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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第四章 甘く修羅場な歓迎会
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第4章 6話目

 カラオケ屋は予約していたのですぐに案内された。


「このお店、結構混んでるんですね。いつもこうなんですか?」

 部屋に案内されるなり立花さんが尋ねる。


 街中から少し外れた目立たないビルの二階。

 入り口の階段は広くないけど、受付は意外に広くて待合スペースにはクレーンゲームも置いてある。


「安いからね。それに今は連休だから特に多いんじゃないかな」

 知ったふりして答える僕も、この店は三回目だ。安いしポテチの量が多いと先輩が教えてくれた隠れた名店。いや、客が多いから隠れてはいないか。

 

 ソファに座りながら改めてみんなをまじまじと見る。

 ショートデニムのスポーティな出で立ちが格好いい小金井。

 ふんわり淡いブルーのワンピースが、いかにもお嬢さまっぽい大河内。

 黄色いヒラヒラの服がとっても似合うのは童顔の深山さん。

 そして立花さんは春らしいピンクのブラウスにチェックのスカート。

 みんな可愛いな。クラスメイトの市山に冷やかされるのも仕方ないのかな。


「さって、ワンドリンク制だから注文決めてね。はいっ、翔平君はこれ」

 小金井がマイクとリモコンを僕の前に置く。

「トップバッターはガンガンにアゲアゲでよろしくね!」


 道すがら歌う順番を決めてきた。今日は歓迎会だから新入部員からと僕は主張したが、一対四の圧倒的少数で僕の意見は退けられ、部長であるというだけの、とても理不尽な理由で僕から歌うことになった。こう言う時、男ひとりというのは実に無力だ。僕の味方なんて一人もいない。女はみんなグルになって僕をいじめる。次は絶対に男性部員を勧誘しなくちゃ。


「じゃあ僕はアイスコーヒーで」

 一番安いアイテムを告げると選曲を始める。


「注文はわたしがしますね」

「あっ、今日は歓迎会だからあたしがするわよ、繭香ちゃん」


 ガンガンにアゲアゲと言われてもなあ。普段は歌のないフュージョン系しか聞かないから、こう言う時は困る。思いっきりアイドルも結構好きだけど痛いし。洋楽でみんなにウケるヤツとかないかな……


「翔平くんリクエストした?」

「ごめん、まだだけど」

「早く入れようよ。何ならあたしが決めてあげようか!」

「例えば?」


「うりゃ魔女ドミソとか」

「は?」


「魔法先生かもネギとか」

「へっ?」


「魔法少女リリックさくらとか」

「ほえっ?」


 小金井って魔法使い厨か?


魔法武士ウィッチナイトレアアースとか!」

「ふえっ?」


 違うところから声がした。


「そうね、それいいわ繭香ちゃん!」

「でしょ、弥生先輩!」

「翔平君、当然歌えるよね。知らないってことないわよね」

 小金井が僕からカラオケのリモコンを奪い取ると検索を始める。


「名曲ですからね!」

 立花さんの目もキラキラしている。


「あったあった。ゆずれない想い!」

 勝手にリクエストがされると僕にマイクが差し出される。


「あのなあ……」

「じい~っ」

「じ~~っ」


 ふたりともなまじ美人だからタチが悪い。

 しかも照明のせいだろうか、目の前に座る小金井の赤いツインテールも、立花さんの長い黒髪も煌めいて、その首筋から胸元が妖艶な色を放つ。

 そんなふたりの期待を込めた眼差しにあらがすべはなかった。

 僕は小さく嘆息してマイクを握る。


  止まらない~ 未来を信じて~

  ゆずれない~ 想いを抱きしめて~


 出だしをスローに歌い上げるとテンポが一気に加速する。

 それを待っていた小金井と立花さんがタンバリンとマラカスを振り鳴らし始める。


  空の色が 碧く染まっていく~ 超加速状態!


