第4章 10話目
淑女はお嬢さまを愛してる・公式ビジュアルブック。
価格を見る。税抜き二千四百円。決して安くはない。
でも、懐にはまだ余裕があるし、欲しい。
何より立花さんが紹介してくれた本だ。
僕は迷わずレジに持って行く。
「先輩、無理に買って戴く必要はないんですよ!」
僕が手に持った本を見て立花さんが心配してくれる。
「無理にじゃないよ、僕が欲しいからだよ。だからこの、
『淑女はお嬢さまを愛してる・公式ビジュアルブック』
を下さい!」
「はいっ、ありがとうございます。
『淑女はお嬢さまを愛してる・公式ビジュアルブック』
一点で税込み二千五百九十二円になります」
僕は小銭入れを覗いて九十二円をを取り出すと、先にそれをテーブルに置く。
「あと少し待ってね……」
財布から千円札を抜き出していると立花さんの呟きが聞こえた。
「これって、どう考えたらいいのかしら……?」
「はい三千円」
「では三千と九十二円お預かりします…… 五百円のお返しになります……」
お釣りを手渡してくれながら彼女は顔を上げて。
「先輩はこの作品の登場人物で誰に一番萌えますか?」
「えっ?」
『おとオレ』の登場人物?
ヒロインやサブヒロインなどゲームで攻略できるのは六人。魅力的な女の子が揃っている。ただ攻略ヒロイン中に一人、幽霊が混じっているけど。
「えっと……」
この作品は他の美少女ゲームと大きく違うところがある。
「正直に言うとね……」
それは、女装した主人公・稲穂が、男なのに限りなくいい女であることだ!
「稲穂ちゃん!」
「えっ!」
「稲穂ちゃん、ラブ!」
「先輩、稲穂ちゃんって男ですよ!」
「でも萌えるよね、かっこいいよね、いい女だよね!」
「ううむ…… これってどう言う……」
「ねえ立花さん、何考えてるの?」
「いえ、何でも…… あっ!」
「ん? 何?」
「先輩って以前『世界一美少年』をお買い上げ戴きましたよね」
「あっ、うん。買った。買ったけどそれが何か?」
恥ずかしいBLコミック、桜子に頼まれて買ったけど、それがどうした?
「と言うことは、先輩、まさか……」
「ん?」
「あの素敵な弥生先輩の連日のアピールが眼中にないのは、そう言うこと……」
「小金井がどうかした?」
「先輩! 先輩はきっとわたしが正しい人の道に戻して見せます! ええ、立花繭
香、こんなことで諦めません!」
「いや、何の話? 僕が正しい道に戻るって、どう言うこと?」
「先輩は何も心配しなくて結構です。全てわたしにお任せください」
立花さんは突然すっきりした表情でそう言い放った。
ホント、時々何言ってるか分からなくなるのが玉に瑕だよな、彼女。
「はい、では商品です、あっ! 先輩ちょっと待ってください!」
彼女はそう言うと何やら可愛らしい手提げ袋を取り出した。
「よければこれ、読んでください」
「えっ?」
手提げ袋の中を覗くと、文庫本が何冊か並んでいる。
「『お兄ちゃんなんか、いますぐ逮捕しちゃうからねっ!』の今出ている最新刊まで八冊です。わたし読みましたから、よかったら」
「立花さん!」
「慌てませんから、ゆっくり読んでくれたら嬉しいです…… あっ!」
彼女は何かを思い出したように僕を見ると、人差し指と親指を立てながらウインクする。
「よ、読まなきゃいますぐ、逮捕しちゃうからねっ!」
今借りた小説に出てくる決めぜりふだった。
ズキュン!
頬を真っ赤に染めて、婦警のコスプレで言われると破壊力半端ない。
また僕の心臓が制御不能になっている。
「勿論読ませて貰うよ! それに、立花さんかっこいいよ、妃織ちゃんを超えたよ!」
「先輩ったら嬉しいです!」
少し深呼吸をして落ち着こう。
「すう~ は~」
「…………」
この小説みたいに、立花さんみたいな妹がいたら、毎日が夢みたいなんだろうな、うん、毎日妹といちゃいちゃして…… 妹……
「あっ!」
思い出した、桜子のこと。
やばい、忘れたら家に帰って殺される。
「どうかしましたか?」
「あの、実はさ、妹の桜子がここに来たいって言うんだけど、立花さんにはいつなら会えるか聞いてきてくれって」
「えっ、桜子ちゃんが! 嬉しいです。えっとわたしの予定は規則性があまりないので…… そうですね、来る前にメールを貰えれば……」
「メールね、ん?」
「そう言えば先輩、わたしのメルアドご存じありませんよね」
「そうだね、知らないね」
「よければ交換して……」
「えっ、いいの! あっ、桜子が行く前に連絡するためだね」
そう言いながら僕は携帯を取り出す。
「いえ、別に桜子ちゃんのためだけじゃなくっても、その……」
「?」
ふたりは携帯のデータを交換しながら。
「先輩も、何かあったらメールくださいねっ! いえ、何もなくても……」
「あっ、部の連絡とかで使うね。あ、ありがとう!」
「そうでした。先輩は薔薇の園から救出する方が先でした!」
「ん?」
また分からないことを言う彼女。
データの交換が終わると彼女はピンク色の携帯を大事そうに胸元で握りしめる。
僕はそんな彼女に暫く見惚れていた。
やがて。
「あっ、ごめんなさい。お買い上げの本もこの手提げ袋にお入れしますね」
携帯をしまうと、手提げ袋を僕に手渡しながら頭を下げる立花さん。
「ありがとう、早速家に帰って読むことにするよ」
そう言うと僕も携帯を胸ポケットに入れながら歩き出す。
「ありがとうございました! また来てくださいね、お待ちしていますっ!」
第四章 完
これで第四章は完結です。
いかがだったでしょうか。
カラオケ部分など少し古いネタが多かったかも。
アニソンのネタは拙作『お兄ちゃんのためなら、鬼にも小悪魔にもなってみせるわ。』でも多く使ったので、ダブらないよう苦心しました。
ま、遊んでるだけですけど。
次章予告です。
部員も五人となり順風満帆に見えた文芸部に『反攻予告』が!
「深山あかねを頂戴する」というその予告状に対し、
情報戦を仕掛ける文芸部が取った驚愕の作戦とは?
ホモ疑惑を掛けられた羽月翔平の隠された才能がまた明らかになる!
漢・羽月翔平、やるときはやります!
次章も引き続きお楽しみください。




