第4章 2話目
一年前。四月のある日の放課後。
ぴかぴかの新入生だった僕は文芸部の茶話会に向かっていた。
中学時代は卓球をしていたけど、そんなに上手くなかったし、高校では他のこともしたかった。文芸部の勧誘ビラを片手に歩いていると、ひとりの女生徒がたくさんの人たちに囲まれているのが目に入った。
「ねえ、うちの部に入ろうよ。すぐにレギュラーになれるからさ!」
「何言ってるの、小金井さんはバレー部に決まってるでしょ! 県下随一の名セッターなのよ!」
「いやいや、陸上部だよね! 1500Mで市の記録を作ったの、君だよね!」
「君、可愛いね。演劇部に来ない!」
「あの、困ります。まだ何にも考えてませんし……」
「じゃあ取りあえず女子テニス部へいらっしゃい! 毎日ポテチ食べ放題だよ!」
「彼女はバレー部が予約済みなんですっ!」
「バカを言うなよ、本人が決めることだろ。ね、陸上部だよね」
「おおロミオ、ロミオ、貴方はどうして演劇部なの!」
「あの、困りますって……」
初めて見る光景だった。
ひとりの新入生を巡って幾つもの部が激しい争奪戦を展開している。
僕になんか中学時代やっていた卓球部からすらお声が掛からなかったのに。
思わず立ち止まってその様子を見ていると、囲まれている女生徒が僕をじっと見つめてきた。もしかして助けを求めているのかな。
気のせいかもと思ったが、人差し指で自分自身を指差すと彼女はコクリと首肯する。
気のせいではなさそうだ。
ちょっと怖いけど、本当に困ってるみたいだし。
「ほら遅れちゃうよ! 早く行こう!」
僕はそう言って走り寄ると、彼女の手を取ってその場から連れ出した。
「あっ、こらちょっと待て!」
「話の途中よ! どこ行くの!」
「おおロミオ、ロミオ、貴方はどうして逃げてくの!」
しかし勧誘する先輩達は諦める様子もなく背後から迫ってくる。
「走ろう!」
そう言うと僕は彼女と文芸部に向かって走り出した。
僕自身文芸部に行くのは初めてだったけど、新入生だった僕は他に逃げ場所を知らなかったから持ってる勧誘ビラにすがるしかない。
背後に追っ手達を引き連れたまま文芸部に逃げ込むとドアを閉める。
「こら、開けろ! 文芸部なんかに入ってどうする!」
「ドアを開けて。追ってきなさい、弥生!」
「逃げられたら涙が出ちゃう。女の子だもん!」
「引くべきか、引かざるべきか、それが問題だ!」
引けよ、演劇部。
文芸部の人たちは何事かと驚いた様子だったが、彼女を勧誘から匿って欲しいと申し出ると、当時の部長の志賀先輩が外に出て勧誘員達を追い払ってくれた。
「ありがとうございます。助かりました」
「これで良かったかな。せっかくだからポテチでも食べて行きなよ。別に勧誘はしないからさ」
茶話会を始めた志賀部長は決して小金井を勧誘はしなかったけど。
「わたしも入部します!」
小金井はその場で文芸部に入ってしまった。




