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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
番外編 繭香の、どきどきストーキングデー
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番外編 繭香の、どきどきストーキングデー 1

秘密の本は、わたしのお店で買いなさい! 後日談となる、ふたつ目のサイドストーリーです。

明日のデートに着ていく服が決まらない立花繭香。やっとの思いで結ばれた羽月先輩との初めてのデートなのに! そんな繭香が取った行動とは……?! 是非お楽しみ下さい。

 番外編 繭香の、どきどきストーキングデー



 明日は羽月先輩と初めてのデートです。

 まだ前日の朝なのに、わたし、立花繭香の胸は、もうドキドキ高鳴ってます。

 夢みたい……


 幼稚園の時からの憧れ、羽月先輩。

 先輩はわたしをテーマパークに誘ってくれました。バスで一時間半のところにあるヨーロッパを模したテーマパーク。でも、わたしは先輩と一緒ならどこでもよかった。だからもっと近く、例えば水族館とかでもいいって言ったんですけど、どうしてかな、先輩はテーマパークがいいって言って。


 朝、クローゼットを開けて。

 そして着替えながら、わたしは明日着ていく服を考えています。

 何がいいかな?

 先輩の好みは研究済みよ。

 わたしの研究によると基本は黒ストにうさ耳のメイド服。でもって下着の代わりにビキニの水着で突然のプールや混浴にもバッチリ対応。婦警さんやアイドルのコスプレも捨てがたいけど…… って、こうしてみると、先輩って凄くオタッキー?

 でも。そんな羽月先輩がわたしは大好き。優しくって頼りになって、ちょっぴり鈍いけどわたしを大事にしてくれる。よし、先輩のためなら明日はメイド服で、って訳にもいかないわよね。


 そうだ!

 今日は予定がないし、明日着ていく服を探しに行きましょう!


          * * *


 駅前まで出て来たけど、朝早すぎたのかな、お店はほとんど閉まってます。

 時計を見ると、まだ十時前。わたしってとんでもなく方向音痴だから、必ず余裕を持って行動するんだけど、余裕を持ちすぎたようだわ。こう言う時に限って迷わず辿り着くんだから。

 シャッターが降りた商店街を横目に歩いて行きます。気の早い店はもうクリスマスの飾り付けをしていて。ああクリスマスか、待ち遠しいな。あれっ、あのビルは! 見覚えがあるビルが目に入りました。文芸誌『埠頭ふとう』にも広告を出してくれたメイドカフェのメイシルフィードが入ったビル。そしてその建物に吸い込まれていくシルエットを見てわたしは思わず息を飲みました。


「羽月先輩!」


 小さな声が漏れたけど、遠すぎて声は届かないはず。わたしはその建物に早足で歩いて行って。あっ、ちょっと待って。わたしの今日の格好って、ジーンズに暖かさを優先したモコモコのジャケット。ダメだわ、こんな格好で先輩の前にのこのこ出てったら、何のために明日の服を買いに来たのか分からなくなるじゃない。でも、先輩何しに来たのかな。

 わたしは立ち止まりました。先輩の目的は想像がつくわ。だってメイシルフィードは大河内佳奈先輩がバイトしているから、きっと何かのイベントに誘われたとかに違いない。


 でも、まさか。

 いや、絶対大丈夫と誰が言えるの?


 急に胸が苦しくなって。これがもしかして、ジェラート?

 ……じゃない、ジェラシー?

 ダメよ繭香、先輩を疑うなんて!

 でも、だけど……


 わたしはバッグからベレー帽とサングラスを取り出すと、完全変装を決めてメイシルフィードに向かいました。


「いらっしゃいませ、お嬢さま」


 出迎えてくれたのは『うりゃ魔女ドミソ』のお面を付けた店長と、眼鏡っ子のゆゆちゃん。そうだ、いい考えがあるわ。


「あの、その仮面可愛いですね。わたしもお面掛けてみたいんですけど」

「えっ、あ、はい、お嬢さま。構いませんけど…… あとでお席にお持ちしますね。ゆゆちゃんご案内頼んだわよ」


 入り口近くの席に座ったわたしはぐるりと店内を見回しました。サングラスで少し見づらいけれど、朝早いと言うこともあって、店内は閑散としています。だから、羽月先輩はすぐに見つかりました。

 先輩は何をしているのかな。先輩は……


「お嬢さま、お待たせいたしました」


 驚いて声の方を見ると、店長がうりゃ魔女ドミソのお面をわたしに差し出してました。


「あ、ありがとうございます」


 慌ててお面を受け取ると、すぐに付けてみる……

 あれっ?


