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ブック・オブ・ザ・ワールド  作者: 柏ノ木
プロローグ的な
4/12

骸骨は突然に

 サイは目を開けるとそこは、広い森の中にある開けた空間だった。

 

 巨大な神秘的な木々の間に、寄り添うようにある石造りの台座の上に自分は立っていた。辺りに、人の気配はない。鳥のさえずりと風が木々を吹き抜ける音が聞こえるだけだ。

 

 「此処はどこだ。ゲーム内だろうけど、最初は街とかから始まるんじゃないか?」

 

 問いに答える者はいなかった。マップをメニューから開いてみたが、マップには何も映っていない。ステータスを確認、チュートリアルの時と変わりはない。鉄の剣も腰に帯刀している。

 

 「とりあえず、探索してみるか。それにしても凄いな。」

 

 木々が天高く聳えていた。高層ビルに匹敵するんじゃないかと思うぐらいの巨木。ゲーム世界ならではの風景である。空気が澄んでいるのが分かる程の清浄な空間、これが仮想空間だとは思えないくらいだ。


 少し歩いてみて分かったこと。ある一定の範囲しか移動できず、出口はないこと。アイテムや敵は居ないこと。台座から一番奥の巨木にそれは腰掛けていたこと。


 「これ、骸骨だよな。」


 傍らに立って観察してみる。それは、純白の鎧を着た骸骨だった。傍らには装飾された剣もある。それが男か女かは分からないが、森の中で異彩を放っていたのだ。地面に膝をついて鎧に触ってみると冷たさが伝わってくる。鎧は所々傷が付いていて、胸のあたりに剣が突き刺さっていた。


 「これ、抜けるかな。もしかしてレア武器か?」


 柄を掴み引っ張ってみるが抜けない。今度は全力で引き抜く。それでも抜けない。


 「くっそ!!抜けない。抜けない仕様か?」


 三度目の正直。骸骨に心で謝りながら鎧に足を掛けて、全力で引っこ抜く。少し抜ける感触がある。更に力を込める。


 「わっ!!」


 ドサッと行きよい良く尻餅をつく。尻に衝撃が奔るが痛みは一切無い、手には今しがた抜けた剣があった。立ち上がって、剣を眺める。柄、鍔、刀身が一体化した剣だった。刀身は傷一つない。


 メニューを開いて、アイテム確認してみる。しかし、新規取得の欄には剣の名前はなかった。装備の欄を開いても剣の名前はなかった。剣を見てみても変化はない。その時。


 かちゃかちゃ


 金属が擦れ合う様な音がした。嫌な予想が頭を過ぎる。振り向きたくはないが、意を決してそれを見た。骸骨が剣を右手に呆然と立っていた。骸骨はうな垂れているが、ゆっくりと顔を上げる。骸骨には目が無いのだが、目があった気がする。


 「はは・・。まじっすか。いきなりっすか。」


 素早く距離を取る。自然と剣を構えて体勢を整え、相手を観察する。骸骨には感情の発露は見られない。身長は170cm程、何の圧力も感じなかった。しかし、自分がとても緊張しているのが分かる。それ自体には変化はないが、空気はとても重い。汗が額から一筋零れた。


 剣すら構えず、前兆もなく、それは動いた。それは飛ぶように踏み込んで来た。


 ガキィィィーーーー!!


 突風の様な突撃を無意識にガードする。しかし、威力を受け止めきれず吹き飛ばされ、全身を衝撃が突き抜ける。衝撃で剣を放してしまう。もし、剣術スキルがなければ切り捨てられていた。スキルのアシストがあり、半自動で防御をした結果だ。


 凄まじい衝撃で剣はあらぬ方向に飛んでいってしまった。素早く、起き上がり抜刀する。瞬きすら忘れ相手を凝視しする。骸骨が立っていた地面が抉れていた。相手はまさに怪物だ。


 骸骨は散歩でもしているかの様に歩いてきた。それに恐怖し、思わず後ずさる。


 骸骨は目の前で剣も構えず止まった。こちらの目をその目玉が無い空洞が見つめてくる。まるで打ち込んで来いと挑発しているようだ。中途半端な攻撃では返り討ちだと直感する。息を整えて、心を整える。


 現実の自分では考えられない様な勇気が湧いてくる。何故だろうと疑問が浮かぶが、考えている暇は無い。全身全霊で上段から一撃を放つ。


 骸骨はそれを容易く剣で受け止め、腕の力だけでサイを押しのける。体勢を崩した所に止めとばかりに切り込んでくる。それを剣で受け止めまた後方に吹き飛ばされる。


 今度は何とか倒れることなく持ちこたえられたが、実力の差は明らかだった。それでも剣を構える。しかし剣を構えてぎょっとした。刀身の中ほどから折れていたのだ。武器には耐久度があり、凄まじい攻撃に耐えられなくなったのだ。剣先は地面に突き刺さっていた。


 骸骨は初めて構えを見せる。


 あ、終わったなと感じる。

 

 きっと、この剣ではもう防げない。

 

 真っ二つになる自分の光景を幻視する。その時、視界に端にアレが見えた。


 サイはもう使い物にならない剣を、一か八か投げつける。骸骨はそれも意に介さず迫る。投げつけたサイはある物を目掛け駆ける


 目当ての物を掴むも、嫌な感触が背中から胸に掛けて侵入した。


 胸を見ると、剣が生えていた。否、貫通していた。サイは全身から力が抜けるのを感じる。背中に骸骨が迫り剣で刺し貫いている。剣は丁度心臓を貫き、即死させる。このゲームでは、部位ごとにダメージが違い頭や心臓に深刻なダメージを受けると即死することがある。


 ずるっと剣が引き抜かれる。剣から血が滴る。


 意識ははっきりしているのに身体が動かない。血が大地に広がっていく。それはとても恐ろしい体験だ。まさか此処まで再現出来るのかとそれも驚愕だった。


 骸骨の足跡が遠ざかる。勝負は決したとその背が語っている様だった。


 しかし、まだだった。左手に嵌めてある指輪が熱い。地に伏している自分の目に前に青い小鳥が倒れている。口ばしを開け翼を広げて死んでいる。


 この小鳥は、青ムク。任意の攻撃を一回防ぐか、自動で一撃死と即死の身代わりをしてくれる召喚獣。


 青ムクは光となって消える。傷が塞がり、四肢に力が戻ってきた。それでも戦力差は変らない。チャンスは一度きりだ。


 あの引き抜いた剣を今握っている。目を瞑ってイメージする。


 そして。


 「うおぉぉぉーーーーー!!」


 自分でも驚くような咆哮だった。骸骨が振り向く。骸骨には驚愕する様な雰囲気が始めて見えた。骸骨だがそこにはやはり、意思があった。


 一歩の差が勝負を分けた。もし、剣術スキルのアシストがなければきっと成し得なかっただろう。引き抜いた剣が、突き刺さって出来た隙間を抜け骸骨の胸を貫く。一瞬世界が止まった気がする。自分と骸骨と剣が一体化したような錯覚。


 長い時間止まっていた様な気がするが、剣から手を離し距離を取った。骸骨は胸に刺さった剣を考え深く見つめ、その後サイを見た。


 手ごたえはあった。もしダメならもう打つ手はない。緊張で全身が強張る。


 しかし、骸骨は光の粒子となって末端から拡散していった。胸に刺さった剣だけが何もなかった様にカランと落下したのだった。


 「はは、勝った。」


 緊張の糸が切れて思わず座り込んでしまった。そこで視界が光に包まれた。




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