第5章 6話目
イケメンシスターズの背中をただ呆然と見送る僕たち。
みんな無言で、下を向いて。
やがて。
「悔しいわ……」
最初に口を開いたのは小金井だった。
「悔しいけど、あかねちゃんがついていったんじゃ……」
「わたし、何も出来なくて、ごめんなさいっ!」
「立花さんは何も悪くないです~ ほら、ハチ公をなでなでしてあげて~」
そう言う大河内も、反対の手でラノベサンドバックを連打している。
みんな悔しくて仕方がないのだ。僕だってそうだ。
このまま大事な仲間を奪い取られてしまうのか!
そんなの、そんなこと……
考えろ、考えるんだ。僕のピンク色の脳細胞!
「まだだ。まだ諦めない! 負けてたまるか!」
「……そうね。そうよね。さすが翔平くん、そう来なくちゃ」
「僕に考えがある……」
みんなが顔を上げ僕を見る。
「多分なんだけど、あの三人って同じ中学出身だよね。夢野も星野も岩谷中だろ、月野君も岩谷中じゃないかな、立花さん?」
「ええ、そうです、先輩」
「夢野も星野も中学時代はバスケ部だ。多分昔の先輩後輩の関係でみんな夢野の命令に従ってるんだよ」
「なるほど、可能性高いわね」
小金井が首肯しながら呟く。
「あのちびっ子部長がバスケ部で、得意技が『股下くぐり』だったってのは忘れたくても忘れられない話だわ」
夢野の有名な逸話だった。股下パスではない、股下くぐり、なのだ。
「きっと月野君もバスケ部だったんじゃないかな」
「そうかもね」
小金井がポテチを食べながら頷く。
「そうだとすると、星野と月野君が夢野を裏切るように仕向ければいいんだ」
「でも、星野さんや月野さんが裏切ったら、あかねは本当のことを知ってしまいませんか?」
立花さんが心配そうに聞いて来る。
「うん、そうなるね。でも、残酷だけど、そうするしかないと思うんだ。今のまま騙され続けるより、ずっといい」
「でしたら、普通に夢野先輩の事を話してみたら?」
「さっきの深山さんを見ていたよね。彼女は夢野が関わっていることを知っていてもなお、星野と月野君を信じてる。口で説得するだけじゃダメじゃないかな」
「そうですね。その通りですね」
悲しそうな表情を浮かべる立花さん。
僕は一呼吸置いてみんなの顔を見る。
「だから星野と月野君に本当のことを言わせる。彼らの化けの皮を剥ぐ。それが唯一の方法だと思う」
小金井のポテチを食べる手が止まる。
「なるほど。話は分かったわ。でも問題はその方法よね」
「向こうが色仕掛けで深山さんを誘惑したのなら、こちらも色仕掛けってどうかな」
「う~ん、その手は敵も想定済じゃないかしら」
「そうですね。月野さんが変なこと言ってました。『小金井・大河内・立花の三種混合ワクチンは接種済みだから、文芸部の女子は怖くないよ』って」
「これは~、免疫作られましたね~」
大河内はいつものようにマイペース。
「って、そんなワクチンがあるのかよ!」
「さあね」
小金井は呆れ果てたという声で。
「おおかた夢野が暗示にでも掛けたんでしょ。しかしそうなると方法は…………」
「…………」
「…………」
三人の視線がひとりに集中した。
「ここはやっぱり、彼女の出番ねっ!」
「誰だよ、彼女って!」
* * *
その日の夜。
ソファに座って明日のイメージトレーニングのため『男の娘アニメ』を見ていた僕の横に桜子がやってきた。
「お兄ちゃんもポテチ食べる?」
「おっ、ありがと」
「ちょっと話しても、いい?」
「うん。(ポリポリ)」
「あの、さ。前言ってた図書委員長の話だけどさ、伝説は本当だったよ」
「何? 伝説って」
「図書委員長はモテるって伝説……」
いつの間に伝説に昇華したんだ、その話。
僕はポテチの袋に手を突っ込みながら。
「おっ、桜子コクられたのか? 兄を差し置いてリア充爆走か?」
「そんないい話じゃないよ。確かに告白されたけど。それも学校で一番のイケメンって男子と、サッカー部キャプテンの男子とに」
「何それ、めちゃめちゃ凄い話じゃん!」
「うん、そうだね。普通はそうだよね。だけど違うんだ。嬉しいのは嬉しいんだけどね。でも嬉しくないんだ」
「それは、別に好きな人がいるって事?」
「うん、そうかも。だからふたりには申し訳ないけど応えられない」
「桜子……」
「わたし、モテたいって浮かれてたけど、違ったみたい。わたしはモテたかったんじゃなくて、恋がしたかったんだ」
「じゃあ、すればいいじゃない!」
「うん、そうだよね。だけどね、ふたりの告白の話ってどうも噂になってるみたいで、何となくだけど、最近彼はわたしを敬遠してるみたいで……」
「……」
「噂のせいで彼、遠慮しちゃったのかなって。どう思う、お兄ちゃん?」
「ここで僕の意見を聞くの?」
「うん。多分彼は、似てるんだ、お兄ちゃんに」
「えっ?」
「優し過ぎるって言うか、真面目すぎるって言うか…… だからお兄ちゃんだったらどう思うか教えて欲しいなって」
「う~ん、そんなことを言われてもなあ……」
僕は桜子の顔を見る。
切りそろえた前髪に吊り目がちでも優しそうな瞳が可愛い。性格もサッパリしてて我が愚妹ながらモテても当然だと思う。ちょっと小金井に似てるかな。
「その彼ってモテるの?」
「うん、女子にも人気あるよ。わたしにだけど。でも本人はモテないって思ってるみたい。いつも自分でそう言ってるから」
「なるほどね、桜子の言う通り遠慮してるのかも知れないね。あるいはもっと……」
「もっと?」
「何と言えばいいかな。桜子に気後れしてるのかもしれないよ。自分とは釣り合わないって」
「えっ、どうして? 彼は優しくて友達多くて結構頼れるしルックスも可愛いし、成績だっていいんだよ。ちょっとだけ気弱でヘタレだけど。だから釣り合わないのは桜子の方だよ。そんなことないんだよ」
「いや、あくまで僕の勘だけどね。もし噂を聞いて彼が避け始めたのなら、きっと彼はそう思ってるんじゃないかな」
「そうなのかな……」
「多分ね、そんなもんだよ。(ぽりぽり)」
本人は悩んでいるようだが、贅沢な悩みとはこのことだ。
でも意外と可愛いとこあるな、桜子。
まあ、桜子は賢いしきっと上手くやっていくだろう。
僕はアニメの方に神経を戻した。




