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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第六章 魔法少女がついた嘘
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第6章 2話目

 翌朝、食堂に下りると妹の桜子がお弁当を作っていた。


「今日はね、学校の球技大会なの。ほら、お兄ちゃんもひとくち食べる?」


 手に持ったサンドウィッチを僕に差し出す。


「卵サンドだね、うん、はぐっ、もぐもぐんぐんぐ…… んまっ!」

「でしょっ!」


 卵焼きがだし巻きみたいで少し甘くて。パンもいつもの食パンじゃなくて味がある。ともかく旨い。


「これって、もしかして!」

「そうよ、繭香先輩のレシピ。お兄ちゃんも食べたことあるんでしょ? どう桜子の作ったの。出来栄えは?」

「うん、凄く美味しい。立花さんのにも負けないよ」

「やったあ! よかった!」


 彼女は最近立花さんとよく連絡を取っているようだ。きっと僕が知らない間に会いに行ってレシピを教えて貰ったんだろう。

 嬉しそうに大量のサンドウィッチをバスケットに詰める桜子。


「しかし、そんなにたくさん食べきれるのか?」

「あっ、これはね、みんなに配るの」


 そう言いながら頬を染める。


「この前言ってた彼にも食べさせようってわけか?」

「えへへっ! 女子力アピールチャ~ンス!」


 自分が詰めたサンドウィッチを見ながら両手をぎゅっと握る桜子。


「小倉くん……」


 その横顔はいつもにも増して可愛く見えた。


          * * *


 昨日と違って、今日は快晴。時折そよぐ風が大変心地いい。

 よかったな桜子。球技大会には最高の天気だ。


 そう言う僕も午前中は運動会の全体練習がある日になっていた。

 ちなみに本番は今週末。


 教室に着くと体操服に着替えて校庭へ。

 予定のプログラムを駆け足でこなしていく。


 たいして運動が得意ではない僕の出場種目は、全体種目である組体操と騎馬戦、あとはパン食い競争だけだ。実行委員でもないし、暇な時間がいっぱいある。文芸誌『無鉄砲』の原稿案を考えながら、ぼうっとグラウンドを眺める。


「わああ~っ!」


 歓声がした。

 女子の選抜リレー、ひとりのランナーが前を走るランナーを一気に抜き去った。


「あっ、小金井!」

 彼女はそのままテープを切る。


「おい見たか、羽月。小金井凄いな、練習とは言え、一気に三人ごぼう抜きだよ!」

「ああ市山、あいつ足速いからな。中学時代は市の記録を持ってたらしいし」

「なるほど納得」


 聞いた話では彼女はやたら出番が多いらしい。まあ足が速いと当然か。


「あれっ?」

 最後にゴールに入ったのは、立花さん?


「あの子さあ、バトン落とした上に転んでたけど、大丈夫かな?」

「えっ、そうなの?」


 ゴールして、がっくりうな垂れて歩く立花さん。あんな姿って初めて見たような。


 今日はホントに過ごしやすい。

 組体操を終えてウェイティングのエリアに戻ると、時計は十一時を過ぎていた。

 予行練習もあと一時間で終わりだ。

 グラウンドでは一年生の百メートル走をやっている。

 僕は漠然とその様子を眺めていた。


「よーい」

 バンッ!


 みんな一斉にスタートする。

 って、あれっ? ひとりだけスタートしない子が。


「た、立花さんっ?」


 咄嗟とっさに叫んだが彼女はグラウンドの中。僕の声は聞こえるはずもない。

 スタートに出遅れた彼女は周囲をきょろきょろ見回して慌てて駆けだした。


「どうしたんだ?」


 ひとりだけ完全に取り残された彼女。それでもみるみる前との距離を縮めていく。


「がんばれっ!」


 僕の声援は聞こえるはずがない。しかし彼女は前を行く走者をひとり、またひとりと捕らえる。速い。そして三位まで着順を上げてゴールした。

 しかし、ゴールを過ぎるとがっくり肩を落とす彼女。


 大丈夫かな。そう言えば昨日具合が悪かったみたいだし、あとで様子を見に行こう。


          * * *


 昼食を終えると僕は一年A組の教室へ向かった。


「あっ、立花さんはいるかな? 羽月って言うけど」

 入り口にいた女子に声を掛ける。

「はい、ちょっと待ってください……」


 教室の中から声がする。

「繭香、また男の人だよ、羽月さんって人。繭香モテ過ぎだよ!」

「えっ、羽月先輩っ!」

 ガタッ! ガツッ! ドテッ!

「どうしたの繭香! 今日のドジっぷりはシャガデリックだよベイビー!」


 やがて。


「あっ、先輩ごめんなさい。やっぱりわたしってもうダメなんですよね。閻魔えんま様に舌を抜かれて、蜘蛛くもの糸が切れて、ハリセンの海に落ちるんですよね!」


 教室から出てきた彼女は勝手に取り乱していた。


「何言ってるの、立花さん?」

「あっ、ごめんなさい先輩。えっと、何かご用事、じゃなくって爪楊枝つまようじですか?」

 そう言うと彼女の手先に爪楊枝が現れる。新しいマジックだろうか。


「本当に大丈夫? 今日の予行練習でも転んだりしてたみたいだけど」

「あっ、先輩も見てたんですか! 恥ずかしいです。わ、わたしってダメな女ですよね。お釣りだけ貰って商品忘れて帰るような女ですよね。生きていてごめんなさい」


「体調悪いんだったら部活休んでもいいから。無理しないで」

「いえ、ご心配には遠く及びません。大丈夫です。絶望的に……」


 落ち着きなく視線を泳がせる彼女。少し話題を変えてみようか。


「そう言えばさ、桜子に卵サンドの作り方教えてくれたんだね。ありがとう」

「いえ、そんな。あっ、桜子ちゃんの球技大会って今日でしたよね」

「うん、嬉しそうに大量に作っていったよ」

「わあっ! うまくいくといいですよね。桜子ちゃんモテるから大丈夫でしょうけど」


 どこまで喋ってるんだろう、桜子のヤツ。


「そうみたいだね、この前ふたりから告白されたって言ってたし」

「えっ、ふたりだけですか? その十倍じゃないですか?」

「えっ、その十倍?」

「はい、聞いた話を総合すると、既に二十人くらいに告白されているはず……」

「そうなんだ!」


 隠してやがったな桜子。

 兄の僕より立花さんの方が十倍も情報量が多いとは。

 早速帰って突っつき倒してやろう。


「けど、問題は本命さんですよね。うまくいくといいですね」

「今頃卵サンドを配っている頃かな。あれ檄旨だったからきっと大丈夫だろう」

「だといいですね」


 気が付くと立花さんの表情はさっきと違い柔和になっていて。

 僕は少し安心する。


「じゃあ、ともかく無理はしないでね」

「あっ、先輩、わざわざ心配して戴いてありがとうございます!」


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