 一気に加速する女性陣。

 ほどなく二本目のマイクで小金井と立花さんがデュエットを始める。


  ゆずれない~ 想いを抱きしめて~ 手放さない~


 ふたり歌いながら互いにチラリと相手を見て笑っている。ホントに仲がいい。

 大河内は口ずさみながら手拍子を取り、深山さんは次のリクエスト曲を検索中だ。


 一番が終わったところで自分のマイクを大河内に差し出すと彼女はにっこり受け取り、深山さんとふたりで歌い出す。


 これで僕のお役はご免だ。

 歌が終わるとハイタッチまで巻き起こる。

 最初からフルスロットルの盛り上がりだ。


「あたし子供の頃ね、魔法使いになりたかったんだ」

「わたしもです! 弥生先輩!」

「さすが繭香ちゃん! 女の子のなりたい職業ナンバーワンは昔も今も魔法使いよね!」

 どこの統計結果だ? 文句つけてやる。


 しかし僕が文句をつける間もなく深山さんのリクエスト曲が始まった。


「二番、深山あかね。 かもネギ先生・ラッキー☆マテリアルいきますですっ!」

 高々と右手を挙げてそう宣言すると、彼女も一気にリズムに乗る。


  光る波を追い抜いたら~ 

  君がきっと待ってる~


 完全にアニソン合戦の様相を呈してきた。


「羽月先輩ごめんなさい」

 立花さんがカラオケのリモコンを差し出しながら頭を下げる。

「勝手に入れて勝手に歌ってしまって。代わりにたくさん入れてくださいね」

「気にしなくていいから。立花さんも歌ってよ」

「大丈夫です。わたしのリクエストはもう入りましたから!」


 横から小金井もスピーカーの伴奏に負けない大声で。

「みんな入れたから。翔平くんも入れてね!」

「そうですよ。先輩の声、高くてかっこいいです。いっぱい歌ってください」


 僕はリモコンを受け取ると好きな曲を探し始める。

 今日はいきなり弾けたから、選曲に恥じらいとか遠慮とか、後輩の視線を気にするとか、そんな必要はなさそうだ。本当に好きな歌を入れちゃおう。ピピピッピッ。おっ、あるある! 凄いな最新のカラオケシステム!


 僕が大好きなアニメのオープニング曲をリクエストすると予約順は四曲目。みんないつの間に入れたんだ! 変に感心しながら、深山さんの歌に手拍子を送る。


「めちゃめちゃ上手いな、深山さん!」

 歌いながら「いえいえ、とんでもない」とばかりに手を振る彼女。

 でもお世辞じゃない。びっくりした。彼女は本当に歌が上手い。即刻今すぐ間髪入れずに歌手デビューできる。


「深山さんって~ 大きなピアノのコンクールで入賞とかしてるんですって~」

「えっ、そうなんだ。凄いな!」


 羨ましい。ピアノが出来れば音楽方面の色んな道が開けるよね。ホントにみんな凄い。

 僕なんか平凡だからな。何の取り柄もないし。


「なあ大河内、うちの部員ってみんな何気に凄いな」

「はい~? でも一番凄いのは羽月さんですよ~」

「えっ? どうして? 僕なんか何も出来ないよ!」

「みんなのいじめやままに耐え~ こんな女だらけの文芸部でちゃんとやってるんですから~」

 やっぱりいじめられてるのか、僕。

 少し落ち込んで嘆息する。


「……い! ……ぱい!」

 大河内が僕の肩を叩いて横の方を指差す。


「先輩! 羽月先輩!」

 その方向を見ると立花さんが僕を呼んでいた。手にはマイクを持って。


「羽月先輩、その、一緒に歌ってください!」

「あっ、えっと……」

 モニター画面を見る。


 次の曲:セルフ・センタード


 セルフ・センタードって、自己中?


「先輩知ってるはずですっ!」

「知ってるって?」


 にっこり微笑む立花さんからマイクを受け取ると、超アップテンポでギターがかっこいいリズムを刻み始める。


「あっ!」

 知ってた。


  思い通りに逮捕しよ~ みんなブタ箱行き~

  女の子は 誰だって~ セルフセンタード~


 お気に入りのアニメのオープニング曲だった。

 そう、

 『お兄ちゃんなんて、いますぐ逮捕しちゃうからねっ!』のオープニングだ。


 気が付くと僕は立花さんと一緒に歌っていた。


「……やるわね繭香、恐ろしい子!」

 小金井が何か呟いている。


 しかし、さすがに女性ボーカルの曲は厳しい。すぐに声が裏返える。

 一番が終わるとキーを落としてくれた立花さん。


「ねえねえ深山さん、この曲知ってる?」

「はい、深夜アニメのオープニング曲です。『お兄ちゃんなんて、いますぐ逮捕しちゃうからねっ!』のオープニングです」

「よく知ってるわね」

「はい、わたしの兄が見てるんです。ちょっとだけエッチなアニメです」

「ふうん……」

 目の前で小金井と深山さんが何やら会話している。次の選曲の相談だろうか。


「先輩は歌が上手いですっ、抜群ですっ!」

 お世辞を並べてくれる立花さん。

 ちらりと見ると目があった。嬉しそうに、そして優しく見つめてくれる。

 伴奏の音が、大河内のタンバリンが、僕の歌声がこんなにうるさいのに、心臓の音がバクバクと聞こえる。


「繭香ちゃん、負けないわっ!」

 声の先を見ると選曲をしている小金井の目がきらり光っている。

 何を燃えているんだ?


 僕と立花さんが全力疾走で歌い終えると、続いて小金井、大河内と熱唱は続いた。


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