第5章 5話目
キンコンカンコ~ン
そして放課後。
文芸部室では小金井と大河内、そして立花さんの愚痴が炸裂していた。
「何よあの男! 『あかねちゃんと僕の恋路を邪魔するつもりで? 馬に蹴られてゾンビになるぜ!』ですって! ふざけるんじゃないわっ!」
「佳奈にも『パイは投げるんじゃなくて食べるものだぜ』ってお皿を差し出されて~。勿論、顔に投げつけましたけど~」
「わたしもダメでした。『立花さんの悪評はみんな聞いてるよ、男心を踏みにじる、全然イカない繭香さん。今度は俺の恋仲まで邪魔するのか?』ですって! 悔しいですっ!」
打開策を探すべく星野と月野君を問い詰めた女性陣は彼らの堅いガードの前に何の情報も得られなかった。
「向こうもみんなを警戒していたはずだから仕方がないけど、困ったなあ」
僕が小さく嘆息すると同時に、深山さんが部室に入ってきた。
「こんにちは、です……」
「あっ、深山さん、元気?」
「あかねさん~ ハチ公が待ってましたよ~」
「はい、元気です……」
しかしテンション低空飛行な彼女は椅子に座ると、はうっ、と小さく嘆息した。
「深山さん……」
「あかね……」
みんなの視線にもただ俯くだけの深山さん。
重苦しい空気が流れる。
沈黙の時間。
と、やがて。
ガラガラガラガラッ!
ノックもなく勢いよく開いたドアの音で沈黙が打ち破られた。
「やあ、文芸部の諸君、よくぞ俳人六十九面相の正体を見破ったな。褒めてやろう!」
「何だ、お前達はっ!」
玄関を開けて入ってきたのはラノベ部のちびっ子部長こと夢野勇馬先輩と二年の星野、一年の月野君の三人だった。夢野先輩は月野君が足元に置いた踏み台に乗る。すると他の二人とほぼ同じ高さになった。
「聞いて驚け! 俺たちの名は、
『イケメンシスターズ』だっ!」
「はっ?」
文芸部員の目が一斉に点になる。
確かに驚いた。
こいつら野郎のくせに、自分たちをシスターズと名乗った?
「あの、夢野先輩、もう一度聞いてもいいですか? 皆さんのユニット名」
「お前は英語のリスニングも出来ないのか? まあいい、もう一度名乗ってやろう。俺たちの名は、『イケメンシスターズ』だあ!」
三人揃って腰に手を当て胸を張る。
「えっと、確かに僕はリスニング苦手ですけど、夢野先輩はそもそも英語分かってませんよね」
「何を失礼な! この夢野勇馬、英語の点もクラスナンバーワンだ」
「クラスって、もしかしてスーパーちびっ子級とか?」
「ふざけるな! 三年B組、うちのクラスだよ!」
「じゃあ夢野先輩が分かってないのは、世の中の常識、ですか?」
「うるさいっ! ともかく俺たちイケメンシスターズのメンバーを嗅ぎつけたことだけは褒めてやろう。しかし、あかねちゃんの心はもう我々の手の内にある。見よ!」
星野と月野君がツカツカと深山さんの元に歩み寄ると求愛のポーズを取る。
芝居がかってとってもウザイ。
しかし、それを見た深山さんの頬が真っ赤に染まると頭から蒸気が噴出する。
そしてまるで魔法に掛けられたかのように言葉を紡ぎ始める。
「先輩方、ごめんなさい。わたし星野さんと月野さんに付いていきたいと……」
「深山さんっ!」
「ふあっはっはっは、見たか、文芸部の諸君! 最早君たちがどんなにあがこうと、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄! 予告の通り、明日五時にあかねちゃんは星野、月野と共にラノベ部へ入部して貰う!」
「くくっ、おのれ夢野……」
「あかねちゃん、今日は俺たちと帰ろうか」
「はい、星野さん、月野さん!」
「待って、あかねさんっ!」
「安心しろ、彼女はラノベ部が幸せにする。ではまた明日会おう。さらばだっ!」
そう言うとちびっ子夢野は踏み台から飛び降りる。
深山さんは星野に手を取られ俯いたまま去っていく。
「踏み台回収しま~す!」
月野君は踏み台を回収すると二人の後に付いた。
いつの時代も一番年下は地味な役回りだった。




