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ブック・オブ・ザ・ワールド  作者: 柏ノ木
ゲームの世界
6/12

採取クエスト

お待たせしました。今回は人妻が活躍します。


続きを少しこちらに追加しました。

 北側の役所から、大通りを抜けて市場に出る。気づけば街は周囲を壁で囲まれていたのだ。

 

 市場は活気に満ちていた。人ならず、獣人やら、耳の尖った者、髭をたくわえた者、戦士の一団、魔術師など。露天には食材から、アクセサリー、使い道が見当もつかない道具アイテム、武器や防具、本など揃えた店が立ち並んでいた。


 中には占い師までいる。


 「すごいな。」


 「でしょ。私もはじめて来た時は一日歩き回ったわ。半数はNPCで、他の店はギルド運営の店か個人店ね。知り合いがここで店出してるから、あとで寄りましょ。」


 名残惜しいが、市場を抜けて南門へ向かう。壁は巨大だった。門は開いており、プレイヤーや商人の馬車などが往来している。門を抜ければ、そこは新緑の草原が広がって、遠くには天まで届く山脈。麓には深い森があった。


 ここで、役所で渡された依頼書も見る。ミーナは遠くを見ていた。


 依頼書・・・草原に生える薬草を出来るだけ多く採取し、納品すること。

       品質や量によって、報酬の増減あり。

 

 手書きの青い一輪の花が描いてあった。それをこの広い草原から探し出すのだが最初から難易度が高い気がした。


 「とりあえず、地道に探すしかないわよ。と言っても簡単に見つかるから大丈夫。街道から少し逸れないとないからこっちに行ってみましょ。」


街道を離れて、道無き道を行く。薬草を探しながら世間話をする。


「そういえば、ミーナは始めてどれ位なんだ」


「そうね。もう一年位かな。主婦業の合間の楽しみでやってるだけだけど、でも子供出来たら引退かな。子育て優先でやってる暇なんて無くなるしね」


 世間話をしながら、草原を行く二人。


「そういえば、最近呑みに行ってないよね。来週の週末あたり、行かない?」


 とサイは誘う。


 「来週か・・・。予定入ってるからダメね。それじゃあ仲間集めて、この世界の居酒屋に行こうか。この世界の売りの一つなんだけど、飲食関係がめっちゃ充実してんのよね。ファーストフードから、小粋な料亭まで、現実では食べれない様なものが食べれるわ。まあ、味覚を味わうだけだけどね。」


 美味いもん食わせて上げるわよ、ニシシと笑う。ゆったりと散歩気分であったが、前方に青い花が群生しているのが見えた。


 依頼書の絵と同様のものが咲き誇っている。とても美しく、儚げな花だった。


 「さて、採取だけど、単純に触れればアイテム化するわ。でもね。スコップとかで、掘り出すことも出来るの。単純なアイテム化は時間がない時とか、めんどうな時はそれでいいけど、品質は並になるわ。丁寧に、自分の手で採取したほうが品質も良くなる。その代わり、面倒だけどね。さっき、説明がなかったけど、これクリアしたら受付で説明があるわ。ちなみに、モンスターの剥ぎ取りも同じね。これは、設定で変えられるからね。あとで見てみるといいわ。今はとりあえず、アイテム化して取っていけばいいと思う。」

 

 サイは、青い花をに触れてみた。花は光となり消える。メニューを開き、アイテム欄を確認すると、薬草が追加されていた。それ以外のもすべてアイテム化すると、合計10個になる。


 「なかなか、収穫だったわね。群生してるのってなかなかないんだよ。」


 「へ~。これでクリアか。次は掘って取ってみたい。なんか、コツでもあれば教えてよ。」


 OKと頷くき、さて戻ろうかとミーナは言った。


 その時!


 直感だった。背後に何か感じて、振り返る。咄嗟にあの剣を出現させる。


 どうしたのよと、ミーナはサイに問いかけて、サイの注目する方向を見る。何もない草原だった。しかし、ミーナのスキル探知が起動する。


 「何で、あんた分かったのよ!!下がって!なんでこんな街の近くでこいつがいるのよ!!」


 サイには見えなかったが、ミーナは分かった。探知スキル、隠遁しているものや、遠くのものを正確に察知する能力。最上位の探知は電探レーダーとも揶揄される。


 ミーナは焦った。サイはまだ初心者だ。モンスターは、私よりも弱いサイを必ず狙うだろう。しかし、私より先に何故、こいつに気付けたのだろうとミーナは疑問に思った。


 それはが居るべき場所には何もいなかった。否、見えなかった。見えるとしたら、踏み潰されている草だけだった。多くのモンスターには公式的な名前はない。ほとんどは、プレイヤー達の間で名づけが行われる。


 それの名前は「火を吹く影」


 今まで、多くのプレイヤーが襲撃され、丸焦げになった。本来なら、この辺りには出ないはずの存在。


 モンスターの分布が変ったという噂を耳にしたが本当だったのかとミーナは納得する。すでに臨戦態勢。見えずとも、相手の動きが探知のスキルで理解出来る。


 サイは、数歩下がってその場を観察する。ミーナの雰囲気があからさまに変化する。纏っている空気は知っている。あの骸骨と同種の物だ。普段知っている友人の「みな」からは想像も出来ない姿だったから、少し驚いていた。こんな一面もあるのかと関心した。


