第4章 7話目
「次、羽月さんです~」
大河内が歌い終わると一巡して僕にマイクが戻ってくる。
「部長、ガンガンにアレグロ コンフォーコでぶっ飛ばしてくださいですっ!」
知らない音楽用語が乱れ飛ぶ。ともかく飛ばせばいいらしい。
みんなテンションが限りなくハイだ。
「六番、男の娘・羽月翔平、やっぱ男の娘はこれでしょ! いきまーす!」
だから僕もつい弾け飛んでてしまう。
ユーメイドアワデイ
会えるだけで~ 煌めく今日のあたし~
エブリタイム 見つめているよ
あたしのこと 見つけてほしい~
うん、いい曲だ。
深山さんが手拍子を叩きながら凄くニコニコしている。
この曲気に入ってくれたんだな。
間奏が始まると小金井が大声で尋ねてきた。
「ねえねえ翔平くん。この歌って何の曲?」
「えっ、知らない? 淑女はお嬢さまを愛してる、のアニメオープニング曲だよ」
こう書いて『おとめはおれをあいしてる』と読ませる。結構強引な手法だ。
「えっ? 淑女はお嬢さまを愛してるって、『おとオレ』?」
「そうだよ、略して『おとオレ』。アニメ見てない?」
「見たことあるけど、こんな曲だったかなあ?」
「弥生先輩の言う通りですっ! アニメの『おとオレ』のオープニングは、この歌じゃありません。ラブパワフルって歌ですっ」
えっ、何言ってるの深山さん。アニメの『おとオレ』は…… っ!
「いま羽月部長が歌っているのはアニメの原作になったパソコンゲームの方のテーマ曲ですっ。兄がやってたから知ってますです。美少女ゲームというか、エロゲ……」
「あっ、そっ、そうだね、そうだった、これってゲームの方だった!」
「ねえ、深山さん。美少女ゲームってあんなシーンやこんなシーンがあるやつ?」
「はい、そうです。兄がやるのを見てましたけど、あんな事やこんな事をやりまくります」
「あっ、でも、でもさ。『おとオレ』は携帯型ゲーム機版もあって、そっちはちゃんとお子様も大丈夫でさ……」
「羽月先輩……」
立花さんの視線が痛い、小金井もジト目で見てる、大河内は呆れて選曲してるしっ!
「翔平くんって、そう言うゲームが好きなんだ!」
「いや、だから携帯型ゲーム機の方だから、話の途中でいきなり脱いだりしないし、それが目的で六人全員攻略したわけでもないし……」
「ふうん、それが目的で六人みんな攻略したんだ!」
「あうっ……」
ああ、小金井にまで軽蔑されちゃったっぽい。
と言うか、大河内にも深山さんにもっぽい。
「ねえ翔平くん、あんなシーンやこんなシーンって面白かった?」
「いじめないでくれよ小金井。僕だって健全な青少年なんだから、興味くらいは……」
「でも、どうして二次元なわけ? リアルには興味がないわけ?」
「いいじゃないか。僕なんか現実世界では全然モテないからね! リア充なんか夢のまた夢。パソコンと重妄想するしかないんだよ」
「翔平くんの、ばかっ!」
突然、小金井にバカ呼ばわりされた。
「羽月さん~、鈍感にもほどがありすぎです~」
ほえっ? どうしてだ、大河内?
「羽月先輩がそんな寂しい想いをしていたなんて、わたしの努力が足りなかったんですね! 先輩、今日の帰りも是非来てくださいねっ!」
立花さんまで、どうしてそうなる?!
「えっ? 部長って弥生先輩とデキてたんじゃなかったんですかっ? じゃあ、あかねルートを攻略しませんかっ!」
へっ? いいの、深山さん!
「ダメです、あかねちゃん~。羽月号はとっくに乗車定員オーバーしています~」
乗車定員って何? どこに乗ってるの?
「もしかして羽月部長は、佳奈先輩ルートにフラグが立ってるんですかっ?」
そうだったのか、大河内?
「違いますよ~、あかねちゃん~ ほら、分かるでしょ!」
なにを深山さんに目配せしてんだよ、僕には分からないよ、大河内!
「そ、そうよね、翔平くん! 次はあたしとお立ち台で並んで歌いましょ!」
そんな気の利いた装備、この部屋にはないよ、小金井!
「あっ、先輩だけずるいですっ。あかねもデュエットして貰うですっ」
何がどうずるいの?
僕への集中砲火が収まる頃にはゲーム版『おとオレ』はもう終わっていた。
美少女ゲームは男のロマンなのに~、ぐすん。
「次はあかねの番ですっ! はい、羽月部長もマイクどうぞですっ」
深山さんが差し出したマイクを受け取ると、そこからデュエット地獄が始まった。




