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LUX VAITALITY 第一章  作者: 猫ノ目 ユエ
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魔王と天使

世界が作られるよりも前のことだ。

世界はいっさいが泥のような闇と砂におおわれ、大小無数の光のつぶが遠くに見え隠れするばかりで、周りにはおひさまやお月さまもないとてもさびしい場所であった。

そこでは豆粒ばかりの小人たちが生きており、砂粒の上をいったりきたりして、そこからしずくや土を掘り出しては食べて細々と暮らしていた。


あるとき、おおきな光の弾が二つ、ぶつかり合いながら迫ってきた。

はじめは遠くでちらつくほしくず程度だったものが、やがて手のひらほどのボールになり、おひさまほどの大きさになったかと思うとパッと目の前ではじけとんだ。

あまりのまぶしさとおそろしさに小人たちは目を覆ってしゃがみこんだ。


だが、しばらくたっても何も起こらない。

しかも周りからはかいだことのあるいい匂いがする。

おそるおそる小人たちが顔を上げてみると、そこには一面の草原ができていた。

見上げれば遠くまで続いていた闇と光は失せて、変わりに真っ青な空が広がっていた。

遠くには空の色をいっぱいに吸い込んだ川がゆったりと流れている。


そこから先の小人たちの振る舞いはじつに不愉快だった。

草や土を食べ散らかし、川の水を飲んではところかまわず小便をした。

食べ物にも寝るところにも困らない。

げらげらと笑いあいながらさかりでもないのに子供を作っては数を増やしていった。


そんな月日が100年ばかり続いたころである。

小人たちは数を増やし、たくさん食べたおかげか体も大きく丈夫になっていた。

泥と草を混ぜて家を作り、多くの法律とトイレを作った。

だが、相変わらず食べては寝て、笑って歌うという生活を彼らは続けていた。

平和な日々が、これからもずっと続くと誰もが疑わなかった。


ところが、東のはてと西のはてから大きな物音がしてきた。

なにごとかと目を見張ってみると、東のはては真っ白に輝き、西の果ては真っ黒に染め上がって、そのどちらもが地平線のかなたまで続いていたのだった。

そしてそれらはゆっくりと自分たちのほうへと近づいてくるのである。

小人たちはなすすべもなく固まって震えることしかできなかった。

やがてそれらがなにかがはっきりと見えてくると同時に、東からは驚きの声が上がり、西からは悲鳴が上がった。


東の空には白く輝く翼や布を羽織った美しい男女が剣や弓をたずさえまっすぐに飛んで、地上からは屈強な男たちがこし布を巻いて太い手足を前に押し出すようにのっしのっしと歩いてくる。


西の果からは、無数の手足の生えた大きな何かや、目がたくさん付いたなにかや、大きな二つに裂けたあごを持つ何かや、うねうねと芋虫のように鼓動するなにか、言葉に出すことも恐ろしい身の毛もよだつような怪物たちがぞろぞろと迫ってきたのだ。


小人たちはいっせいに東のほうへと走っていった。

きっと、あの白くて美しい人々が助けてくれる。

ところが、東から来ていた美しい彼らは、小人が向かってくるや否や弓を放って、剣を構えて、地上の男たちは雄たけびをあげて迫ってきた。

あわてて引き返した小人たちだったが何人かは転んだり、押し飛ばされたりしてその場に倒れこんでしまった。

とたんに倒れた小人たちは弓が突きささり、剣や槍が突き刺さされ、男たちに踏み荒らされて死んだ。


命からがら逃げおおせた小人たちをまっていたのは恐ろしい怪物たちだった。

小人の中には怪物たちを見ただけで気を失うものや、あきらめて身をかがめるものがあふれた。

もうおしまいだ、白い連中に殺されるか、この怪物に食われるしかないのだ。


そう思ったときである。怪物たちはその無数の手で小人たちをつかむと後ろの怪物へと渡し、渡されたものはまた次の怪物へと渡して小人たちを後ろへ後ろへと運んでいった。

小人たちは一箇所に集められると、見た目がさほど悪くない人の形をした怪物から種を渡された。

あっけにとられる小人たちだったが、仕方なく土を耕して種を植えた。

遠くからたくさんの悲鳴と大きな爆発音が響く中で、小人たちは一生懸命に種を植えつづけた。

するとあっというまに種は芽になり、つるになり葉が茂り、大きな丸いレタスのようになった。


怪物たちはそれを前に前にと運んでいく。

小人たちは種を植えて野菜を育てて、それ怪物たちは前へと送り続けた。


しばらくすると多くの怪物たちが体中からたくさんの血を流しながら戻ってきた。

彼らは小人たちの作った野菜をもりもりとたべた。するとたちまちに傷は癒えていった。


小人たちは怪物に感謝を込めて彼らのことを『魔王』と呼んだ。

そして畏怖の念をこめて、白い軍団を『神秘』と呼ぶようになった。

そして自分たちのことを改めて『人間』と呼んだ。


そして小人と交わった野菜や魔物から生まれてきた子供たちを『天使』と呼んだのである。

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