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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第二章 小説勝負は八百長の香り
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第2章 2話目

 部室のドアは開いたまま。

 中からなにやら不穏な会話が聞こえてくる。


「じゃあ、名前は文芸部にも敬意を込めて『ラノベ文芸部』でいかがかな?」

「何度言ったら分かるの! 誰があなたの傘下になんか入るものですか!」

「いまなら弥生ちゃんには副部長のポストを用意しましょう。いかがですか? いい条件だと思いますけど」

「あなたがヒラに三段階降格して翔平くんを部長にするのなら考えてもいいわ!」

「なにを寝ぼけたことを、うちは部員二十人の巨大サークル、文芸部は生徒会長のお情けで首の皮一枚が繋がってるだけの整理ポスト銘柄だよね?」


 部室にはラノベ部の夢野勇馬ゆめのゆうま部長と数人の部員が来ていた。

 僕は部室に入ると大きな声で抑揚なく語りかける。


「ラノベ部の皆さん、一体何のご用でしょうか!」

「おや、やっと泡沫部長のお帰りですか」

「おや、ラノベ部の夢野部長。お久しぶりですね」


 僕は彼を睨みつけた。

 金髪の一見イケメンなキザ野郎。

 背はちびっこなのに人を見下した態度。

 そんな夢野先輩が余裕たっぷりに薄ら笑いを浮かべている。


「ふ、前向きな交渉をしていたのですよ。ラノベ部と文芸部が分裂して半年。どうです、そろそろ元の鞘に収めませんか。文芸部の面倒を丸ごと見てあげますよ」


 前からイヤミな先輩だと思っていたけど、その言い方に僕はカチンと来た。

「冗談と妄想は頭の中だけにしてください。うちは少数精鋭で部の存続も決定ました。どうぞお帰りください、ちびっ子部長」


 パチパチパチパチ

 バスバスバスバス


 後ろで大河内が拍手を、小金井がラノベサンドバッグにボディーブローを浴びせながら僕に喝采を贈る。


「とんだご挨拶だな、こう見えても俺様は毎晩欠かさず牛乳を飲んでいるんだぞ!」

 そう言って背伸びをする夢野先輩。

 少しだけ同情した。


 しかしそこで、彼は入り口に立つ立花さんに目を向ける。

「おや、あなたが今年文芸部に入部したという物好きな新入生、です、か……」


 彼は立花さんを見つめながら口を半開きにして目を見開いたまま、固まってしまった。

「もしも~し、夢野先輩~、よだれが出てますよ~。ちょっと、大丈夫ですか~?」

「……い、いや、これはなんと美しいお嬢さん! 今すぐラノベ部へいらっしゃい。副部長のポストをご用意いたしましょう!」

 夢野先輩は立花さんの前で片膝をつき、右手を高々と掲げる。


「繭香ちゃん、そんなヤツの近くにいたらアホが移るからこっちおいで!」

 小金井の言葉に、ポーズを取るキザ野郎を避けながら、立花さんが部屋の奥へと移動する。


「ううっ、おのれ羽月翔平!」

 立花さんにあっさり逃げられた夢野先輩は拳を握りしめながら僕を睨みつける。


「どうしてあなたのところにばかり可愛い子が集まるのですか! ハーレムでも作って毎日耳掃除をして貰うつもりですか!」

 耳掃除のためにハーレム作るか? めんどくさい。


「弥生ちゃんと佳奈ちゃんと言う、去年の文芸部二枚看板を手に入れたばかりか、今年はこんな可愛い一年生まで手に入れて!」

 いや、別に僕個人が手に入れた訳じゃないけど。何ひとりでワナワナしてるんだ、この妄想系。確かに小金井も大河内も校内指折りの美人だけど、別にうちはミスコン部でもナンパ研究会でもないから関係ないよね。


