残念そうじゃなかった。捨て駒なのに大善戦したって言ってた。だからみんな嬉しそうに食べてくれたよ。だけど小倉くんだけ食べてくれなかった……」


「それって素直に遠慮しているだけじゃないか?」

「他の男子は食べてくれたんだよ! それに……」

「それに?」


「わたしもね、彼、優しいから気を遣ったんだと思ったんだ。だから午後も頑張って、彼にいいとこ見せようって思って。女子バスケは優勝した。試合に勝ってみんな抱き合ってわたしすぐに小倉くんを捜したの。見ててくれたかなって探したの……」


「見てくれなかったんだ」


「違うよ。見ててくれた。小倉くんは町田まちださんを見てた。控えの選手の町田さんを見てた。コートの外から拍手していた町田さんを見てた。わたしすぐに町田さんをコートに呼んで、そして気が付いたの。最後の試合、彼女出てないって。わたし交代しようって言わなかったって」


「仕方ないじゃないか、桜子、ポイントゲッターだったんだろ」


「町田さんもバスケ好きだった。出たかったんじゃないかな。だからコートの外にいたんじゃないかな。小倉くん、わたしみたいな女は嫌いじゃないかな。わたし、軽蔑されたと思う。ねえ、そう思うよね。お兄ちゃんもそう思うよね!」


 それまで淡々と語っていた桜子の声が涙声に変わる。

 普通に考えると桜子は何も悪くない。交代は監督の仕事だ。チーム全体の合意だ。

 でも彼女は自分を責める。


「わたし、気が利かないよね。優しくないよね。得点王のことばかり頭にあって。いい気になっていたのかな?」

「大丈夫だよ、小倉くんは桜子を嫌ってなんていないよ」

「えっ?」

「絶対そうだよ。桜子の気持ちはきっと通じるよ」

「ホント? お兄ちゃんホント?」

「うん、絶対」


 根拠はないけど、無責任な発言だけど、その時僕はそんな気がした。


          * * *


 その日以降、目に見えて口数が減った桜子。

 でも昨日突然、今日の弁当を作るとか言い出して。

 何かいいことでもあったのかな。


「まあ、そう言うことにしておこう」


 独り呟くと、立花書店はもう目の前だった。


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