第6章 3話目
放課後。
全体練習でお疲れモードだったけど、足が自動的に部室に向かう。
今日は僕が一番乗り。
早速パソコンに向かい、リレー小説オープニングの仕上げに入る。
「うん、オナーとしてはこれでいいだろう」
ひとり呟く。オナーって一文字入ると危ない響きだとひとり思う。
それはそうと。僕はもう一度出だしの部分を読み直す。
● ● ●
春宮多華子は成績優秀、スポーツ万能、当然美人でお金持ち。
だからみんなわたしに首ったけ。
そうよ、男はみんなわたしをチヤホヤするの。
わたしが歩けば男はみんな振り向くわ。
それなのに。
「葉山くん、一緒に帰ってあげてもいいわよ!」
「ごめん、今日もいつものヤツらと約束してるし、じゃあ」
どうしてわたしを無視するの!
「春宮さん、じゃあ僕と一緒に帰ろうよ!」
「俺が鞄を持つからさ」
「えっ、ずるいぞ山本、俺に持たせろ!」
このわたしが一緒に帰ろうって誘っているのよ!
他の男子には一度も言ったことがないのよ!
ありがたく一緒に帰りなさいよ!
「あれっ、春宮さん、どこ行くのっ」
「ねえ、俺が鞄持つからさあ!」
「だから山本出しゃばるなっ」
勉強だって普通のくせに。
運動だって普通のくせに。
貧乏なくせに。 絶対わたしを好きなくせに!
● ● ●
この話のミソは主人公が女性であること。
うちの部員って僕以外みんな女の子だから、語り部は女の子の方がいいよね。
まあ、ありきたりな設定だけど、ふたりに何が起きて、どんな展開が待っているのか。そこがリレー小説の醍醐味だし。
僕の予想としては春宮多華子にかっこいい男が次々寄ってきて、でも彼女は葉山くんが気になるって展開。女の子だったらそんな展開に持って行くよね。
「遅くなったわね、翔平くん」
小金井がやってくるなりポテチの袋を開ける。
「あっ、凄かったな、あのリレー!」
僕は予行練習のリレーの事を思い出す。
「あっ、見ててくれたんだ。でも、心配よね繭香ちゃん。あたしの目の前でバトン落として転ぶんだもん」
「らしいね。僕も気になったから昼休みに様子を見に行ったけど、ちょっと変だったな」
「でしょうねえ…… 香雅高とのテニスの時はあれだけイヤミを言われても前を向き続けた繭香ちゃんがね。一家離散とか、死神に取り憑かれて余命一日とか、明日地球に隕石が落下して破滅するのを予知能力で知ってしまったとか。一体何があったのかしら」
「想像力凄いね、悲惨な方向に……」
「そうかしら。でもあれは、夢も希望もありませんって感じよね」
「そうだね。う~ん、やっぱり。本人に聞いてみるしかないか」
「そうね、それがいいわ」
悩んでいても仕方がないよね。
「ところで小金井、リレー小説の第一話ができたんだけど、読んでみてよ」
「えっ、もうできたんだ。どれどれ……」
小金井がモニターを覗き込む。
やがて大河内と深山さんもやってきた。
「どう? 部員は女性ばっかりだから、女の子好みの設定にしてみたんだけど」
しかし。
そんな僕の自信はあっさりと打ち砕かれた。
「翔平くん、この設定って男好みだと思うよ。確かに主人公は女の子だけど、相手役が平凡な男子高校生って何よ! 逆でしょ逆!」
「逆って?」
「女の子の夢はね、平凡な女の子なのにイケメンで優しくてお金持ちの御曹司に気に入られ、一気にクライマックスなのよ。そうでしょ! 白馬に乗った王子様が、成績も運動神経も冴えない貧乏な高校生なんてあり得ないわよ!」
「言われてみればっ!」
僕としたことが。小金井が言うとおりだ。やっぱり僕は男。どうしても男の願望が出てしまうのか。男の欲求が出てしまうのか。男だから出てしまうのか!
「えっと、それ書き直すよ。うん、小金井が言うとおり失敗作だ」
「でも大丈夫よ。このまま続けましょう。二番手はあたしが書くね!」
どうやら小金井はすでに続きを書き始めているようだ。
「さすが小金井、やること早いな」
「へへっ、大胆に進めちゃうからね!」
僕はチラリとそのモニターを覗き見る。
● ● ●
そこに現れたのは隣のクラスの金井さん。
「葉山く~ん、あたしパフェが美味しいお店見つけたんだ。一緒に行きましょう!」
「あっ、金井さん! うん、勿論行くよ!」
金井さんを見つめる葉山くんの頬に朱がさした。
金井さんは美人でモテるのに気取らない性格の凄く優しい女の子だ。
「料理上手な金井さんが言うんだから、きっと美味しいんだね、そのお店」
きゃはっ! 昨日、葉山くんに渡したお弁当、美味しかったんだ!
● ● ●
いきなりライバル女子が登場して葉山くんとデキていた。
しかも、ヒロイン春宮さんの姿は影も形もない。
語り部までライバル女子に取って代わられているっぽい。
掟破りの、恐ろしいまでの急展開。
「なあ小金井、いきなり主人公の春宮さんはブッチされるのか?」
「当たり前よ! あたしの葉山くんをあんな高飛車なバカ女には任せられないわ!」
何だか、想定外の方向へリレー小説は急展開していた。
頑張れよ~、小説の中の葉山くん!
ガラガラッ
と、そんな事をしていると。
「遅くなりました……」
元気のない声で入ってきたのは立花さんだった。
昼休み持ち直したと思ったのに、やっぱり青ざめているような。
「繭香ちゃん、ポテチでも食べよ!」
「はい、ありがとうございます弥生先輩……」
引きつった笑顔を作りながら椅子に座る立花さん。
「今日はウーロン茶もあります~」
大河内も心配顔だ。
「じゃあ、わたしが皆さんの分を注ぎますね! 羽月先輩、ミルクとお砂糖は?」
「入れないよ!」
「ブラックですね。渋いです」
「それ、ウーロン茶だよ、立花さん!」
「じゃあレモン?」
ダメだ、何かがおかしい。
僕は思いきって何があったのか聞いてみることにした。
「ねえ、立花さん。昨日からヘンだよね。一体何があったの?」
「何がって、それは、その……」
立花さんの目が泳ぐ。
「あの、羽月先輩、昔の話ですけど……」
トントン!
「はいっ?」
深山さんがドアを開ける。
「あのっ、月野です!」
立っていたのはイケメンシスターズの一年生、月野君だった。
僕は慌てて立ち上がると深山さんの前に立つ。
「何しに来たんだ、深山さんは文芸部を選んだよねっ!」
「いえ、今日はそんなつもりで来たんじゃありません。ごめんなさいっ」
「えっ?」




