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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第二章 小説勝負は八百長の香り
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第2章 4話目

「ルールの説明はこれでいいよね」

 僕はそう言って部員達を見回した。


 じゃあ次は、みんなの短編小説アイディアを教えて貰おうか。誰から……

「……」

「……」

「……」

 三人にじっと見つめられた。

「わかったよ、僕からね」


 僕は昨晩必死に考えたストーリーの説明を始めた。

 ちなみにあらすじは起承転結で簡潔に述べるのが文芸部のおきてだ。



 起 僕は売れない漫画家。戦隊ショーの悪役バイトの日々も、もう限界だ。

 承 ショーの最中、腹いせにヒーロー達をぶっ飛ばし、バイトもクビになった。

 転 僕の新作漫画「悪の戦闘員、正義を討つ」が大ブレーク。

 結 インスタントラーメンに卵を入れる贅沢な生活が出来ましたとさ。



「翔平くん、いつも思うんだけど、『結』の意味が不明だわ」

 ポテチの袋を開けながらジト眼の小金井が口を開く。

 

「いや、結論はぶっ飛んだ方がコメディーぽくって面白いかなって」

「ふうん、わかったわ。3点ね」

「3点って、何点満点だよ!」

「勿論100点満点よ」

「厳し過ぎっ!」

「あら、結構いい評価よ。0点、1点、2点、3点、100点、の五段階評価だから」

 妙に偏った表現方法だった。


「じゃあ、次は小金井、紹介してくれ」

「わかったわ。今回は自信作だからね」

 そう言うと小金井は白板にあらすじを書き始める。



 起 ある朝、目を覚ますと、毒虫になっていた。

 承 いざこざに巻き込まれ人を殺してしまった。

 転 全ては太陽が黄色かったせいだ。

 結 ところで低カロリーのポテチってないのかしら?



「どう、完璧なストーリーでしょう!」

 自慢げな小金井に僕はぶっきらぼうに呟く。

「いや、『結』が単なる欲望になってるだろ」

「不条理小説だから問題ないわ!」

 言い切られた。

「カミュとカフカが一緒に楽しめて~、お得感二倍です~」

 手放しで褒め称える大河内。

「……」

 さっきから立花さんは絶句したままだった。


「じゃあ、次、大河内のアイディアを紹介してくれ」

「はい~、それでは~ コホン」

 咳払いひとつ。大河内は立ち上がるとメモ書きを読み始めた。



 起 我が輩はくまである。名前はハチ公。ご存じ文芸部のマスコット。

 承 我が輩だけが知っている部長と副部長の仲違いの真実。

 転 我が輩だけが知っている羽月さんの隠された秘密。

 結 シュークリーム一年分で手を打ってもいいわよ~。



 脅迫された。

 小金井が興味津々に身を乗り出す。

「ねえねえ翔平くん、何その隠された秘密って?」

「鎌をかけんなよ。ないよそんなの」

 それを聞いた大河内が意味ありげに薄ら笑いを浮かべる。

「あら、シラを切る気ですね~。ご存じですよね? 立花さんは」

「えっ?」

 急に振られた立花さんは、ちらりと僕を見る。

 心臓が飛び出しそうになる。

 僕は、ただひたすら祈る。


『頼む、言わないで~、あんな本やこんな本を買ったこと、お願い、言わないで~』

「……」

『また買いますから、たくさん買いますから、言わないで~』

 数瞬の後、立花さんは僕から目を逸らして俯いた。


「わたしも知りたいです。もし羽月先輩に秘密があるのなら……」

「おかしいですね~。私の勘はよく当たるのですけど~」

 大河内が残念そうに着席する。

 次から暴露小説だけは禁止にしよう。


「じゃあ、トリは繭香ちゃんね」

 冷や汗を拭う僕に代わり小金井が話を進めた。

 その言葉に立花さんが緊張した面持ちで席を立つ。

「えっと、では、つまらないとは思いますが」

 そう言いながらも彼女は明瞭な声で言の葉を紡ぎ出す。



 起 異世界にトリップした野心家の僕は不思議な魔力を持つ老婆に接近。

 承 老婆を手にかけその魔力を強奪した僕は、富と権力を欲しいままにした。

 転 ついに僕は国で一番美しく気だての優しいお姫様と結婚する。

 結 結婚の誓いをたてた瞬間、姫の姿はあの老婆の姿に変化した。



「これにしましょ」

「これいいです~」

「これで行こう」

 小金井と大河内そして僕の声が重なった。


「ええっ!」

 あまりにいい加減な決定に立花さんは開いた口を自分の手で塞ぐ。


「いいんですか、そんなに簡単に決めて」

 彼女の言葉に小金井が即答。

「だって、起承転結が揃ってたのって繭香ちゃんのだけだもん」

「もしかしてわたし、はめめられてますか?」

 他のアイディアがあれじゃ、誰だってそう思うよね。


 しかし。

「そんなことはありません~。繭香さんの話が魅力的だっただけです~」

 大河内が強引に納得させた。


「そうだよ立花さん、いいよこれ。ところでこの最後、姫の姿が老婆に変化するってところは幻覚なの、それとも復讐?」

「小説ではどちらにも取れるように描ければと。ただ主人公は最後に気が触れてしまう設定なんですけどね」

 なるほどね。幻想的な終わり方にするんだ。僕はもうひとつだけ確認をする。

「で、この話のタイトルは決めてる?」

「はい、一応。『ダイヤの女王クイーン』にしようかと」

「やっぱりモチーフはプーシキンからなんだ」

「はい、その通りです。スペードの女王クイーンをヒントにしました」

 にっこり微笑む立花さん。


 早速彼女には執筆を始めて貰うことにして、僕らは解散した。


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