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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十二章 秘密の数だけ輝いて
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第12章 1話目

第十二章 秘密の数だけ輝いて


 朝、教室に入ると真っ先に市山が声を掛けてきた。


「羽月、おはよう。早速だけど、さっき生徒会長が来た」

「青木女史が?」

「うん、放課後生徒会室に来てくれって……」


 わかった。わかりましたよ。あの件ですね。乗っ取りましたからね。無断で乗っ取りましたからね、放送室。部長の責任ですよね。はい、甘んじてお叱りを受けますよ。でも正直なところ、青木女史の叱責はあまり怖くないもんね。


「伝えてくれてありがとう。それよりさ、文化祭手伝ってくれて、ホントに助かったよ」

「いや、僕の方こそ楽しませて貰ったよ。あんな面白い文化祭は初めてだ」


 終わりよければ全てよし。ラノベ部との集客勝負に勝ってほっとひと安心。ただひとつだけ困ったことがあるとすれば……


「おい、ぺろぺろりん。いい気になるんじゃねーよ」

「悪かったな、ぺろぺろりんで」

「ああ悪い。古本屋で好きなエロ本が半額セールになるまで待ってから万引きするくらい悪い」

「待つ必要があるのか」

「カンニングした友達の答えが間違っていることに気が付いたのに教えてあげないくらい悪い」

「いや、悪いところがちょっとずれてるだろ、それ」

「ともかくお前は気に入らない」


 星野が僕をガン見する。

 文化祭の勝負で負けた腹いせだろうがこっちは勝者の余裕だ、軽くスルーだ。


「これで終わると思うなよ、ぺろぺろりん」


          * * *


 トントン


「合い言葉は?」

「会長の髪、サラサラだねっ!」

「入っていいわ」


 生徒会室のドアを開けると奈々世女史が肩で揃えた碧い髪をこれ見よがしに掻き上げていた。お高いリンスでも買って嬉しいのだろうか。


「またしてもの不始末、申し訳ありません!」


 専守防衛の先制パンチだ。先に謝ってしまえば怒りも収まるはず。

 しかし、それに対する彼女の言葉は意外なものだった。


「あらっ、何の事かしら?」

「何の事って、今日呼び出されたのは校内放送のことじゃ?」

「校内放送のこと? 文化祭で突然弥生が校内放送をしたこと?」

「はい」


「羽月くんの黒歴史を全校生徒ひとり残らずに知らしめた、あの放送のこと?」

「……はい」


「弥生と繭香ちゃんが可愛い声で「魔王がエロ本屋でぺろぺろっ」とか囁いた、あの伝説の校内放送のこと?」

「…………はい、その件で呼ばれたんじゃ?」


 青木女史は呆れたように僕を睨んだ。


「常日頃怒られ続けてドM気質が板に付いちゃったわね。校内放送の件はちゃんと放送部から申請があったわよ、直前に携帯で」


 あの日小金井は放送室に駆け込むと、自分の携帯を青木女史に繋ぎ、放送部長に許可を取らせてから放送に及んだらしい。『乗っ取る』と叫びながら走って行ったので、放送部員を全員縛り上げた上で放送したのかと思っていた。


「まあ、「許可しないとどうなるか分かってますよね、先輩」な~んて、このわたしに脅しを掛けてきたけどね、弥生は」

「でしょうね~」


 苦笑する青木女史は、しかしすぐに真面目な表情に戻る。


「今日呼んだのはその件じゃないわ。ねえ夢野くん」


 見ると僕の横、会議テーブルの隅に夢野が座っていた。

 夢野の横にはおかっぱ頭に赤いメガネを掛けた真面目そうな女の子。僕を見て軽く頭を下げる。


「あれっ、どうして田代たしろさんが?」


 田代一子たしろいちこ。同学年、二年C組のおとなしめの優等生だ。

 しかし僕の問いに答えたのは彼女ではなく青木女史だった。


「あら知らなかったの? 彼女は生徒会の副会長よ」

「あっ、そうだったんだ。ごめんなさい」


 僕は田代さんに軽く挨拶すると同じテーブルに腰を掛ける。


「では今から、文芸部とラノベ部の統合スケジュールについて話をしましょう」


 青木女史は同じテーブルに着席するとみんなを見回した。

 そして悔しそうに僕を睨みつけてくる夢野に死刑宣告が下される。


「今日からラノベ部はその扱いを同好会とします。そしてその存続期限は来年4月まで。それまでに文芸部とひとつになってください。いいですね、夢野くん」

「ぐぬぬ……」

「羽月くんもいいわよね」

「はい、勿論です」


 いつもの大口が叩けずに歯ぎしりする夢野。ちょっといい気味。


「この内容は次の生徒会にも申し送りします。いいですね、田代さん」

「はい」


 と言うことは、次期生徒会長は田代さんと言う事か。

 松高の生徒会長は全校生徒の投票で決まるのだが、前会長の推薦候補が落選することはほとんどないらしかった。


「じゃあ、これで決まりですね。仲良くしてくださいよ、ふたりとも」


 微笑みを浮かべて僕と夢野に語りかける青木女史。しかしその目は笑っていなかった。


「また、よろしくお願いします。夢野先輩」


 僕が差し出した右手を、夢野は仕方がないと言った顔で握り返した。


「俺はもう引退だからな、後のことは城島と勝手にやってくれ」


 ふてくされたようにうそぶく夢野。内心むっとした僕だったが黙ってやり過ごした。もう夢野の事は気にしなくてもいい、後のことは城島と進めればいいのだから。

 夢野の顔を呆れたように見ていた青木女史。しかし少し安心したように嘆息する。


「はい。じゃあこれにて一件落着。これからも皆さんの活躍を楽しみにしていますね」


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