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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第五章 秘密の美女(ボク)に恋しなさい
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第5章 3話目

 次の日の放課後。

 文芸部室にどよめきが起こる。


「うわあ~ 凄いです羽月さん~ モデルさんみたいです~!」

「羽月先輩、わたし目覚めちゃいそうですっ!」

「でしょっ! バレー部の友達から制服譲って貰ったんだ。大事にしてよね。翔子ちゃんの身長に合うのってほとんどないんだから」


 セーラー服に身をつつむ、長い栗毛の女の子が鏡の中で戸惑う。

 右手を挙げる、首を傾げる。鏡の中の女の子が僕の動きに合わせて動く。

 ちょっとだけ厚化粧。そんな自分にドキリとする。

 そう、確かに女の子に見える。

 何だかとても奇妙な気分だ。


「この格好で尾行するのか? 身長百八十近い女は滅多にいないから目立つぞ!」

「大丈夫よっ! さあ、途中まであたしも行くから!」

 小金井に背中を押されて僕は校舎の四階へと向かった。


「ホントに大丈夫かな?」

「大丈夫よ。あたしが保証する。女にしか見えないって! ほら夢野のクラスよ」

「そうかなあ……」

「まだ教室にいるわね。さあ、作戦開始よ、頑張ってね!」

 そう言うと小金井は僕を置いてどこかへ行ってしまう。


「はあっ……」


 絶対おもちゃにされてるよな! みんな楽しんでるよな、遊んでるよな!

