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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第六章 魔法少女がついた嘘
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第6章 6話目

 週末の土曜日。


 待ってもないのに運動会がやってきた。

 勝手にやればいいのに運動会がやってきた。

 少し曇っていたけれど、暑くもなければ寒くもない。

 スタートラインに向かう僕は、自分の名前を呼ばれた気がした。


「翔平く~ん、ファイトっ!」

「羽月先輩、がんばれ~」


 気のせいではなかった。

 何事かと声の方を見る。


「お、お前らなにやってんだ!」


 つい叫んでしまった。

 1年と2年の控えエリアの真ん中に、黄色い声を上げながら騒ぐ一団の姿。


 もはや部の看板となった『いつもニコニコ文芸部』のプラカードを振る大河内。

 タンバリンを頭上に掲げ打ち鳴らしている深山さん。

 黄色いボンボンを持ってチアガール宜しく踊っている小金井と立花さん。


「羽月部長~ 優勝です~!」

「頑張れ頑張れ、翔平くん!」


 急に体が熱くなり、顔が火照ほてって。

 周りを見回し頭から蒸気を噴き出す。


「やめろ~!」


 しかし僕の声など聞こえるはずもなく。


「位置について!」

 障害物パン食い競争が始まる。


「よーい……」

 こちとら駆けっこは苦手なんだ。一等なんて取ったことないし!


 バンッ!


 前を向き、走り出した。

 あんな応援されて、負けたら更に恥ずかしい。

 必死に網をくぐり平均台を駆け抜ける。


「行け~ 羽月先輩っ!」

「翔平く~ん」


 袋に入って両足跳び。

 最後にパンにかぶりつく。


「その調子~」

「部長~ ラストスパートです~!」


 青組のヤツが僕の少し前を走る。必死で追うけど向こうも必死だ。


「あと少し~」

「逆転して~」


 並び掛けたところがゴールだった。


「やったー!」

「翔平くんかっこいい~!」


 いや待て。

 運動会の脇役モブ達が繰り広げる障害パン食い競争で、しかも二着のヤツがかっこいいわけはない。恥ずかしい。勘弁してくれ!

 僕は応援団の方を見る。よく分からないけど、みんな抱き合って喜んでいるようだ。


「おもちゃにされたな」


 まあいい、楽しんでくれてるんだったら。

 取りあえず他人の振りをする僕だった。


 昼食時になると小金井と大河内に拉致され文芸部室で昼食を取ることに。

 まあ、文芸部の恒例なんだけど。


「はい羽月先輩、サンドウィッチです。食べてくださいっ!」


 だから立花さんと深山さんも一緒だ。


「繭香ちゃん、抜け駆けとか、抜きかけで放置プレイとかはいけないわ!」

「そんな、うらやまやましい事、まだしてません!」

「なので翔平くん、はい、おにぎり。日本人ならこめ、しないとね!」

「……ありがと」


 僕は右手に立花さんからサンドウィッチ、左手に小金井からおにぎりを貰うと、右手のものから口に入れる。


「あれっ? 翔平くん今日はやけに素直ね?」

「うん、立花さんのサンドウィッチは何度食べても絶品だね。本屋さんで売ったらどう? んぐんぐ…… それに、このおにぎりって今海苔を巻いたばかりだね、パリッとしていて、とても美味しい!」


「どうしたの? 去年は「自分の弁当があるから」って、何度頼んでも拒否して食べてくれなかったのに、こんなにあっさり食べてくれると、拍子抜けだわ」

「えっ、そうなんですか? 弥生先輩」

「そうよ。結局わたしのおにぎり、周りにいた男子がみんな食べちゃったんだから。せっかく翔平くんのために作ったのにね」


「……ごめん」

「えっ、翔平くん、今なんて言った?」

「何でもないよ! さあって、自分の弁当も食べないとね、妹に怒られる」

「えっ、そのお弁当って桜子ちゃんが作ったんですか?」

「うん、何でだろうね。急に作ってくれて。その代わり帰ったら感想を四百字程度にまとめて、まずに朗読しないといけないんだ」

「ははっ、厳しいですね」


 かくして。


 午後になって。

 最後の出番の騎馬戦も終わり、僕は自分の場所に戻ろうとしていた。


「羽月部長っ、こっちですっ!」

「羽月さん~ やりますよ~」


 深山さんと大河内に捕獲され、1年と2年の控えエリアの真ん中に連行される。


「はい、羽月さんはプラカード!」

 文芸部のプラカードを持たされる。

 深山さんはタンバリンを持ち、大河内は黄色いボンボンを持っている。


「ただいまより、女子選抜のリレーを行います」


 アナウンスが流れた。


「羽月さんが応援すると~ あのふたりが張り切ります~ HPヒットポイントアップです~」

「僕の正気度はダダ下がりだよ」


「部長、これは見物ですっ! 今日ふたつ目のヤマ場ですっ、ヤマがふたつでボインボインですっ!」

「何だか時代を感じる発言だね」


 気が付くとリレーはスタートしていた。松高の運動会は、赤、青、黄、緑の四チームに分けて得点を競う。だからリレーも四チーム。全学年混成のリレーだ。


「部長、見てて下さい、弥生先輩は赤、繭香は黄チームですっ!」

「ふたりともアンカーですから~ アンカーだけは二倍の四百メートル走るんです~」

「繭香は一年で一番速いんですっ、でも弥生先輩は学校一速いらしいですからっ」


 最終走者が走り出す。

 青チーム、緑チームの順にバトンが渡る。


「繭香~!」

 黄チームの立花さんは三位でスタート。

「弥生さん~!」

 赤チームの小金井はどん尻でバトンを受ける。


「ほら、羽月部長も応援ですっ!」

 深山さんと大河内は嬉しそうに大声を張り上げる。

 午前中の出来事を思い出した。


「じゃあ、僕もバカになるか!」


 そう呟くと僕は大声を張り上げる。


「負けたらポテチなしだぞ、ふたりとも~!」


 立花さんが二位に上がる。

「弥生さん~ もう少し~!」

 小金井も三位に上がる。

「繭香~ 負けたらポテチがないそうだよ~」

 立花さんがトップに立つ。

「弥生さん~ ポテチが待ってますよ~」

 小金井も二位い上がる。

「凄いな、あのふたり!」


 コーナーを回りながら立花さんがこっちを見た。

「手を振ってる場合じゃないですっ! 弥生先輩が迫ってますですっ!」


 さすがは小金井。

 最初あった十メートルくらいの差をはねのけ、立花さんに迫っていく。


「弥生さん~ 笑顔です~」

 手を振る小金井に笑顔まで要求する大河内。


「繭香~!」

「弥生さん~」

「どっちも頑張れ~!」


 わああっ~~!


 大歓声が巻き起こる。

 最後の直線、小金井が立花さんの背後に迫る。

 そして並び掛けたところで、ふたりゴールになだれ込んだ。


「部長、どっち勝ちましたっ?」

「わかりませんでしたね~」


 ゴールの方を見ると、ふたりは肩を組んで僕らに手を振っていた。


「どっちでもいいんじゃないか。ほら、手を振ってやろう」

「そうですねっ! 繭香っ!」

「弥生さん~!」


 僕も手を振りながら横にいるふたりに声を掛ける。


「部活の前にコンビニに行こう、ポテチを買いに」


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