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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第四章 甘く修羅場な歓迎会
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第4章 4話目

「昼にしようか。時間も丁度いいし」


「そうですね~ じゃあここに広げましょう~」

 大河内がバックからお重を取り出す。


「今日は新入生歓迎だからたくさん食べてね~」

 立ち直りが早い小金井も大きなタッパーを取り出した。


「えっと、わたしも作って来たんですけど……」

 立花さんがランチボックスを手に持っている。


「わたしもちゃんと自分のはしを持ってきたですっ!」

 深山さんがマイ箸を右手にスタンバっていた。


「ある意味凄いよ、深山さん」

 そう言う僕を見て彼女はにやりと笑う。

「嘘ですよ羽月部長! わたしもちゃんと持ってきたですっ!」

 そう言って背中に隠していた弁当箱を差し出す深山さん。


「えっと、今日は新入生の歓迎会って言ったわよね。お弁当持って来いなんて言わなかったわよね」

 小金井が驚いたように一年生の顔を見る。

「はい、歓迎会だからとは伺いましたが……」

「作ってくるなとは言われなかったですので……」

 バツが悪そうに立花さんと深山さん。


「どうするの? こんなにたくさんのお弁当。あたしと佳奈だけで五人分用意してきたのよ」

「ま~ま~ 作ってきたものは仕方ありませんし~ 羽月さんがドンと巨大な胃袋で受け止めてくれますよ~」

「おい勝手なことを言うなよ、大河内……」


 僕の反論空しく目の前に四人が作ったお弁当が並べられた。


 唐揚げ、ローストビーフ、春巻き、磯辺揚げ、おかずがいっぱいの大河内のお重。

 大きいおにぎりがぎっしり詰まった小金井の巨大なタッパー。

 色とりどりのサンドウィッチがいっぱいの立花さんのランチボックス。

 具だくさんの太巻きといなり寿司で埋まった深山さんのお弁当箱。


「どうぞ、羽月さん! お口を開けて~」

「どうぞ、翔平くん! お口を開けてっ」

「どうぞ、羽月先輩! お口を開けてください」

「どうぞ、羽月部長! お口を開けてです」


 お弁当をつまんだ箸が手が、一斉に僕の口元に伸びる。


「ちょっと待て。おかしいだろ! 今日は新入生の歓迎会だよな。一年生を楽しませるんだよな!」


「はい、今、わたしたちとっても」

「楽しいですけど!」

 立花さんと深山さんが申し合わせたように言葉をつなげる。


「いや、楽しみ方が違うよね。なあ小金井、何とかしてくれよ!」

「安心して。このお弁当はみんなで食べるから。だけど……」


 彼女はギロリと僕を睨んで。


「さあ、誰のから食べるのかしら、翔平くん!」

「ごくっ……」


 本能的に身の危険を感じた。

 目の前で大河内の唐揚げ、小金井のおにぎり、立花さんの卵サンド、そして深山さんの太巻きが僕の口の中を虎視眈々と狙っている。どれから食べても他の三人に殺られそうだった。かといって、よっつ同時に口に放り込むことは物理的に不可能だ。


 冷や汗が額を流れる。


「勿論、あたしのおにぎりから食べるわよね、翔平くん!」

「あら~ 最初は唐揚げと決まってます~」

「先輩、わたしのサンドウィッチ食べてください!」

「あかねの太巻き絶対美味しいですから、お口あ~んですっ!」


 まずい。この状況は危険だ。なんとか上手く切り抜けないと。

 僕のピンク色の脳細胞が活動を始める。ちなみにピンク色と言うのは勝手な推測だ。


「はい、お口を開けて~」

「あ~ん、してください~」

「先輩、お口を!」

「あ~んですっ」


 考えろ! ピンク色の脳細胞。


「あの、さ。僕って好きなものは後から食べる派なんだよ、ね……」

 四人に動揺が走った。


 さささっ!


 僕の目の前から一斉に食べ物が消える。

 よかった。第一ステップはクリアだ。

「でも、まず一口目に美味しいのを食べておいて……」


 ささささささっ!


 瞬時に口の前に食べ物がスタンバイする。

「それでも、最高に美味しいのはやっぱり最後かな?」


 さささささささささっ!


 また手品のように目の前から食べ物が消え失せる。

「しかし、本当は食べる順番なんて関係ないんだよね!」


 さささ、ささ、さ、さ?


 食べ物が中間地点で止まる。

「こう言うのって、みんなと一緒に食べるから美味しいんだよね」

 僕はみんなを見ながらそう言うと大河内のお重から春巻きを手で抓んで口に放り込む。


「美味しいよ! みんな食べようよ。順番なんてどうでもいいじゃないか」


「ふうっ!」

 誰のものとも分からない溜息が聞こえた。


「そうね、みんなで食べましょうか」


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