 手にする得物は槍は蒼い。しかし鋼鉄ではなかった。そもそも金属ですらない。それは木製だった。しかも蒼い樹で出来ている。それがミーナのメインウェポンの蒼い短槍。蒼樹から切り出された唯一無二の槍。彼女しか持っていないオンリーワン。


 火を吹く影は警戒していた。相手は油断していたのだ。自分に落ち度はなかったのだが気付かれた。あの弱いほうだ。侮った。弱い獲物と勘違いした。良く見れば、得たいの知れないものを感じる。とても嫌なものだ。目の前にいる奴は単純に強い、こいつに気付かれる前に弱いほうを捕まえて逃げるつもりだった。だんだんと怒りがこみ上げてきた。大人しく食われればいいのにと憤慨していた。


 火を大きい口から不意に吹く。ミーナは事前に察知し、回避行動から攻撃に転じようと体勢を整える。サイはいきなり火が現れ襲い掛かってきて、一瞬呆気に取られてしまい行動が遅れた。


 「バカ!早く逃げろ!!」


 手痛い洗礼だった。身体に何かが噛み付いた。身体の一部に噛み付いたのではなく、全体に噛み付いたのだ。痛みはないく、身体を衝撃が奔ると同じくぬめぬめとした感触が気持ち悪かった。


 「ちっ!!!!!!」


 全身の筋肉がその容姿からは想像できない様な力を発揮する。地は抉れ、ミーナの身体は飛ぶ。一速で踏み込みその胴に蒼き一撃を叩き込む。一撃はわき腹を掠った。


 が、しかし。


 獲物を獲た火を吹く影はその四本足で飛び上がったのだ。一瞬の浮遊感から下から突き上げる衝撃がサイを襲う。ミーナはすぐさま追う。現実のみなは運動は苦手だったのだが、プレイヤーの身体能力はアスリートの身体能力を軽く越える。ゲームなのだから当たり前なのだが、ミーナは身体強化・俊敏さの上昇スキルを持ち、さらに人間離れしている。


 風を切るように草原を疾走する。この世界でも上位に達する俊敏性を誇るミーナだが、相手も早い。強力な四本足で飛ぶ様に逃げる。


 火を吹く影は血の味に愉悦していた。どうやら、こいつは当たりの獲物だった。血中に含まれる魔力が他の人間より多い。ぐふふと笑みが浮かぶが、強い奴を撒かなくてはならないのが面倒だった。得物は徐々に弱ってきている。新鮮な内に食べたいのだ。


 ミーナはまた舌打ちをする。前方に森林が見えてきた。あそこに入られたら厄介だ。こちらに地の利はない。それよりも、出血によるダメージか心配だった。


 ここで判断を誤ってはいけない。そう思う。死んでもまた復活するだけだが、あれをここで仕留めない限り、また初心者を襲うだろう。この世界のモンスターもプレイヤー同様に存在しレベルアップしている。逃して消えることはないのだ。それも、他のゲームと違うポイントだ。死線を幾度も潜ったモンスターは強い。


 ミーナは立ち止まった。獲物に集中する。その動きを予測し、呼吸を整えて槍を持ち返る。すべては滞りなく、動作が完了する。


 スキル・・・必中の投擲


 が発動する。


 全身の力が凝縮され、全てが槍に伝わる。投げる腕は見えない。あまりの勢いで体勢を崩すミーナ。必中必殺の一撃がミサイルの如く空中の的へ吸い込まれる。


 どしゅ


 サイは聞いた。肉が吹き飛ぶ。血が雨となって草原を染めた。空中で放り投げられて草原に叩きつけられる。そこには、カメレヨンとカエルを足した様な怪物が横たわっている。右半身が削り取られ絶命していた。内臓は胴から流れ出ており、口からは舌が飛び出て醜悪な顔をしている。


 「ふふーん。凄いでしょ。」


 蒼い槍を携えたミーナが褒めてほしそうに傍らに来て、手を差し伸べて、「はい、これ飲んで。」とミーナは回復薬をサイに渡す。サイは自身の血で血まみれだったのだ。


 出血状態では、徐々にダメージが蓄積されてしまい、最悪死亡する。それを回避する為には、回復薬を飲むか、回復呪文を掛けるしかない。もしくは、医者に見てもらうかである。サイが回復薬を飲むと、見る見るうちに傷が治っていく。サイはとても体が熱いと感じた。


 「凄いな。ミーナ、どうやって仕留めたんだ?」


 ああ、これね。と仕留めたモンスターを見て説明を始めた。


 「単純に槍投げをして当てただけよ。まあー、ちょっとばかし威力が高いけどね。さーてと、では想定外の事でしたが、運よく獲物を仕留められたので、ここで剥ぎ取りをしてみましょう。って言っても触るだけだけどね。」


 ミーナがモンスターの死骸に触れると、アイテム化され死骸が一瞬で跡形もなく消滅した。辺りの血も醜悪な臭いも忽然と消える。まるでそもそも何もなかった様である。入手出来たのは、特殊な皮、魔力石だった。


 ミーナは帰ろうとサイを促した。ああ、と答えるサイであったが、何かとても心が落ち着かない気持ちになっていた。何かが起こっている様な気がする。具体的な言葉にどうしても出来なかった。


 しかし、何も起こらない。


 早くとミーナが急かすので、サイは頭を切り替えて帰路についた。 

 

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