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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十二章 秘密の数だけ輝いて
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第12章 9話目

「やっぱり僕は物好きでスケベで変態でゴミでクズなヤツだと思われてるんだ」


 自分の部屋でひとり小さくごちる。そして大きく首を振り自分で自分の言葉を否定する。


「いや違う……」


 彼女はそんな人じゃない。人を軽蔑したりさげすんだり、童貞をバカにしたり処女を国宝にしたり短小を崖から突き落としたりするような人じゃない。思いやりがあって優しくて、とっても気が利く女の子だ。だけども、彼女は僕を好きじゃない。


「報い、なのかな……」


 僕は小金井の好意に応えなかった。誰が見ても僕には勿体ないくらい完璧な女の子。そして僕やみんなのために一生懸命だった彼女。それは今回の生徒会選挙でもよく分かった。そんな彼女を僕は悲しませた。だからきっとバチが当たった。いや、そんな因果律のせいにするのはずるいな。シンプルに僕は嫌われていた、ただそれだけだ。


 ふと部屋のドアを注視する。こう言う時はいつも桜子が来てくれるものだが今日は来ない。そうだ、『まおエロ』の続きを書こう。第三巻のクライマックスシーンを書かなくちゃ。もう構想は終わってるから後は書いていくだけ。僕は机に向かいキーボードを手元に引き寄せる。小説家って言うと太く立派な万年筆ってイメージがあるんだけど、僕の机の上に万年筆はない。目に付くのは鉛筆と消しゴムと美少女フィギュア。なんかこう、かっこよくない。子供だ。こんなお子様が立花さんに振られるのは当然だ。


 ふと振り返るとベットの下に写真誌が見えた。


 『黒パンストのズキュンお姉さま』。


 エロ本か、何もかもが皆懐かしい。

 結局この本は一回も使わなかった。勿論、中はちゃんと見たし眺めたし研究もしたが、一回も使わなかった。それは本のせいじゃない。全部全部、彼女のせいだ。ある時は黒パンストの大人の女、そしてまたある時は可憐なメイド服の女神、はたまたある時は妖艶なビキニのお姉さま、そしてまたある時は明るく楽しい僕だけのロコドル、またまたまたある時はあなたの欲望を何でも叶える綺麗な絵本マイスター。彼女はふたりだけの秘密の夢をたくさんたくさん僕に見させてくれた。彼女がいたから毎日がとっても楽しかった。彼女がいたから頑張れた。彼女がいたから…………

 きっと彼女は優しいから僕に気を遣ってくれたんだ。でもやっぱり、僕の初恋はとっくに終わっていた。


「はあ~」


 モニター画面に映る、これまで書いた文章に視線を落とすと、ぶんぶんと首を振る。だめだ、もっと楽しい気持ちで書かなくちゃ。こんな気分で書いても読者様に楽しんで貰えない。何か気分転換をしよう。


 僕は立ち上がると一階へ降りた。

 冷蔵庫にチョコ的なアーモンドがあったはずだ……


          * * *


 数日後。


「やったな小金井!」

「弥生先輩おめでとうございますっ!」


 生徒会長選挙は投票後即日開票された。


「ありがとう。みんなが頑張ってくれたお陰ねっ!」


 小金井が綺麗な赤毛のツインテールを振り乱して笑顔を振りまく。


「まさか、弥生ちゃんがわたしの後を継ぐなんて……」


 青木女史も嬉しそうだ。

 候補者演説会でユーモラスに、しかししっかりと未来を語った小金井に対し、星野の演説は実につまらなかった。風の噂では原稿を作る予定だった夢野が降りたらしい。結果は地崩れ的な小金井の大勝だった。


「さあ、ポテチのお代わりはたくさんありますよっ!」


 開票結果が出るなり生徒会室に押しかけ、何やら打ち合わせをしていた小金井と青木女史を部室まで強制連行してきた。いきなり当選パーティだ。


「やっぱり~ 青木先輩の伝統を引き継いで~ 生徒会室の出入りには~ 合い言葉を設定するんですか~?」

「もちのロンドンよ! 最初の合い言葉は『会長にポテチ差し入れで~す』よっ!」


 それ、合い言葉と言うより貢ぎ物の強要じゃん。


「ちなみにあたし、有言実行じゃなきゃ許さないからっ」


 見事なまでの確信犯だった。


「新生徒会長の抱負を教えて欲しいっす」

「それは決まってるじゃない……」


 小金井は文芸部室の壁を平手でドンと叩く。


「この壁を取り払うわ」


 壁の向こうはラノベ部だ。


「なるほど、文芸部とラノベ部の統合に力を入れてくれるんっすね」


 彼女はコクリと頷く。


「そう言えば~」


 自分の顎に人差し指を当て、大河内が何かを思い出したようだ。


「星野さんはラノベ部をやめて~ 城島さんが部長になったそうですよ~」

「「「えっ!」」」


 元々星野は文も書かなきゃ挿絵も描かない、当然読書も好きじゃない。可愛い女子勧誘担当副部長にしてカラオケではアニソンで最初からクライマックス野郎だ。ともかくラノベ部のお騒がせ担当だった星野が部をやめたって何の不思議もない。と言うか、何故入部したのかが不思議だった。城島が部長になるというのは聞いていた話だったが、星野が辞めるというのは初耳だった。だけど敢えて星野の話は避けてみた。


「そりゃいい話だ! 城島だったら話が早い。先っぽだけで話が通る」

「言ってる意味が分からないっすけど、プリンにポテチが意外と合うっす」

「佳奈先輩のプリンは大きくて舐め回したいくらい美味しいですっ」

「よかったわ~ 月野さんとあかねさんに褒めて貰って~ どんどん舐めてね~」


 いや、プリンって舐めるべきものか?


「弥生先輩っ、忙しいと思いますけど、これからも文芸部にも顔を出してくださいねっ」


 小金井にプリンを差し出しながら立花さんが笑いかける。


「あ、繭香ちゃん、ありがとう。でも、これからは忙しくなるから、文芸部は繭香ちゃんが盛り上げていってね」

「そんな寂しい事言わないでくださいよ」

「あら、あたしは寂しくないわ。だって……」


 周囲を見回した小金井は立花さんの耳元で何やら囁いた。


「えっ! そうなんですか!」

「うん!」

「わたし、応援しますねっ!」


 何の話をしたのかは分からないが、ふたり揃って嬉しそうだからまあいいか。


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