第4章 5話目
小金井の言葉でやっとランチタイムが始まった。
小金井と大河内の弁当だけで五人分あるので量は多すぎるのだが、育ち盛りは遊び盛りで食べ盛り、みるみる弁当は減っていく。
「この卵サンドって凄く美味しいわね! 繭香ちゃん、これ高くても売れるわよ!」
「弥生先輩のおにぎりも塩加減抜群で最高です!」
朝から見ているとこのふたり、小金井と立花さんはとても仲がいい。
部活以外でも一緒のところを見たことがあるし。
「佳奈先輩のローストビーフって凄く柔らかいですっ。国産高級牛ですねっ!」
「あかねさんの太巻きも本格的です~、自分で作ったんですか~?」
「へへっ、一応です。これでも料理は得意ですっ!」
そしてこのふたり、大河内と深山さんのペアもいい味を出している。
これで僕さえしっかりすれば、今年の文芸部は安泰だろう。
しかし、小金井も言っていたけど、立花さんの卵サンドはバカうまだ。漢字で書くと馬鹿馬。上から読んでも下から読んでも馬鹿馬。いいこと発見した。尚、最後の漢字は馬ではなくて旨だと言う苦情は現在受け付けていない。
「あ~っ、さすがにお腹いっぱいだわ!」
小金井が妊婦のようにお腹をさする。
「そうですね、わたしももう食べきれません」
立花さんが追随する。
「私もです~ 焼き肉食べ放題で出入り禁止になるくらい食べました~」
「大河内、焼き肉食べ放題で出入り禁止になった経験があるのか?」
「上タン、もとい冗談ですよ。あるわけないじゃないですか~ 第一、私、焼き肉はあまり食べませんから~ いつも行くのは生肉喰い放題のお店です~」
生肉喰い放題って何だ? 人外向けか?
「なあ、その生肉喰い放題のお店って、どこにあるんだ?」
「ネアンデルタール人にでも聞いてください~」
真に受けた僕がバカだった。
「じゃあ皆さん、デザートのポテチですっ」
「ポテチってデザートの一種だったのか?」
僕の質問を美しくスルーして深山さんが両手にポテチの袋を持って立つ。
「ポテチは別腹だからね~!」
女性陣がみんな飛びついた。
分からない。甘いものが別腹ってのは感覚的に理解出来るけど。
彼女達がポテチに群がる様を見ながら、僕は残っているおにぎりにかぶりつく。
ガリッ!
出た!
これか!
小金井のおにぎりには『ハッピーおにぎり』が混じっているらしく、当たりにはおもちゃが入っているのだそうだ。
「……子供用ペンダントか」
頼むからヘンに工夫せず、梅干しとかを入れてくれ。
「あっ、翔平くん当たりを引いたわね! おめでとう。もう一個食べてもいいわよ!」
「勘弁してくれよ!」
さすがにもう満腹だったけど。
勧められると断れず、罰ゲームのようにおにぎりを食べ続ける。
やっとの思いでおにぎりを胃袋に納め周囲を見回すと、小金井と立花さんが立ち並んで眼下の街並みを眺めていた。
「ところで弥生先輩のお家ってどこですか?」
「ああ、分かるかな? あの工場の奥にあるマンション」
後ろから近づくとふたりの会話が聞こえてきた。
「あのベージュ色のマンションですか?」
「そうそう。結構古い建物だけどね、もう十年以上住んでるかな。繭香ちゃんのお家は?」
「わたしの家は、う~ん、ここからは見えませんね。あの煙突が立ってる銭湯の裏になるんですけど」
「ああ、あの目立つ煙突ね。わかるわかる。本屋さんなんだよね」
「あ、本屋は祖父がやっていて、わたしの家はその隣なんですけどね」
「今度、繭香ちゃんのお店に本を買いに行くわね」
「ありがとうございます。でも小さなお店ですから……」
「翔平君は行ったりするんでしょ。敵情視察も兼ねてよ!」
「えっ!」
「だから繭香ちゃんも遠慮なんかしないでね」
「弥生先輩……」
ホントに仲がいいな、このふたり。
でも何だ、その敵情視察って?
何となく割り込める雰囲気じゃないので、そっと離れる。
一方、大河内は深山さんのノートパソコンを覗き込んでいる。
「面白いね~、この小説。フランス革命前夜に転生するんだ」
「はい、歴史に疎かった主人公は自分がルイ十六世と結婚して初めて自分の未来を悟るんですっ。以降、主人公は歴史を変えるためにドタバタ劇を繰り広げるんですっ」
「あかねちゃんって、いつから小説書いてるの?」
「小学校6年の時ですっ。最初はマンガだったんですけど、絵心がなくって諦めたです」
こっちには声が掛けやすそうだ。僕はふたりに声を掛ける。
「連休が終わったら文芸同人誌の発行準備に入るから、深山さんも書いてくれるよね」
「あっ、羽月部長。勿論ですっ。もうネタは仕込んであるですっ!」
最初会ったときの控えめな印象はどこへやら。馴染んでしまうとよく喋る子だ。
「この前の話? 主人公は立花さん?」
「いえ、ちょっと考え直したです。どうせなら文芸部とラノベ部の全面戦争を書いてみたいですっ」
「……深山さん好きそうだね、そう言うの」
「はいですっ! 佳奈先輩は狙撃の名手で弥生先輩は秘拳の使い手、繭香が剣術の達人で羽月部長は救急班長ですっ」
「僕って救急班なの?」
「そうですっ。あっ、忘れてました。あかねは毒物使いの暗殺者ですっ」
「ねえ、文芸部なんだから暴力じゃなくペンで戦おうよ、ペンで!」
「ペンはケーンよりも強し、ですか」
「誰だよ、ケーンって!」
そんな会話を大河内はただ笑いながら聞いている。
今日はみんなでここに来てホントによかったなと思う。
「ねえ、そろそろカラオケに行かない?」
振り返ると小金井と立花さんが立っていた。
「そうだね、そろそろ行こうか」
僕たちは片付けを終えると下界のカラオケ屋を目指した。




