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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十二章 秘密の数だけ輝いて
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第12章 7話目

 トントン


「合い言葉は?」

「会長の耳はうさぎさんの耳~」

「入っていいわ」


 いつも思うのだが、こんな合い言葉を設定して恥ずかしくはないのだろうか。かぶり物をしているとは言え、やはり人気ロコドル、物怖じしないと言う事か。


「失礼します」


 一応真面目に挨拶しドアを開けると、ウサミミを付けた青木女史が手を上げてにっこり微笑んでいた。それでいいのか、生徒会長。


「あの、そのウサミミは?」

「可愛いかなと思ったんだけど、どう?」

「はい、とっても可愛いです。ウサミミが」

「羽月くん、言葉にトゲがあるわね」

「いえ、言葉に有刺鉄線を埋め込んだつもりでしたが」

「ふふっ。わたしも舐められたものね。流石はぺろぺろりん。このウサミミをモフモフしてもいいわよ」

「奈々世先輩、ウサミミがモフモフでもモコモコでもムクムクでもいいですから。そんなことより……」


 しびれを切らしたように小金井が割って入る。


「さっきの電話、どうして田代さんは立候補しないんですか?」

「ああ、その事よね。それがね、彼女ったら突然、生徒会長にはなりたくありませんって言い出したのよ。まあ元々生徒会活動にはあまり積極的じゃなかったけど、それでも去年副会長に立候補したんだからねえ、私も驚いているところよ」

「で、星野が立候補したんですか?」


 僕の問いに青木女史は立ち上がり、僕らの横へ歩いてくる。


「そうよ。立候補の〆切は明日。他に動きはないみたいね。もし星野くんが生徒会長になったら問題は分かってるわよね」

「はい、例の申し送り事項が無効化されると」

「多分ね」

「そんなこと、させるもんですか!」


 小金井が毅然と言い放った。


「あたしが立候補する」

「ちょっ、待てよ、小金井!」

「弥生先輩!」

「安心して。これは急な思いつきじゃないの。先週から考えていたのよ」


 小金井は僕に目配せをして軽く笑った。土曜日に星野と田代さんがふたり歩いているのを見た時からこうなることを想定していたのか。しかし、なにも小金井が立たなくても、立候補は僕でもいい訳で……


「翔平くん、今、あたしじゃなくっても、翔平くんが立候補してもいいって思ったでしょ。でも、それはダメよ。翔平くんには文芸部の部長の重責を全うして貰わないといけないからね。それにあたし、奈々世先輩の後任になってみたいなって思ってたんだ。だから心配無用よ」


 普段と変わらない笑顔でそう語る小金井は、立花さんの方に向き直った。


「勿論、文芸部を辞める訳じゃないしね。でも、あたしがいないときは繭香ちゃん、宜しく頼んだわよ」

「えっ」

「翔平くんの補佐役よ!」

「弥生先輩?」

「と言う訳よ、奈々世先輩」


 成り行きをじっと見つめていた青木女史は戸惑い気味に呟いた。


「それでいいの? 弥生ちゃん……」


          * * *


 翌日、文芸部は生徒会選挙対策本部と化していた。


「完勝を目指すぞ! 一票たりとも渡すな~」

「「「お~っ」」」


 結局、生徒会長は星野と小金井の一騎打ちになった。星野は女子に人気があるし案外優等生なので強敵ではあるが、小金井だって学校一のアイドル。情勢は五分と五分だ。


「どうして羽月部長は立候補しなかったんっすか?」

「いや、それは……」


 月野君の疑問はもっともだ。約束反故やくそくほごが目的で星野が立候補したのなら、僕が立てばよかったんだ。


「星野先輩が立候補するって聞いたから情報を集めたんすけど、どうやら星野先輩は羽月部長が立候補するって思ってたらしいっす」

「僕が?」

「そうっす。その準備もしてたらしいっす」

「その準備って?」

「ネガティブキャンペーン張る予定だったらしいっす。羽月部長はぺろぺろりんで魔王になってエロ本屋で大赤字を出して鼻血ぶーとか」


 ああ、なるほどな。そう言う読みをしていたわけだ星野の野郎。


「部長の家のベットの下にはエロ本がいっぱいとか!」

「なんでそれを知ってるんだっ?」

「図星だったんすか?」


 大河内と深山さんが顔を背けて吹き出していた。


「でも、星野先輩は小金井先輩が立候補してきて慌ててるらしいっす」


 僕を庇うように話題を変える月野君。君はホントにいいやつだ。


「弥生ちゃんは~ 見抜いていたと思いますよ~」

「それ本当か? 大河内!」

「はい~ 星野さん頭いいから、文芸部が動くことくらい読んでいたはずですし~」


 本当にこれでよかったんだろうか……。当の小金井は選挙の準備とかで当分部室には来ないらしい。


「けど、小金井先輩は選挙準備って何してるんっすか?」

「演説会の原稿だったら部室で書いたらいいのにですっ」

「きっと色々あるんですよ、弥生先輩……」


 黙々と小金井の選挙ポスターを描いていた立花さんがポツリと漏らす。

 彼女の言葉を聞いて僕の脳裏に昨日の出来事が蘇る。


「わたし、副会長に立候補します。弥生先輩と一緒にやりたいです!」


 昨日の生徒会室。小金井の意志を聞いて立花さんは自分も立候補すると言い出した。

 しかしそんな彼女にデコピンしたのは小金井だった。


「だーめ。繭香ちゃんには文芸部の補佐役をして貰わなきゃ」

「だけど……」


 小金井に真っ直ぐ見つめられて、折れたのは立花さんだった。


「さあ、ポスター出来ました。弥生先輩のために貼って貼って貼りまくりましょ! 学校中を弥生先輩の魅力で埋め尽くしましょう、洗脳しましょう、悩殺しましょう!」


 描き上げたポスターを揃えながら立花さんは自らを奮い立たせていた。

 誰よりも気合いが入っているのは彼女かも知れない。

 僕らは小金井会長の誕生に向けポスター貼りに出陣した。


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