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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十一章 気分次第で誉めないで
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第11章 4話目

「市山先輩オーダー入りま~す、十二番テーブル、チーズケーキセットふたつです~っ」

「羽月っ、コーヒー淹れるからケーキを頼む!」

「OK! 八番のパンケーキお待たせっ!」


 ざんねん喫茶は大盛況、キッチンの僕らもてんてこ舞いだ。


「大変お待たせしました~ いつも応援ありがとう~ はいっメニューですっ」


 小金井と立花さんのライブが終了するやいなや、あっと言う間に席は満席。入り口には長い列ができている。メニューに文芸誌の宣伝も書いている効果か、『埠頭』の売り上げも上々だ。


「何になさいますか~」


「えっと、繭香さんのスマイルで……」

「オーダー入りま~す。わたしのスマイルひとつ~」

「立花さんっ、そんなの裏メニューにもないからっ!」


 店内が笑いに包まれる。

 立花さんも一緒に笑っているところを見ると、ウケを狙ってわざとやっているようだ。


「彼女って美人で一見高嶺の花って印象だけど、結構面白い子だね」

「そうだろ。小金井もそうだけどうちの部は面白いのばっかだよ」


「オーダー入ります~ 七番テーブル、佳奈の大きな胸で抱かれたいセットです~」

「便乗すんなよ、大河内っ!」


「こちらもオーダーですっ。お嬢ちゃんお菓子あげるからおじさんと一緒に行こうですっ」

「ホントに行ってもいいよ、深山さん!」


「オーダーです、十五番さん、プリンセット、わさび抜きで!」

「小金井さん了解。わさび抜きプリンねっ!」


 市山までノリノリだった。


「お前らみんな座布団没収だ!」


 どこまでが本当の注文か不安になるが、取りあえずプリンセットの準備をする。


「なあ羽月、小金井さんって元々美人だけどさ、なんて言うか、最近特に可愛らしくなったな」

「えっ、そうか?」

「そうだよ、まさに恋する乙女って感じ。かな、羽月!」


 僕を見てにやりと笑う市山。


「……」


 ここは一発冗談で返そうと思ったが、何故か胸がぎゅっとなって言葉が出ない。

 チラリと小金井を見ると、笑顔で接客の真っ最中。お客さんも嬉しそうだ。

 明るくて人当たりもいいからな、彼女。


「羽月さん」


 その声に振り向くとテニスウェアを着た柳崎部長が立っていた。


「ラノベ部を偵察してきたわ。ここも凄いけどメイド喫茶もいっぱいよ。セットメニューに萌え絵のポストカードを付けてるみたい」


 彼女は文芸部とラノベ部の勝負を気にしてくれて、敵の偵察から戻ってきたところだ。噂ではラノベ部のメイド喫茶も星野が可愛い女の子を集めたらしく、粒ぞろいとの評判だった。でもそこは僕らも計算済みだ。


「それと、ラノベ部は客引き部隊を編成して、文芸部の行列の最後尾のお客さんに声を掛けて誘惑し連れ去っているわ」

「なにっ!」


 なんだその仁義なき客引きは!


「翔平くん、オーダーよ。二番さんにチョコケーキセットふたつ。どっちもミルクティーで」

「なあ小金井、知ってるか。ラノベ部が文芸部のお客さんを横取りしてるって」

「知ってるわよ。お客さんを案内するときに見えたの。でも……」


 小金井は手際よく引き上げた皿を洗いながら。


「いつもならハリセン持って追い払うんだけど、今日は忙しすぎて……」


 僕はチラリと店内を見る。

 店はいっぱいで、あちこちからお客さんの楽しそうな声が聞こえてくる。そしてそこには大河内や立花さん、みんながテキパキと笑顔で接客する姿が。


「お店はいい感じだけど、忙しすぎて」

「そうだな。ちょっと僕が行ってくる」

「ダメよ!」


 慌てたように小金井が手を広げる。


「敵はそこも承知の上よ。さっき見かねたテニス部の人が文句を言いに言ったら、星野が出て来て逆にナンパされそうになったの。翔平くんが出て行ったらきっとラチられるわ!」

「くっ……」


 夢野らしい、あくどい手口だ。


「そうだ、奈々世先輩に頼んでみるわ!」


 小金井は水色の携帯を取り出すと耳元に当てる。


「あっ、奈々世先輩! 実はかくかくしかじか……」


 本当に小金井は頼りになるな。

 きっと青木先輩ならラノベ部の暴挙に対処してくれるだろう。

 僕はチョコケーキセットのミルクティーを準備しながら小金井の声に聞き耳を立てる。


「えっ、内政不干渉? 現場は廊下なのよ! 公海上の紛争よ! ねえ、奈々世先輩ったら、そんなのおかしい……」

「どうした」

「断られたわ。今回ばかりは生徒会は中立を保つって……」

「そんなっ!」


 僕は窓から顔を出し廊下の様子を見る。八組ほどの行列が見える。そしてその最後尾でラノベ部らしいメイドがふたり、待ってる人に声を掛けていた。


「あにゃろ~!」

「待って。出て行っちゃダメよ。絶対罠だから」

「……」


 しかし、うちのお店のお客さんが困っているのに黙って見ている訳にはいかない。


「……なあ、小金井、十六番テーブル空いたら、そこに椅子を並べよう」

「えっ?」

「廊下で待って貰うんじゃなくって店の中で待って貰おう」

「ちょっと待って羽月くん!」


 待ったを掛けたのは柳崎部長だ。


「ラノベ部のテーブル数は二十席。対して文芸部は十六席。集客勝負だと元々不利なのにこれ以上減らしたら負けてしまうわ!」


 ラノベ部に対し文芸部は活動展示やステージなどにも力を入れているのでどうしても席が少なくなってしまう。それは朝のうちに僕自身もラノベ部のメイド喫茶を偵察して知っていた。


「だかといってうちのお客さんが困っているのを放置はできないよ。代案は考えるから」

「翔平くん、さすがだわ。じゃあすぐに実行するねっ!」


 小金井はそう言うと嬉しそうに店内に戻っていく。


「ちょっと、あくまで十六番さんがお帰りになってからだぞ!」

「大丈夫よ!」


 そう言うと彼女は十六番テーブルに駆け寄り女子ペアに声を掛ける。するとお客さんは笑いながら席を立った。


「ちょっと小金井!」

「大丈夫、あたしの友達だしっ」


 そう言うと小金井は大河内と立花さん、深山さんを呼び寄せる。あっと言う間に待合場所が出来上がり、廊下の行列は解消された。

 さすがは小金井、やることが早い。自慢げに僕に向かってサムズアップしてくる彼女。


「羽月先輩!」


 ふと横を見ると、食器を引き上げてきた立花さんが立っていた。


「お話は弥生先輩から聞きました。わたしに動員数を増やすアイディアがあるのですが……」


 彼女は僕と市山にそのアイディアを説明してくれた。


「うん、いけるよ。それで行こう!」

「ありがとうございます。わたし、皆さんにも伝えておきますね」


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