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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第二章 小説勝負は八百長の香り
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第2章 6話目

 日曜日の夜。

 ベットの上に寝転がって天井を見つめる。


「はあっ」


 波乱に富んだこの一週間のことが次々と記憶から蘇る。


 夢野先輩。

 キザ野郎。大嫌いだ。

 どこの馬の骨とも鹿の骨ともわからないくせに立花さんを誘うなんて。

 百億年早いんだよ、ちびっ子部長。


 それに比べて左岸先輩は本当にいい人だな。

 彼女がラノベ部の部長だったら。

 すぐにでもふたつの部の統合が出来る気がする。

 彼女は否定してたけど、僕は出来ると思う。


 小金井。

 今まで同じ部で結構仲良くやってきたけど、

 知らなかったよ、そんなに期待してくれてたなんて。

 小金井のためにも頑張らなきゃ。

 彼女って朗らかで優しくて、綺麗だ、し。

 もしかして僕のこと気にしてくれてるのかな?

 いや、自惚れはよそう。

 でも、もしも彼女とデートができたら、楽しいの、かな。


 大河内。

 いつもほんわか柔らかく僕らを見守ってくれていて。

 美人なのに優しくて、気兼ねもしないし、されないし。

 僕は部員に恵まれていると思う。本当に。

 ちゃんと感謝しなくちゃね。


 あっ、立花さん!

 僕のことなんか軽蔑してるよね。

 でもいつも優しくてくれて、本当に出来た人だよな。

 ただ時々わからなくなるよ、あなたのこと。

 土曜日も帰る間際に変なことを言われたし。


「また、うちのお店に来るときは、先に教えてくださいね。

 その、準備とか色々……

 そ、そう、うちの本屋は予約制にしましたから!」


 予約制ってなんだろう。

 まあ、可愛い後輩の頼みだし、行くときは事前に言うって約束したけど。


「はあっ」


 そしていよいよ明日からラノベ部との勝負。

 みんなのためにも、絶対勝たなきゃ。

 天井を見つめながら改めて誓った。


          * * *


 月曜日の朝。


 僕は左岸先輩と短編小説の冊子とアンケート用紙、それに投票箱を設置した。

 掲示板にも案内を掲示した。

 こんな内容だ。



 春だ! 短編小説人気投票


 ラノベ部、文芸部が一遍ずつ、自信の短編小説お届けします。

 なんと冊子は無料!

 ぜひ読んで、好きな作品に一票を入れてください。

 好きな理由、嫌いなわけ、感想、お小言こごと、待ってます。


 主催 松院高等学校  ラノベ部・文芸部



 いよいよ戦いの火ぶたは切って落とされた。ちょきちょき。


 放送部にも協力して貰って校内の認知度はぐっとアップ。

 当然、部の統合を賭けてることは隠しているから、生徒の反応は概ね良好。

 二百冊設置したした小冊子も昼休みには追加補充と相成った。

 この調子だと放課後には追加の製本も必要だ。


 とっても嬉しい。


 クラスの友人、市山が声を掛けてくる。

「なあ羽月、今年の文芸部はド派手だな。張り切ってるな」

「えっ、そうか?」

「そうだよ、勧誘ポスターの乱れ貼りにド派手な新入勧誘、それに今回の人気投票」

「そう言われてみれば、そうかな」


 言われるとおり今学年になってから良くも悪くも目立っている。

「結構有名だぜ、美女三人に囲まれて羽月は寝る間もなく寝てるって」

「ぶっ!」

 まだ僕、童貞なんですけど!

「何言ってんだ。何なら市山も入るか、文芸部?」

「やだよ、羽月の引き立て役なんて」

 まあ冗談なんだけど。市山は卓球部だし。


「それよりさ、ラノベ部の連中は凄い集票工作してるけど、文芸部はやらないの?」

「えっ? 集票工作って?」

「ラノベ部に一票入れると、薄い本が貰えるって」

「買収じゃん!」


 そんなことしてるのかラノベ部。これは対策を考えないと……


          * * *


 放課後。

 文芸部室には部員が全員集合だ。


「さっきラノベ部に抗議して、買収行為は反則負けと言うことにした。正々堂々戦おう」


 僕はみんなの顔を見回す。

 放課後、買収行為に抗議すべく僕と小金井はラノベ部に押しかけた。

 出てきた夢野部長は手を変え品を変え反論を始めたが、すぐに左岸先輩が彼をロッカーに押し込んだ。左岸先輩は一同に買収行為の禁止を厳命すると僕らに深く頭を下げた。


 小金井は立花さんを見ながら。

「買収はダメだけど宣伝はOKだから。一年のクラスメイト、級友、友達、同窓のみんなに宣伝よろしくね」

 対象が全部同じだった。


「はい、わかりました。わたしは一年生に宣伝します。三年生には……」

「そうね、うちに三年生はいないから、ここは部長の出番ね!」

「んぐふっ!」

 クッキーが喉に詰まる。


「そんな~、上級生の知り合いなんて少ないし……」

 困惑顔の僕に立花さんが遠慮がちに提案する。

「あの、よければわたしも一緒に回りますけど……」

 と、小金井が何故か慌てて。

「あっ、大丈夫よ。一年生はひとりだけだから繭香ちゃんはそこに集中して。翔平くんの背中はちゃんとあたしが押しておくから!」

「はいはい、わかったよ。僕が三年を受け持つよ」

「お願いします」

 立花さんは控えめに微笑んだ。


「ところで~、ラノベ部の短編はもう読みましたか~?」

 大河内はひとり我が道を進んでいた。

「はい、読みました。面白かったと思います」

「そうね、そう言う繭香ちゃんのダイヤの女王クイーンには及ばないけどね」


 ラノベ部の短編小説は『死神よ、こんにちは』。

 今朝僕も読んでみた。

 敵ながら結構面白かった。

 あらすじはこうだ。



 起 大好きな彼に死神が取り憑き、もうすぐ死ぬことを知ってしまう少女。

 承 少女は彼から死神を引き離す。代わりに自分が死神と契約する。

 転 契約は「彼が幸せになると少女は死ぬ」だ。少女は彼の前から姿を消す。

 結 彼は少女を必死で捜し死神と対決、見事勝利を収める。めでたしめでたし。


 

 正直ラストだけがもう少しというか、なんだか違和感があった。

 彼の前で自分が死ぬことで、彼を悲しませたくない。

 少女は彼だけの幸せを祈って姿を消すわけで。

 ここまではとても感動ものなのに、強引にハッピーエンドにすることで感動が薄れた。


 僕はみんなに問いかける。


「あれ、誰が書いたと思う?」

「まさか今年の新入生ってことはないわよね?」

「タイトルは左岸先輩好みですけど~、文章はきっと違いますね~」

「寄せ集めの合作、でもなさそうだし……」

「はい、わたしも書いた人はひとりだと思います」


 みんな顔を見合わせる。


「誰でもいい。叩きのめすまでだわ! やるわよ!」


 ばすっ ばすっ


 小金井がラノベサンドバックにアッパーカットを浴びせるながら声を上げる。


「そうだな、頑張ろう!」

「はいっ」

「はい~」


 みんな笑顔で頷いた。


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