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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十一章 気分次第で誉めないで
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第11章 10話目

 嬉しそうに右手をサムズアップして立花さんに突き出す小金井。


「放送室を乗っ取る?」

「そうよ、一気に勝負を決めるわよ!」


 一瞬だけ考える素振りを見せた立花さんだが、すぐにその意味を理解したらしい。


「分かりました、そう言うことですね。行きましょう、弥生先輩!」


 互いに肯くが早いかふたりは走り出す。

 放送室を乗っ取るって、どう言うことだ?

 猛烈にイヤな予感しかしないぞ。


「ぺろぺろりん先生、次の方です」

「あっ、はい」


 ともかくサイン会を続ける僕。

 やがて通常より50%ボリュームを増量した校内放送が全校中に流れだす。


「ぴんぽんぱんぽ~~ん。弥生と」

「繭香からのお知らせですっ!」


 激烈にイヤな予感は的中する。


「あの人気ラノベ、魔王がエロ本屋で大赤字を出しましての作者、覇月ぺろぺろりん先生は、何とびっくり、松院高校の生徒だったのです! 松校の誇り、覇月先生のサイン会は今、物理室にて絶賛開催中! 今日のサイン会のため有名イラストレータの『おせん兵衛』先生が描き下ろした特製カードも絶賛配布中です! さあいますぐ本館三階、物理室へレッツゴー! 繰り返します……」


 繰り返すな。


「ぺろちゃん先生、次の方が待ってますよっ!」

「あっ、はい、どうも!」


 校内放送に突き動かされたのだろう。サイン会会場に人が押し寄せてくるのを感じながら、僕は必死にサインを書きまくった。


          * * *


「これにて第六十三回松院高等学校文化祭、松波祭は閉会します」


 青木女史の校内放送が流れると、どこからともなく拍手が巻き起こる。


「疲れた~」


 サイン会を終えて、僕は椅子にもたれて大きく嘆息する。


「ぺろちゃん先生、お疲れさま」


 遠野さんが僕にペットボトルのお茶を差し出す。


「やった~ 終わった~!」


 喜びの声を上げて抱き合っているのは小金井と立花さん。

 いや、その後ろで月野君と深山さんも抱き合って喜び合っている。もしかしてあのふたり、いつの間にか出来ているのだろうか。


「市山さん~、ありがとうございます~」

「いやいや、俺も楽しかったし」


 クレープ売り場からの声は市山と大河内。

 そして、廊下からも別の声が聞こえる。


「ごめんね小倉くん。手伝ってもらって!」

「いや、楽しかったよ。それに、ぺろぺろりん先生のお手伝いが出来るなんて」


 校内放送を聞いて押しかけてきた群衆の整理に悪戦苦闘する桜子を、見るに見かねた小倉くんはサイン会を手伝ってくれたのだ。僕はやおら椅子から立ち上がると彼の元に歩いて行く。


「小倉くん、ありがとう。本当に助かったよ。これうちの文芸誌だけど、良かったら持って帰ってくれ」

「えっ、ありがとうございますっ。大事にします!」

「ほらほら、サイン会が終わったらケーキを食べる約束だったでしょ!」


 いつの間にか現れた小金井が小倉くんと桜子の背中を押してテープルに座らせる。


「繭香ちゃん、今日最後のケーキセットふたつ」

「はい、了解ですっ。すぐ持って行くね、桜子ちゃんと彼氏さん!」

「繭香先輩ったら!」

「じゃ、あたしはちょっと用事があるから。すぐ戻ってくるね」


 そう言い残し駆け出す小金井。

 真っ赤な顔をして互いに俯く中学生カップルを尻目に、僕らは後片付けを始める

 小金井は五分も経たないうちに戻ってきた。

 息を切らせ全速力で駆け込んできた彼女は部屋に入るなり今日一番の笑顔を爆発させる。


「みんな聞いて! 今日の勝負、あたしたち文芸部の大勝利よっ!」


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