ちょっとしたチュートリアル
皆さんの小説を読んでいて自分も書きたいと思い書き始めました。
目を開けると、そこはだだっ広い草原だった。空は果てしなく澄んでいて、遠くには天へ聳える山脈が見える。空気には香りがあった。ここが、ブック・オブ・ザ・ワールド。本当にゲームの世界なのか?まるっきり、現実と変らない様な感覚だった。試しに頬を抓ってみたが痛かった。本当にゲームの世界なのかと疑いたくなるな。VRMMO、仮想現実大規模多人数オンライン(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)。全感覚を仮想現実とリンクし、脳に錯覚を起こさせているらしい。恐ろしい技術であるが、安全対策は確立されているらしい。最初は、軍の戦闘訓練の為に開発された代物で、それが医療に転用され一般にも下って来た技術だ。
「こんにちわ。ブック・オブ・ザ・ワールドへようこそ。私はルビアです。これから、チュートリアルを始めますが大丈夫でしょうか?まずはお名前をお聞かせ下さい。」
そこには、目が眩む様な美女が立っていた。鮮烈な赤髪が印象的だった。これまで、見たことも無い美貌に呆けえてしまって、数秒凝視してしまったのだが、ルビアさんは視線を感じて頭を傾げていた。慌てて自分の決めた名前を告げる。
「サイです。よろしくお願いします。VRは初めてなんですが凄いですね!!」
「はい。サイさんですね。よろしくお願いします。そうなんですか。是非、この世界を満喫されてください。きっと良い体験が出来ますよ。では、チュートリアルを始めたいと思います。改めて自己紹介致します。教官を務めるルビアと申します。よろしくお願いいたしますね。これから、最低限ですがこの世界で生きていく為に必要な知識を説明致しますね。」
よろしくお願いしますと頭を下げながら言うと、こちらこそですと言って、微笑みながらルビアさんも頭を下げる。
「ではまず、今後のプレイに大きく関わるスキルを5つ付与致します。どんなスキルが身に付くかはお楽しみです。いきなり最強クラスのスキルが身に付くかもしれませんし、マイナススキルかもしれません。まさに運次第です。スキルには、才能スキル・補助スキル・能力スキルがあります。この3つのカテゴリの中から選ばれます。」
この開始時に付与されるスキル次第で今後のプレイスタイルが決まるらしい。例えば、剣を使ってプレイしたくても魔術の才能を付与されれば魔術を極めた方が断然優位に進められる。かと言って使用できない訳ではないと、友人が教えてくれたのを思い出す。
ポーンと頭の中で音が鳴った。
「ふむふむ。はい、付与が完了しましたよ。サイさんは運が良い方ですね~。ではメニューを開いて確認してください。念じればメニューが展開されますよ。」
何の変化も感じなかったが、ルビアさんはうんうんと頷いている。ルビアさんにアドバイスされた様に念じるとメニューが頭の中で展開した。メニューには、ステータス・装備・スキル・アイテム・フレンドリスト・図鑑・マップ・設定・ヘルプの欄があった。スキルの欄を選んで表示させてみる。
召喚魔術・魔力運用力最大・剣術・直感・鉄の意志
この五つだった。
「サイさん。貴方は幸運ですね。では説明に入りますね。まずは召喚魔術ですが、極めてレアスキルですよ。おめでとうございます。召喚魔術を使用する大前提はまず、この世界にいる召喚可能な存在と契約しなくてはいけません。召喚可能な存在には、Sクラス~Fクラスまであります。C~Fクラスの存在は一種が複数体いますが、S~Bクラスの存在は一種一体のみで、この広いブック・オブ・ザ・ワールドのどこかに潜んでいます。これは才能スキルに該当します。」
ここまではいいですかと、ルビアさんは区切る。
「召喚魔術を使用できるのは、総プレイヤーの内5%程度です。今、総プレイヤーは2万人程なので1000人程度が習得している計算です。ちなみに召喚魔術は後天的には習得は不可ですから、サイさんは幸運なのですよ。あと注意点ですが二つあります。高クラスの存在の場合、自分のレベルが低いと契約出来ない確立が跳ね上がります。それでも契約が出来てしまうプレイヤーも居ないではないですが、ほとんど戦闘になってやられてしまうので契約は慎重に挑んで下さい。で、もう一つは契約していても他のプレイヤーに強奪されていまう可能性があります。それはどんな場合かと言えば、お互いが召喚魔術を習得しており、相手の召喚した存在を打ち負かした場合低確率で相手に寝返ります。彼らはより強い存在に惹かれるからです。ですから、高レベルの存在と契約したらあまり見せびらかしてはいけませんよ。」
