第5章 2話目
作戦会議は一時間とポテチ五袋を要した。
白板に決定事項が書かれていく
今日の議案
一、深山さん絶対護衛作戦
■犯人 ちびっ子夢野とその一派
■情報収集策
壁伝いに隣の部室に聞き耳を立てる
結果 何も聞こえない
ラノベ部に盗聴器を仕掛ける
結果 予算がない
左岸先輩に直訴する
結果 翔平くんがやる
■護衛策
放課後深山さんから目を離さない。
日別の担当はベットで相談(うっふん)
金曜の放課後は文芸部室でみんな缶詰
■その他
ポテチの食べ過ぎに注意
えっと、こんなもんかな?
僕の質問に白板用のペンを右手に持ったまま小金井が手を上げる。
「夢野を尾行したらどうかしら。左岸先輩がいるからラノベ部室では悪いこと出来ないと思うのよ。情報は絶対必要だわ」
「なるほどね、その通りだ。でもあのちびっ子部長を誰が尾行するの? うちの部員はみんな面が割れているよね」
「そうですね~ すぐにバレますね~」
「大丈夫、あたしにアイディアがあるの、前から思っていたんだけど」
「前から思っていた?」
「そうよ、今こそ翔子ちゃんの出番だわ!」
「翔子ちゃんって、誰?」
嫌な予感しかしなかった。
「決まってるじゃない! 前から思ってたんだけど絶対似合うわよ、翔平くん!」
いつの間にか小金井が化粧箱を持っている。
大河内は手に何かふさふさしたものを持って…… って、ウィッグ!
「可愛い部員を守るためよ。ね、翔平くん」
「ちょっと、やめろ! そんな趣味はない! いや、似合わないって!」
「男の娘ゲーム好きなんでしょ! はい、無駄毛な抵抗はやめて!」
「何だよ無駄毛な抵抗って! 剃るなよ!」
「羽月部長ありがとうございますですっ! わたしのために男を捨ててくれるなんて! あかね感動ですっ!」
深山さんがキラキラした目で見つめてくる。
「捨てないよ! 立花さん、何とか言ってよ!」
しかし彼女も何か呟いている。
「薔薇の園より百合の園。これはいいショック療法かも知れないわ!」
「何言ってるの! ねえ立花さん!」
「羽月先輩、頑張りましょう! わたしもいいアイディアだと思います」
「そんなあ~!」
観念した僕は小金井と大河内のなすがまま、こんにゃくはパパ。
失礼。ふたりの好きなように化粧を施されたりウィッグを被せられたり脱毛クリームを塗りまくられたり。
そして三十分後。
「これが、僕?」
女装させられた僕は、鏡に映る自分の姿を見つめていた。
「ねっ、似合うでしょ! と言うか想像以上ね。どう見ても女にしか見えないわ」
「美人です~! 女として、ライバル心が芽生えます~」
「冗談言ってんじゃねえよ大河内! こんな変装なんか……」
「先輩凄いです! どう見ても女の子です! と言うか全く別人です!」
緑色のチューリップの髪飾りをした立花さんが目を輝かせる。
あれっ? この髪飾りって……
「部長素敵ですっ! あかね感激ですっ」
深山さんにまでダメ出しされてしまった。
「明日、羽月部長用に胸パッドも持ってきまですっ! Bカップでいいですかっ?」
「どうしてそんなもの持ってるの、深山さん!」
「翔平くん、女の子にそんなこと聞いちゃダメでしょ!」
「あっ、いいんですよ弥生先輩。わたしのじゃないですからっ。兄のですからっ」
深山の兄ちゃん、どんなんだよ!
「じゃあ、決まりね翔子ちゃん。明日から作戦開始よ!」
思いっきり笑顔でサムズアップしてくる小金井。
「なあ小金井……」
「何? 翔子ちゃん」
「実は今日、文芸同人誌の作品と役割分担を決める予定だったんだけど、代わりにやってくれない?」
「えっ、いいわよ。でもどうして?」
「僕、暫く立ち直れないから……」
* * *
その日の夜、僕はベットに寝転がり小説を読んでいた。
立花さんに借りた本、『お兄ちゃんなんか、いますぐ逮捕しちゃうからねっ!』の第八巻。
借りている最後の一冊だが、話はまだ続くようだ。
僕の頬に一筋の滴が流れる。
アニメではブラコン妹のハチャメチャなラブアタックが強調されて、それはそれで面白いんだけど、ラノベは少し印象が違う。妹の妃織は兄の知らない悲しい過去を背負って、兄が知らない秘密を抱えて、それでも笑顔で兄を愛し続ける、とても健気な女の子だ。
立花さんに出された宿題の答えは『美しい瞳』。
緑色のチューリップの花言葉だ。
話の中で、花言葉など知らない兄がたまたま緑色のチューリップの髪飾りをプレゼントするシーンが出てくる。それをとても大事にする妹。
「お兄ちゃん、わたしを見ていて下さい。わたしの瞳を見ていて下さい。わたしの心を見ていて下さい。どんなにお金を掛けたって、どんなに技術が進んだって、瞳は心を映すんですよね」
健気にもほどがあるくらい健気な妹。
とは言っても、ほとんどはブラコン妹の暴走愛が描かれているんだけどね。
しかし、第八巻で兄に想いを寄せるお金持ちのお嬢さまが、とても素敵な女性であると悟る妹。兄のためにとふたりの仲を取り持ち、彼女は自ら身を引こうとする。そんな彼女が無理矢理の笑顔を作ってデートに出かける兄を見送るシーンでその巻は終わる。
こんなに健気で優しい妹を泣かせるなんて、主人公はどんだけ鈍感なんだ!
お前が気が付けばみんなを振り回すこともないし、ハッピーエンドなんだよ!
僕は借りた本を手提げ袋に戻すと、本棚からお気に入りの本を何冊か取り出す。
「明日返そう。お礼に何冊か本を入れて、っと」




