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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第二章 小説勝負は八百長の香り
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第2章 7話目

 次の日からは投票のお願い回りで忙しくなった。


「はあっ」


 上級生の教室を回るのは気が重い。

 でも頑張らなきゃ。


 昼休み、教室で昼食を取り終え校舎の四階に向かう。三年の教室は四階なのだ。


「おや、これは羽月翔平。三年のクラスに何か用でも?」


 声はするが姿が見えない。

「……?」

 無視して歩こうとしたら、何かを踏みつけた。


「いでっ! 踏むなゴラア!」


 夢野先輩を踏んでいた。

「あっ、夢野先輩! どうして廊下に寝てるんですか!」

「ちゃんと立ってたのにお前が踏んだんだ!」

 慌てて足を退けると彼は僕を睨みながら立ち上がる。

 が、やっぱり僕の視界に入らなかった。

 普通の小学生でももっと背が高いと思う。

 ちゃんと毎日牛乳を飲んでいるのだろうか?


「もう一回踏んでもいいですか?」

「そんな趣味はない!」

 夢野先輩は僕の真下で精一杯ふんぞり返る。


「三年の教室に来るとはな。羽月は年上の女にも手を出す気か!」

「違います! アンケート協力のお願いですよ」

「バカめ。俺様の本拠地へ来て正気で帰れると思うなよ! おい、手下一号二号!」


 突然僕はふたりの男に両腕を掴まれ身動きができなくなった。

 ふと見ると夢野先輩は絵筆を手に持っている…… 絵筆?


「それっ!」

「ひゃはははははははははははははははははははっ!」

 くすぐられた。

「ダメです! 僕、耳たぶの裏とか足の裏とか脇の下とか弱いんだから!」


「ラノベ部万歳と叫ぶんだ!」

「誰が…… ひいゃあははははははははははははははっ!」

 しまった。耳たぶの裏をやられた!


「ラノベ部に清き一票をと叫ぶんだ!」

「やめて…… ぶひゃっははははははははははははははっ!」

 ダメ、足の裏ダメだってば。気が狂いそうだ。頭がウニになりそうだ。


「文芸部の負けです、と叫べ!」

「死ぬっ…… ぐぶひゃっはははははははははははははっ!」

 ひどいっ、脇の下まで犯すなんて!


「早く言わないと次は乳首だぞ!」

 あっ、そこは! それだけは!

「やめ、たすけ…… ぶぎぐふひゃっはははははははははっ!」

 悶絶し気絶寸前の僕。


「トドメだ、やれ、手下三号四号!」

「何をしてるの、やめなさい! 手を放しなさい!」


 聞き慣れた声がした。

「あっ、そっ、その声はっ!」

 夢野の野郎とその手下どもがたじろぐ。


「や、弥生ちゃん! どうしてこんなところへ……」

 うわずる夢野の声。


「翔平くんを解放しなさい。さもなくば踏みつけるわよ!」

「ふ、踏んでくださるので!」

 夢野の眼がキラキラ輝いた。


「じゃなくって。け、蹴飛ばすわよ!」

「蹴って戴けるので!」

 跪き手を組んで小金井に祈りを捧げている。


 やっぱりドMだった!

 見ると彼の手下どもも小金井を見てうっとり顔をしている。


「そう言えば小金井って、めちゃめちゃモテるんだよな……」

 思わず呟く。

「えっ……」

 一瞬僕を見た小金井はすぐに明後日の方を向いた。

「何言ってるの翔平くん。さ、行きましょう」

 彼女は僕の腕を掴むと走ってその場を離れた。


 廊下を曲がると僕たちは立ち止まる。

「どうしてあんなことになってたのよ!」

「どうしてって、夢野先輩に絡まれて…… って、小金井こそどうして三年の教室に?」

 小金井は僕を見て。

 少し頬が赤く見えたのは気のせいか。


「ねえ、翔平くん。三年はふたりで回りましょうよ」

「えっ、いいのか、小金井」

「ごめんね、最初からそのつもりだったんだけど、昼食に時間掛かっちゃって」

 そう言うと彼女の右腕が僕の左腕に絡んできた。

「ねっ、行きましょ!」


 彼女は嬉しそうに僕を引っ張っていく。

「おいっ、ちょ、待てよ小金井!」


          * * *


 あっと言う間に三日が過ぎた。


 部員数の差は如何ともしがたく宣伝合戦はラノベ部に押されているけど、小説自体は僕らの方が絶対面白い。感触的には五分五分の戦いだ。


「と言うわけで、明日の放課後、僕と左岸先輩が投票箱を回収し集計する。僕の感触では何とか勝てると思う。頑張ってくれてありがとう」


 木曜日の放課後、僕は文芸部のみんなの前に立つ。


「回収したアンケート用紙、佳奈は見られないんですか~?」

 と、大河内。

「勿論、集計後に閲覧できるよ。僕らも、ラノベ部の連中もね」

「よかったです~。今からどんなに変な落書きがしてあるのか、楽しみです~」

 変な期待をしてる大河内は二年生相手に応援のお願いをしてくれた。

 天然キャラにみんなが好感を持ってくれたようで、部員数では負けているのにラノベ部相手に堂々と渡り合ってくれた。


「でもアンケート結果ってちょっぴり怖いですね」

 と、立花さん。

 小説とイラストをほとんど書いた彼女は、一年生への応援お願いの方も素晴らしい活躍をしてくれた。たったひとりでラノベ部一年生十二人相手に奮闘してくれた。文芸部が勝利したら間違いなく彼女が一番の殊勲選手だ。


「あの話は面白かったから絶対大丈夫よ。頑張ったね、繭香ちゃん」

 と、小金井。

 あの日以降、小金井は昼食時になると僕の教室に来て一緒に三年生への宣伝を手伝ってくれた。それはそれでありがたかったけど、腕を組んで廊下を歩くものだから、冷やかされて困った。肝心の宣伝成果の方だけど、やはり下級生による飛び込みは正直厳しかった。


「じゃあ、今日の話はこれでおしまい。帰ろうか……」

 僕が席を立とうとすると小金井が口を開いた。

「あの、こんなことはないと思ってるけど、絶対負けないよね。ラノベ部の傘下に入るなんてこと、絶対にないよね」

「……大丈夫さ」

「あたし、あのちびっ子キザ野郎が部長なんて絶対嫌よ! 部長は羽月くんでないと嫌なんだからねっ!」

「ありがとう。でも、どうして僕なの? 確かに夢野先輩は僕も嫌いだけど。左岸先輩だっているし……」


 小金井は少しだけ俯いて。

「そうね。左岸先輩はいい人よね。でもあたしは翔平くんがいいの。部長の翔平くんは、その、ちょっとだけ、かっこいいから……」

「へっ?」

「さっ、あたしも帰ろうっと!」

 小金井は慌てたように鞄を持って立ち上がった。


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