「何黙ってるんですか! こうなったら勝負です! 決着を付けましょう!」

「あの、さっきから何を言ってるんです? 何の決着をつけるんです?」

「決まってるでしょう!」

 夢野先輩は文芸部の女性陣をみて。


「この俺様が勝ったら文芸部はラノベ部へ吸収合併。貴方が勝ったら今のままの活動を認めましょう」


 何を言い出すかと思ったら。

「そんなの、僕らには何のメリットもないじゃないですか。お断りします」

「フッ!」

 しかし夢野先輩は口の端を吊り上げて鼻で笑う。


「じゃあ仕方がありません。今度の文化部会議で貴方の部の問題を指摘して潰してあげましょう」

「んなっ。そんなこと出来るわけ……」

「簡単ですよ。誰も文芸系の部がふたつもあることを快くは思っていません。予算の無駄遣いだってね」


 やばい。両部の統合を議案に上げられたら、確かにまずい。

「それに」

 夢野先輩はまるで勝ったと言わんばかりにふんぞり返る。


「この部の五人目の部員は誰なのですか? 一度もここには来てないようですが」

「まさか、うちの部を監視してるのか!」

「何を仰るおバカさん。だって、我々の部室は隣同士じゃないですか!」

「!」


 そうだった。実はラノベ部はお隣さんだった。忘れてた。てへっ。

「部員数を水増ししてますよね。その協力者を吊し上げて差し上げましょう」

「っ……」

 それじゃ青木先輩の立場がなくなる。僕らを救ってくれた恩人なのに。もしかしてコイツ全部知ってて言ってるのか。

「おや、どうしたのかな、顔色が悪いようですね。そうそう、文芸部に甘い生徒会長はお元気ですか?」

 やっぱりこいつ、分かってて青木先輩を……

「どうします。勝負するのか、しないのか?」


 青木先輩に絶対迷惑はかけられない。

 いままでいっぱいお世話になってきた、とっても素敵な先輩なのに。


「おや、返事がないですね。じゃあ、今度の文化部会議で貴方と青木会長、ふたり並んで土下座でもして戴きましょうかね……」

「……わかった」

 歯を食いしばりながら僕は声を絞り出した。


「で、何を競うんだ」

「おや、少しは話が分かるじゃないですか、羽月翔平。じゃあね、勝負はやはり小説で付けましょう!」

「小説? またリレー小説で殺し合いでもする気じゃ?」


 去年の部長と副部長がやったようにリレー小説を交互に書き合いながら、どちらのキャラクターがより強いかを競うつもりだろうか? そんなの後から書いた方が勝つに決まっている。あのバカでバカを洗うような地上最低戦を再現しようというのか、このキザ野郎。


「ふっ、リレー小説なんて、そんな生ぬるいコーラような方法はとりませんよ」

「生ぬるいコーラって?」

「気が抜ける」

「おい、小金井! 座布団巻き上げろ!」


 つい命令形で小金井に怒鳴ってしまった。あとで土下座しておこう。


「失礼ですね羽月翔平。勝負は、そうですね、短編小説の人気投票、でどうでしょう?」

「短編小説の、人気投票?」

 僕の顔を見ながらキザな薄ら笑いを浮かべる夢野先輩。


「飛ぶ鳥を落とす勢いのラノベ部と、飛ぶ豚が落ちる勢いの文芸部、お互いに一遍ずつの小説を無償配布してどちらが面白かったかアンケートを取りましょう。審査員は全校生徒。どうですか?」


 アンケートで人気投票?

 そんなことやりたくない。


「不満そうですね。ま、あなたの小説は面白くありませんからね」

「万人に面白いことだけがいい小説の条件じゃないだろ!」

「おや、そんなことを言って勝負から逃げるんですか、役立たずな羽月部長?」

「くっ……」

「部員も集められない、面白い小説も書けない。ふっ、人気もプライドもまるでない、根性ゼロの地上最低なマヌケ野郎ですね」

「違うわっ! 翔平くんは頼りになるわ。最高の部長なんだから!」


 小金井が絶叫した。

「あんたなんかよりずっと面白い話を書けるんだから!」


 あ。

 策にはまってるよ、小金井。

 気持ちは嬉しいけど、さ。


「は~っはっは。じゃあ、受けるんですね、この話」

「……わかった、受けて立とう」


 僕は覚悟を決めた。

 小金井がああ言わなくても、多分避けられない勝負だったんだ。

「では、勝負は一週間後、作品はA4用紙二枚まで。細かいルールは後で決めましょう」

 そう言うとキザなちびっ子部長は部屋を出て行く。

「まあ、無駄だと思うけどせいぜい頑張り給え、マヌケな文芸部の諸君」

 一緒に来ていたラノベ部の部員達もそれに続く。


 しかしそんな中、

「あの、このくまって名前があるんですか?」

 小柄で華奢な女生徒が文芸部マスコットの大きなくまの頭を撫でていた。

 金色の髪に真っ赤なリボンが印象的な少し幼げな少女。

 今年の一年生だろうか、初めて見る少女だ。


「そのくまはマスコットの『ハチ公』です~、この部室でいつも待ってます~」

 大河内がほんわり語りかける。

 名前があったのか、くま。しかもハチ公。


「そうですか、可愛いですねっ。あっ、小説、楽しみにしていますっ」

 僕らに向かって何度も頭を下げながら、少女は慌てて出て行った。


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