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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第一章 新入部員は秘密の本屋さん
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第1章 1話目

 第一章 新入部員は秘密の本屋さん


 失恋の翌日。


 桜も残る四月のある日。

 ここは松院しょういん高校文芸部の部室。

 僕、羽月翔平はつきしょうへいはふたりの女性部員と極めて真剣な議論の最中だ。


「で、新入生歓迎茶話会はもう明日なのに参加予定者がゼロってどういう事よ!」


 赤毛のツインテールを振り乱して小金井弥生こがねいやよいが僕を責め立てる。

 いつも元気で当たって砕けて破壊する、猪突猛進系の美少女だ。


「いや、校内掲示板だけじゃなく、トイレにも部員勧誘のポスター貼りまくったんだけどさ、やっぱりうちの部、全然人気がないというか……」

「あ、そのポスターなら佳奈かなも見ました~。二階女子トイレの壁にも貼ってあって落書きまでしてありました~。『佳奈の妹も募集中!』って」


 ウェーブが掛かった栗毛のこの子は大河内佳奈おおこうちかな

 おっとりとした天然系美少女だ。


「ねえ翔平くん、女子トイレにポスターが貼ってあったってどういう事? あなたもしかして女子トイレに潜入したの?」

 指をポキポキと鳴らして小金井が迫る。

「ちょ、ちょっと待て、誤解だ誤解。女子トイレのポスターは全部大河内が……」

「問答無用!」


 ばしっ!


 ハリセンで殴られた。

 さっきまで指を鳴らしていたのは何だったんだ。


「いって~…… 誤解だってば。大河内が自分で貼って自分で落書きして、自分の妹を募集してるんだよ!」

「ご名答~。よくわかりましたわね。でも、わたしの秘密を喋るものは、特殊機関に狙われて~」


 何だか偉そうに大きな胸を張る大河内。

「僕を消す前に、落書き消せよ!」

 ポスター貼りごときで殺られてたまるか。


「そんなことより早くこのビラを配りに行こう。一年生が帰っちゃうし!」

「そうね、このままだと文芸部は廃部だからね」

 三人は新入生勧誘のビラを持って部室を出ると校門へ急いだ。


「はあ……」

 ふと、昨日の、あの本屋さんでの出来事を思い出す。

 しかし今は失恋ごときに落ち込んでいる場合じゃない。


 去年の三年生が卒業し、今の文芸部は僕たち三人だけ。

 うちの高校は五人に満たない部は廃部にされる。

 伝統ある文芸部を僕たちの代で潰すなんて許されない。


 何としてもあとふたり、新入生を確保するんだ。


          * * *


 校門に着いた僕たちは、なりふり構わず下校途中の新入生に声を掛けまくる。


「文芸部です。小説が好きな人、是非来てください!」

「明日茶話会を開きま~す。お気軽に来てね~」

「お茶もお菓子も美味しいプリンも用意してま~す!」


 緑の芽がちらほら見える桜の木の下。

 僕たちは必死に頭を下げてビラを渡す。

 でも世間はブラック無糖だ。甘くない。


「あのう、文芸部に入ったら突然フラグが立ってハーレムですか?」

「いや、多分、それはないです」


 たまに質問があってもこんな感じ。


「文芸部って漫画喫茶よりお得ですか?」

「お席のご指定は出来ませんけどね~」


 言うまでもなく文芸部は本を読んだり小説を書いたり。

 定期的に文芸同人誌も出している、それなりに真面目な部だ。


「文芸部に入るとHPヒットポイント回復しますか?」

「ゲームクリアできたらいいですね~」


「文芸部に入るとイケメンの専属執事が付いてきますか? きゃっ!」

「妄想が叶うといいですね~」


 頼む。ふたりだけでいい。まともな入部希望者はいないのか。


「文芸部に入るとポイント貯まりますか?」

「二倍だったらいいですね~」


「文芸部に入ると食べ放題になりますか?」

「あなたは運動もした方がいいですね~」


 人気がないのは分かっていたけど、関係ないにもほどがある。


「文芸部に入るとお肌がスベスベになりますか?」

「なればいいですね~」


「文芸部のビラ、わたしにも戴けますか……」

「はい、戴けたらいいです、ね…… えっ!」


 そこには煌めく長い黒髪に、くりっと大きな瞳の立花たちばなさんが僕を見つめて。


「あっ、はい、はいどうぞ!」

 僕の鼓動が急上昇を開始する。


「ありがとうございます、先輩」


 凛と立つ彼女は優しく微笑んでビラを受け取ってくれる。

 思わず俯く僕の目には初めて目にする彼女の黒パンスト。


「ズキュン!」


 その細く長い脚線美は妙に艶めかしく僕の心臓は一瞬で射貫かれた。


「……あ、あ、明日の放課後、歓迎の茶話会を開きます、是非……」

 去りゆく彼女は少し振り返りにっこりと会釈してくれた。


 でも……

 でも、来てくれるわけないよな。

 僕は軽蔑されてるんだ。

 僕なんかスケベでゴミでクズでバカな変態にしか思われてないんだ。


 この出来事は神様が許してくれた最後の眼福。

 ありがとう立花さん。

 もう一度あなたの笑顔を拝めただけで、僕は思い残すことなど何ひとつ……


「ちょっと翔平くん、なにボーっとしてるのよ。一年生が逃げちゃうじゃない!」

「あっ、ごめんごめん」

「部長なんだから、しっかりして頂戴!」


 我に返った僕はまた声を張り上げる。

「文芸部です! 小説が好きな人、是非来てください!」


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