「帽子とサングラスはお取りにならないとお面はかぶれませんよ、お嬢さま」


 あっ、恥ずかしい。わたしったら何してるんだろ。愛想笑いを浮かべ店長に頭を下げると下を向いて帽子とサングラスを外します。そしてすぐさま借りたお面を被って。


「あ、凄くお似合いですよ、お嬢さま。黒髪がお綺麗ですね」

「ありがとうございます」


 黒髪……

 そうだわ、髪の毛も隠さないと。

 わたしはメニューでも最も安い部類の『くりいむれもんスカッシュ』を注文すると、髪をポニテにまとめます。これできっと大丈夫。羽月先輩は……

 お面を付けると視野が狭くて羽月先輩を横目で見ることは出来ません。だから思いっきり横を向くと。そこには羽月先輩が巨大なプリンを頬張る姿が見えました。先輩の前には、プリンの山、山、山! 

 何してるの先輩、そんなにプリンばっかり食べて! 思わずわたしはメニューを開きました。プリンメニューはと言うと……


 『ぷりんせすプリン』六百八十円

 『佳奈のGカップ★プリン』九百八十円

 『佳奈のツインGカップ★プリンwプリン』一千三百八十円……


って、何このメニュー! 佳奈先輩ってGカップだったの! 大きいとは思ってたけど、完敗すぎるわ! わたしはもう一度羽月先輩に目を向けます。先輩まだプリンを食べてるわ。あれっ、先輩の前に座っているのって、佳奈先輩! 手にノートを持って羽月先輩の言うことを書き込んでいるみたい…… あっ、羽月先輩こっち見た! 大丈夫かなっ! 先輩わたしを見てびっくりしている、バレたのかな。羽月先輩が店長を呼んで何やら言葉を交わしてるし。どうしよう……

 暫くすると、店長が羽月先輩にもお面を持って来ました。ああ、そう言うことね。わたしのお面を見て自分も被りたいって言ったんだわ。もう、お茶目なんだからっ、羽月先輩。


「お嬢さま、当店の『くりいむれもんスカッシュ』はいかがですか?」


 メイド衣裳がお似合いの眼鏡っ子ゆゆちゃんがわたしの横に跪きます。


「とっても美味しいです」

「ところで先ほどからあちらの席が気になるご様子ですけど……」

「あ、はい……」


 バレてた。だけど、これはいいチャンスかもだわ。


「あそこ、プリンがたくさんあって何だろうなって……」

「ああ、あれは、新作の品評会なんですよ。うちの店のプリン担当は一緒に座ってる佳奈ちゃんでね、新作をモニターのお客さまに評価して戴いてるんですよ。でも、あんなにたくさん試作があったらモニターさんも大変そうよね」


 くすりと笑うゆゆちゃん。

 ゆゆちゃんの話では、モニターさんと言ってもメニューの決定は店の売り上げを左右する大事なことだから、店員さんが信頼する男性に頼むのが通例らしい。どうして男性かって聞いたら、お客さんは男性が多いからだそう。プリンであってもキワモノメニューは男の人の注文が多いんだって。って、あれ、キワモノメニューなの?


 大量のプリンをぺろりぺろりと平らげていく羽月先輩。その間にもツインテの女の子とか巻き髪の子とかが入れ替わりやってきて笑顔で先輩に話しかけている。もう、先輩ってモテるんだから。でも、それも先輩の人徳なのよね。

 そう、そんな先輩がわたしは…… えへへっ!


 くりいむれもんスカッシュをごくりと飲んで気持ちを落ち着けて、少しの間、お店に置いてあるファッション誌に目を通します。明日の服装はどうしようかな。何かヒントとかないかな。

 でも、なかなかいいアイディアが出て来ません。明日は初めてのデートなのに。考えてみたら今まで集めた情報はメイドコスやら婦警コスやらビキニやら、デートの時には使い物にならない情報ばかりです。困りました。


 やがて。

 プリンを平らげ佳奈先輩と談笑していた先輩は、席を立つとレジに向かいました。

 わたしも後を追いかけよう。そう思いました。

 もっと先輩の観察をしましょう、そうしたら何か明日の服装のヒントがあるかも。先輩が本当に好きなスタイルとかが分かるかも。

 先輩が店を出るとわたしも慌てて席を立ちました。


「行ってらっしゃいませお嬢さま、って、そのお面は?」

「あっ、これ、忘れてました。お返しします!」


 慌ててお面を取るとレジに立つ店長にお返ししました。


「あっ、あなた、繭香さんね!」

「えっ!」


 店長はわたしの顔を見て名前を呼んで下さいました。ここには文芸誌の広告を取りに来た時と発行のお礼に伺ったときしか来ていないのに。


「だって、あなたはメイドさんにスカウトしたい候補ナンバーワンなのよ、忘れるわけないわ!」

「あ、ありがとうございますっ」


 喜んでいいのかな。でも、今は喜んでいる場合じゃない、羽月先輩を見失ってしまうわ!


「ねえ、どうかしら? ここは楽しいお店よ」

「お誘いありがとうございます。でも、ちょっと今日は急ぎますので……」


 わたしはお礼もそこそこに店を飛び出すと慌てて階段を下りました。


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