 自分の境遇をひとり嘆く。

 暫くすると夢野先輩が教室から出てきた。

 いかにも不審に左右をキョロキョロと確認すると階段の方へ歩き出す。


「深山さんのため、深山さんのため!」


 僕は自分に言い訳しながら尾行を開始した。

 夢野先輩は階段を下りると二年の教室がある三階を進む。


「あれっ?」


 彼が入っていったのは二年F組。僕のクラスだ。

 入り口のドアは閉められ中の様子はうかがい知れない。

 意を決した僕は堂々と廊下を歩きながら窓から中を覗き見ることにした。

 そのための変装なのだ。


 スタスタスタスタ…………


 教室の中には夢野先輩とうちのクラスの星野ほしのがふたりで何やら話し込んでいる。

 星野は学年で一番モテると噂のイケメンだ。夢野先輩と同じく金髪で、鼻筋が通って外人みたいな顔立ち。すらりと背も高いしスポーツも出来る。女にモテて当然。

 しかし彼はモテるのをいいことに二股三股は当たり前という噂も聞く。

 僕はあまり好きじゃない。


 スタスタ、スタ……


 少し立ち止まって耳をすますが声は全く聞こえない。一体何の相談をして……


「うっ!」


 気づかれた。夢野先輩と星野がこっちを見た。僕は何事もなかったようにそのままゆっくり歩き過ぎる。


「僕だってバレたかな……」


 廊下を歩きながら後ろを振り返ったが追いかけてくる様子はない。大丈夫、きっと大丈夫。僕は自分にそう言い聞かせ、廊下の角でふたりが出てくるのを待つことにした。


 待つこと三分。ふたりは携帯片手に教室を出てきた。

 僕の方へ歩いてくる。

 逃げるように階段を下りると、ふたりも階段を下りてくるようだ。

 僕が一階まで下りるとふたりの気配は二階に消えた。慌てて二階に戻ると二人揃って教室に入っていく姿が見える。


「あそこは立花さんのクラス、一年A組!」


 スタスタ、スタ、スタ……


 僕はまたゆっくりと教室の前を通過しながら中の様子を伺う。


 スタ…………


 中には夢野先輩と星野、そしてもうひとり一年生らしい男子生徒が何やら話し込んでいる。

 赤毛で爽やかな感じの、これまた凄いイケメンだ。

 夢野先輩も顔だけ見ればそこそこイケメンなのだが、如何いかんせん背が低すぎる。

 しかし一年生らしい彼は背も高くスタイルも申し分ない。


「何を話しているんだろう……」


 僕は教室の中をじっと見つめる。しかし声は聞こえないし表情もよく分からない。


「っ!」


 一年生らしい赤毛の男が僕を見た。

 僕は目を逸らすと何事もなかったかのように教室の前をゆっくり過ぎ去る。

 そして廊下の端から引き続き一年A組の教室を伺った。


 五分くらいすると彼らは教室を出て、みんなバラバラに散っていった。僕が夢野先輩の後を付けていくと、彼はラノベ部の部室へと姿を消した。

 星野と一年の赤毛のイケメンは一体何をしていたのだろう。三人の関係は? 僕は答えが出せないまま部室に戻った。


          * * *


「どうだった翔子ちゃん? 何か情報入った?」

 小金井がポテチをむさぼりながら聞いて来る。


「うん、少しだけ」

 僕は見てきたことをみんなに話した。


「星野ねえ、あいつ夢野よりタチ悪いと思うよ」

 小金井はいかにも嫌そうな顔をする。


「私もそう思います~ あんな女の敵の腐れ外道は豆腐の角に金●ぶつけてくたばればいいんです~」

「涼しい顔して無茶苦茶言うな大河内。何か嫌なこととかされたのか?」

「ここだけの話しですよ~、羽月さん」

 彼女は僕だけに念押しをして。


「あいつは~、凄く軽いノリでコクって来やがったので~、「私は何人目の恋人なのですか~」と聞いてやったら~、「佳奈さんのためなら、他の五人とはいますぐ精算してきますよ、へへっ!」って言いやがって~ 五人ですよ~ 女の気持ちも知らないで~ その場でパイ投げつけてやりました~」

 学校にパイ持ってきてるんだ、大河内。


「酷い人ですね。もしかして、弥生先輩も被害に遭ってるんですか?」

「そうね……」

 そう言うと小金井は手に持ったポテチを握りつぶした。


「あたしにはね、「弥生さんって彼氏いるんですよね、何人?」なんて聞いて来やがったから、「この学校の貴方以外全員」って言ってやったわ。失礼な男よ!」


 はちぱちぱちぱち!


 立花さんは尊敬の眼差しで小金井に拍手を送っている。


「なるほど、悪い噂は聞いていたけど本当なんだね。ところで立花さん、一年A組の赤毛のイケメンって知ってるかい?」

「ええ、多分、月野つきのさんだと思います」


 立花さんはみんなの顔を見る。


「凄くモテるらしいです。すでに何人かの女子が彼に告白したって聞いてます」

「で、どうなの? 嫌なヤツなの?」

「告白した女子には「友達でねっ」みたいなノリで返したって聞いてますけど、別に悪い噂は聞いてませんよ」


「立花さんには!」

「えっ?」


 思わず聞いてしまった。


「その、立花さんには彼らの魔の手は伸びてないよね」

「先輩! はい、大丈夫です」

「もう翔平くんったら、心配するのは繭香ちゃんだけなの?」

「いや、小金井の強さはよく知ってるから、絶対返り討ちにするだろうし……」


 ばきっ!


 ハリセンで殴られた。

「羽月先輩は、もっとちゃんと弥生先輩のことを見てあげるべきですっ!」

 立花さんまで怒ってる?


「まあ、いいわ。慣れてるから。で、問題は夢野のヤツがどんな話をしてたかって事ね」

 よかった。話を元に戻してくれた。ホントに小金井はいいやつだ。


「そ、そうだよね。だけどそこが全く分からなくて」

「困ったわね……」

 みんなの溜息が聞こえる。


「ところで今日は深山さんの姿がないんだけど」

「ああ、あかねちゃんは今日お休み。ピアノのレッスン日ですって」

 小金井の言葉に立花さんが続ける。

「羽月先輩が付けている胸パッドだけわたしが預かりました」

 思わず胸を押さえる僕。


「ともかく明日深山さんには、星野と月野君には気をつけるように言っておこう」

「そうね、早いほうがいいから繭香ちゃん、明日の朝、頼めるかしら?」

「はい、勿論です。ちゃんと伝えておきますね」


「ところで翔平くん……」

「どうした小金井?」

「その格好、本当によく似合うわね。破壊力半端ないわ」

「やめてくれよ、今日限りにしようよ、こんなの」

「先輩、わたし『男の娘』に引かれる女の気持ちが分かった気がします……」

「実はあたしもよ、繭香ちゃん……」

「頼むよ、ふたりとも。本当に立ち直れなくなるから!」


 しかしこのときの僕は、この女装が学校中に、とある噂を巻き起こすことになろうとは、夢にも思っていなかった。


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