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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十一章 気分次第で誉めないで
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第11章 3話目

「今ここに、第六十三回松院高等学校文化祭、松波祭の開幕を高らかに宣言します」


 午前十時、生徒会長である青木女史の声が校内放送に乗って全校に流れる。


「ほら、早く行けよ羽月!」

「しかし……」

「しかしも案山子かかしもお菓子もない!」

「そうです、羽月さんが見てあげないと、あのふたりが可哀想です」


 右から市山、左から柳崎さんに背中を押される。


「ありがとう。ごめん、じゃあ、ちょっと体育館のステージに行ってくる」


 物理室の入り口には『ざんねん喫茶@文芸部』の痛すぎる立て看板。

 入ると右側には『埠頭』や『無鉄砲』などの文芸同人誌売り場にマスコットのくまのぬいぐるみ『ハチ公』が鎮座している。

 入り口左側、喫茶ゾーンの更に奥、調理エリアから抜け出した僕は卓球のユニフォームを着たまま体育館へ駆けた。


「みなさ~ん、あたしたち文芸部のアイドルユニット、ノベルキュートですっ!」


 小金井と立花さんが背中合わせに指鉄砲で観客席を撃つポーズを取る。

 体育館では小金井と立花さんのステージがまさに始まったところだった。


「弥生ちゃ~ん」

「繭香ちゃ~ん」


 いきなり男どもの大歓声が飛び交う。

 胸にピンクのリボンをした小金井に、ブルーのリボンの立花さん。

 お揃いのセーラーワンピースを着て満開の笑顔で歓声に応えるふたり。

 凄い人気だ。横断幕まで舞っている。


「行け! 撮りまくるぞ! いきなりクライマックスだっ!」


 一眼レフカメラを持った一団がステージ下に駆け寄る。写真部の連中だ。


「写真部に負けるな! ベストポジションを押さえろ!」


 カメラ片手にステージ下で写真部とつばぜり合いを始めたのは新聞部の野郎ども。


「特権を許すな! 俺たちも乱入だ!」


 カメラを持ってステージ下の撮影エリアに殴り込みを掛けたのはパソコン部のヤツら。

 ……って、お前ら、撮った写真を何に使うつもりだ!

 撮った写真 をなに に使うつもり だ……

 ……って、僕、思考回路がショートしてる。


 フラッシュの嵐を浴びながらふたりは笑顔で会場を見回す。


「!」


 立花さんと目が合った。

 探していた本を古本屋の投げ売りコーナーで見つけた時のように表情を崩した彼女は僕に小さく頭を下げながら、小金井に合図する。すると小金井もまた僕を見て恥ずかしそうに小さく手を挙げた。


「では聴いてください、あたしのノベルはハッピーエンドっ!」


 立花さんの詞に深山さんが曲を付けたオリジナル曲らしい。アップテンポのリズムに乗っていきなり宙返りから始まるその振り付けは、何度見ても戦隊ものの戦闘シーンにしか見えなかった。


「すっげー! やっぱ小金井は凄いな!」

「相方の一年も凄いじゃん。メチャ美人だし!」


 周りからは称賛の声ばかりが聞こえてくる。


「きゃ~ 弥生さま~」

「繭香ちゃ~~~~ん!」


 女生徒達も黄色い声を上げて声援している。性別問わず人気があるんだな、あのふたり。



  ハッピーエンド目指しているの どんなに時間ときが掛かっても~

  わたしの気持ち気付いて欲しい いつでもあなたを見ているの~

  

  記憶の中のやんちゃな笑顔 眩しくて~ (アイ ミーツ ユー)

  夢の中から 抜け出せないの~ (フォーエバー ドリーマー)

  あの時掛けたふたりの魔法 解けないで~ (イッツ マジックトリック)

  いつも心は叫んでいるの 溶けてしまうくらい


  もしも世界が 滅んだとしても~

  わたしの記憶おもい消すことはできないわ~

  たとえこの恋 破れたとしても~

  胸を張ってわたしは言うの あなたが一番っ


  ハッピーエンド信じているの どんな苦労が待ってても~

  わたしの気持ち気付いて欲しい いつでもあなたを見ているの~



 キーボードで間奏を奏でる深山さんも激しく飛び回るふたりのパフォーマンスに笑顔で応える。

 間奏はギターにバトンタッチ。だが、ギターは初心者っぽかった。バラバラなリードギターに、しかし笑顔でユニゾンする深山さん。そんな演奏陣に笑いながら応える小金井と立花さん。

 見ているだけでこっちまで楽しくなってくる。


「皆さ~ん、ありがとうございま~す。あたしたち文芸部は本校舎三階の物理室、『ざんねん喫茶』で皆さんをお待ちしていま~す」

「わたしたちの他にもメイドあり執事ありテニスウェアあり、そしてロリありで120%満足させちゃいますっ!」


 ランドセルを背負った深山さんがステージ中央に躍り出て笑いを取っている。


「では、もう一曲聴いてください。ベッドの下には危険がいっぱい!」


 なんだその怪しげな歌は。

 これまたアップテンポのその曲は、どこかで聴いたことがある曲だった。


「これって、NZK49ersフォーティナイナーズの替え歌ね」


 後ろから声が聞こえる。そうか、道理で聴いたことがあると思った。


「ぶっ飛んでて、オリジナルより面白いわね」

「えっ?」


 聞き覚えがある声に振り向くと、そこには青木女史の笑顔があった。


「青木先輩だったんですか。驚かさないで下さいよ」


 ふふっ、と彼女は切れ長の目を細める。


「どう、集客勝負の勝算は?」

「勿論、絶対勝ちますよ。小金井と立花さんの張り切りようを見て下さい。みんな凄く気合い入ってますからね。負けるなんてあり得ません」

「そうね。夕方にはとんでもない飛び道具も用意しているみたいだしね。でも気をつけなさい。夢野は何か企んでいるわよ」

「忠告ありがとうございます。ラノベ部はネットでも結構有名な絵師さんを呼んできてイラスト即売会をするって聞いてますけど、負けません!」


 本館二階、僕らより好立地にある生物室を押さえたラノベ部は、ごく正統にメイド喫茶で勝負してきた。そこで彼らは同人誌即売と共に校外の絵師さんを呼んできてイラスト即売をするらしい。すごく萌える絵を描く人らしく深山さんは敵でなければ行きたかったと号泣していた。


「頑張ってね。わたしは立場上どちらのお店にも顔を出すから、ケーキ特盛りでサービスしてよね。勿論コーヒーはお代わり自由ね。よろしくね」


 そう言うと青木女史は肩で揃った碧い髪を翻して去っていった。


「ありがとう~ 文芸部は物理室で待ってま~す!」


 ステージの上では全力を出し切って満足そうな顔をした小金井が、立花さんが、深山さんが大きく手を振っている。

 さあ、急いで戻って僕も頑張らないと。


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