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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十二章 秘密の数だけ輝いて
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第12章 4話目

 水族館を出ると、またバスに揺られて市の中心街にやってきた。

 僕らは手を繋いでちょっと小綺麗なレストランに入る。


「いらっしゃいませ~」


 ウェイトレスは僕らを見晴らしがいい窓際の席へ案内してくれた。


「わあっ、街の様子がよく見えるねっ!」


 ジャケットを脱いで席に座る小金井に周囲の男どもの視線が集まる。

 綺麗だもんな、ルックスも身のこなしも。


「翔平くん、このお店はよく来るの?」

「初めてだよ。ネットで評判よかったんだ、ここ」

「そっか。いい席に案内してくれたからてっきり常連様かと思っちゃった」


 彼女はメニューをぺらぺらとめくる。


「翔平くんのお勧めは?」

「えっと、このお店はステーキが美味しいらしい……」


 言いながらメニューを見るとステーキランチは二千五百円からとなっていた。予想外だ。


「ねえ翔平くん、ここの日替わりランチって美味しそうじゃない! 今日はポークカツかハンバーグですって」


 日替わりランチはA,Bとあってどっちも七百八十円。これならリーズナブルだ。

 メニューから顔をあげると小金井が微笑みながら僕を見ていた。


「翔平くんは何にするの?」

「えっと、僕は日替わりのAにしようかな。あっ、小金井は好きなの頼めよ」

「日替わりのAはポークカツね。じゃああたしは日替わりのBにする」

「それでいいの?」

「うん。ハンバーグ少しあげるから、翔平くんのもひとくち頂戴ね」


 メニューを閉じながら彼女が笑う。


「あたし一度、そう言うのやってみたかったんだ」


 彼女の視線に耐えきれず、僕は窓の外を見る。


「べたな願望だな」

「べたでもいいわよ! 一回で二度美味しいんだから」


 そんなたわいもない会話をしながら。


「あれっ? あそこ歩いてるの、星野じゃないか?」


 見ると星野がおかっぱ頭の眼鏡っ子と歩いていた。


「本当だわ。それに一緒にいるのって、田代さんじゃない?」

「えっ、ホントだ! 田代さんって生徒会の副会長なんだよね」

「そうよ。そう言えばあたし、変な噂を聞いたんだけど……」

「変な噂?」

「星野が生徒会長に立候補するんじゃないかって噂」

「星野がっ!」


 思わず僕は立ち上がった。


「落ち着いて、翔平くん!」

「あ…… ごめん。でもそれ、ホントか?」

「友達から聞いた噂ばなしだから何とも言えないけど……」


 でも、もしそうだとしたら、どうして田代さんと歩いてるんだ? 彼女は次期生徒会長候補のはず。そんなふたりがどうして……

 勿論、小金井も文芸部とラノベ部に関する生徒会の申し送りの件は知っている。


「何だかイヤな予感がしないか」

「そうね。でも悩んでもしようがないわよ、ね、翔平くん」


 笑顔を作って小金井はウェイトレスを呼んだ。


「せっかくの土曜日よ、楽しまなくっちゃ!」


          * * *


「美味しかったねっ!」


 小金井の嬉しそうな声に僕も自然と笑みがこぼれる。


「あれで七百八十円はお得だったな」

「その上、カツレツもハンバーグも楽しめたしね!」


 さすがに「はい、あ~んっ」なんて恥ずかしいことはしなかったけど、それでも傍目に僕らの行動はいちゃいちゃに見えたのだろう。周囲の視線が痛かった。


「さあ、次は腹ごなしね!」

「やる気満々だな」

「やられる気満々よりマシでしょ?」


 僕たちはボーリング場へと入っていった。しかし、お目当てはボーリングではない。受付を済ませると用具を持って指定された台へと向かう。


「でも、どうして卓球なんだ? ボーリングもビリヤードもダーツもあるのに」

「へっへ~」


 笑いながらラケットを持つ小金井。


「で、卓球のラケットってどうやって持つの?」

「ああ、えっとね、このラケットはペンホルダーだからこうやって……」

 レストランを出てボーリング場を見つけるや、何故か卓球をしようと言い出した彼女。

「じゃあ行くわよ。弥生ちゃんスーパーサーブ!」


 ビシッ!


「決まったあ!」


 両手を突き上げて喜ぶ小金井。


「いや、卓球のサーブは一度自分のエリアにバウンドさせないといけないからね。テニスとは違うから」


 ピンポン球を投げあげるや、思いっきりスマッシュを叩き込んできた小金井に文句をぶつける。


「いいじゃない。翔平くん卓球やってたんでしょ! それくらいのハンデは頂戴よ!」


 ねたようにそう言う彼女。う~ん、無茶苦茶なルールだけど相手は初心者だし、ましてや可愛い女子なのでOKせざるを得ない。


「分かったよ。その代わり僕も本気で行くからね」

「望むところよ!」


 運動神経には折り紙付きの小金井はさすがに勘を掴むのが早かった。


「うっ…… やるわね、流石は元卓球部。あたしのスマッシュを受けるなんて」


 それでも餅は餅屋。僕だって無駄に中学時代を過ごしてきた訳じゃない。連続で彼女の前にスマッシュを叩き込んだ。


「タイムタイム。やっぱり翔平くん本気出すのずるい!」

「サーブはハンデをやったじゃないか」

「ハンデが足りないわ。翔平くんは左手でやろうよ」

「ちょっ、それは流石に」

「ええ~っ、初心者相手だよ。しかもか弱い女の子」

「か弱いって…… 分かった、左手だな」


 更なるハンデを飲んで試合続行。


「やったっ! 連続ポイントゲットよっ」

「うぐぐ…… でもまだ同点だ」


 左手ハンデでゲームは一気に拮抗し面白くなった。


「次はあたしのサーブね。行くよ、弥生ちゃんトルネードサーブっ!」


 バシッ ヒュー~~~~


「へっへ~ ホームランじゃん」

「ぐぬぬ…… あたしとしたことが」


 と、素人さん相手にムキになりつつ、なんだかんだと一時間。


「面白かったね。最後の試合はあたしが勝ったし!」

「僕は左手だったし、あの掟破りのサーブは反則だよ」

「それでもいい試合だったでしょ。やっぱり卓球部はすごいのね」


 嬉しそうに笑う小金井。確かにとっても楽しめたし面白かったし。こう言うところ彼女はホントに巧いと思う。よく考えるとボウリングとか他のゲームだとガチでも僕が負ける可能性が高いわけだし、彼女はすごく気を遣ってくれたんだと気付く。


「なあ、小金井は楽しかった、かい?」

「もちのロンでしょ! それとも翔平くんは楽しくなかったの?」

「いや、面白かったよ、ホントに」

「よかった。あっ、映画館はこっちよ!」


 どっちがホストか分からないな、これじゃ。ともあれ今日の最後の予定は映画だ。


「あたしポップコーン買ってくるね。一緒に食べようねっ」


 チケット引き替えの列に並ぶ僕に手を振って楽しそうに駆けていく小金井。


 『名探偵は傷つかない』


 小金井が見たいと言った映画は一風変わった探偵ものらしい。ここ一年ほど映画館に来たこともない僕は最近の映画に疎くてどんな話か知らないのだけど、ライフルを手にしたイケメンの若手俳優がヒロインらしい女優とベテラン女優に挟まれて困った顔をしている案内ポスターが目に付いた。名探偵とライフルが結びつかないのだが、きっとそれなりに楽しめるのだろう。


 僕らは指定の後方の席に並んで座った。


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