序章 - エロ本屋の美少女
序章 - エロ本屋の美少女
幹線道路を少し逸れた、街外れの小さな本屋さん。
お客さんは僕ひとり。
「いまだ!」
意を決し、手にした成人向けの本をレジに出す。
そして顔を上げ店員さんを見た瞬間、僕はパニックに陥った。
「えっ、あ、こ、これください。この『黒パンストのズキュンお姉さま』をください!」
って、何を言っているんだろ、僕。
「はいっ、『黒パンストのズキュンお姉さま』一点で千二百円になります」
レジに立つ少女は頬を染め、くりっと大きな瞳で僕に優しく微笑んだ。
「はい、これ二千円……」
僕は精一杯の笑顔を作りつつ、心の中で泣き叫ぶ。
「どうして、どうして憧れの立花さんがレジにいるんだ!」
僕は羽月翔平。少しのっぽな高校二年生。
成人向け写真誌を買ったのは今日が生まれて初めてだったのに。
まさか、僕が大好きな、絶賛片想い中の立花さんがレジにいたなんて。
軽蔑された!
嫌われた!
物好きでスケベで変態でゴミでクズでマヌケなヤツだと思われた!
中学の時、同じ図書委員だったひとつ年下の立花さん。
僕が困っているといつも笑顔で手伝ってくれた優しい立花さん。
彼女が同じ高校に入ってきたのを知って僕は舞い上がったのに。
今度こそ、想いを伝えたかったのに。
「あ、ありがとうございましたっ」
鈴のように可愛く明るい声を背に、僕は足早に店を出る。
「さよなら、立花さん……」
声にならない声を残して、僕の初恋はあっけなく幕を閉じた。