「契約はどうやってするのですか?何か条件があると思うのですが?」
そう疑問を伝えると。
「レベルが関係していますが、レベルが高いからと言って確実ではありません。あくまでも確立ですね。これ以上はプレイして色々試してみてくださいね。では魔力運用最大の説明をしますが大丈夫でしょか?」
ルビアさんの説明を要約すれば、魔力を効率よく扱える様になるスキルだと言う事だ。これは補助スキルである。剣術はその名の通りで、召喚魔術と同様に才能スキルに入る。
「直感は能力スキルに該当します。直感は様々な場面で役立ちますよ。直感を大事にして下さいね。きっと良いことがありますのでね。」
笑顔でそう告げる。
「鉄の意志は、精神異常系に耐性大になります。これも能力スキルです。珍しいスキルではありませんが、意外と重宝するでしょう。とりあえず、スキルの説明はここまでです。質問等はありますか?あればお願いします。無ければ他の説明に移ります。」
いえ、ありませんと答える。まだ分からない事だらけで、思いつかなかった。
「装備ですが、この世界では性別での装備制限がある以外の物は、特に装備できない等はありません。魔術師が剣や槍を装備していることなど当たり前です。そもそも、魔術師がひ弱などという事はありません。この世界では得意か不得意かですし、プレイヤーがどうこの世界で存在したいかです。では装備の欄を表示して下さい。」
再度メニューを展開し、装備の欄を選択する。今現在装備中の物が表示された。武器は装備されていなかった。
旅人の服・・・・・一般的な旅人の衣服・・・防御力3
旅人のズボン・・・一般的な旅人の衣服・・・防御力3
旅人の靴・・・・・一般的な旅人の靴・・・・防御力3
契約の指輪・・・・召喚契約に必要な指輪・・青ムクと契約済み
「さて、武器は装備されていませんね。先ほど言いましたが、この世界では基本的にどんな物を装備するかはプレイヤーの自由です。ですのでサイさんにはこの中から選んで頂きます。しかし剣術のスキルをお持ちになったので剣が最適かとは思いますが、いかがでしょうか?」
ルビアさんと自分の間の空中に、剣・短剣・槍・短槍・斧・ハンマー・メイス等が突如現れて静止している。どれも、無駄な装飾もなく簡素な武器だった。自分は迷わず剣を選んだ。せっかく剣術のスキルを得てわざわざ違うものを選ぶのは無駄な苦労だと思ったのだ。自分に合った物を選ぶのは当たり前だ。選ぶと他の物は音もなく忽然と消えうせた。
「剣を選びましたね。すでに装備は完了しています。確認してください。」
鉄の剣・・・一般的な鉄の剣・・・・攻撃力5
武器の項目が追加されていた。これで平凡な旅人が出来上がった様だが、一番下の契約の指輪なる物が気になったので質問する。
「それは、現在は青ムクと契約した指輪です。能力は、常時召喚型で任意で一回攻撃の身代わりになり、一撃死には自動で身代わりになります。一度能力を使用すると半日は召喚不可になりますので使い所に気をつけて下さいね。」
左手の指に嵌められた指輪には小さく青い宝石が埋め込まれていた。その青い宝石が青ムクなるその者だと直感で分かる。
続いて、アイテムの説明がされる。アイテム所持数は基本的に20個までとし、メニューからアイテムを選ぶと任意の場所に出現させられる。フレンドリストは登録したプレイヤーにメッセージが送れ、同エリア内であれば会話が可能、フレンドの人数は基本的に制限がないとの事だった。図鑑は、武器・防具・装飾品・アイテム・イベント品・モンスター等を入手・遭遇した場合自動で記載されていく。設定はゲーム内の細かい設定が可能だった。デフォルトで構わないだろうと思う。ヘルプは迷った時に見ると良いとの事だった。
「次に、準備運動も兼ねて、戦闘の動作確認をしましょう。ではこの案山子に攻撃してみて下さい。」
一体の案山子がいつの間にか現れた。
案山子を見据え、剣を構える。自然に一歩踏み込み袈裟斬り。風を切るような音がして案山子は肩部分から脇腹を切られ、上半身は地面にぼとりと落ちた。
更に二体の案山子で試し切りを行った。鋼鉄の剣を振っているのに、まったく疲れない。リアルの身体だったら、こうはならないだろう。
「良い具合ですね。では次に動く敵と戦ってみましょう。」
ぽんと効果音がなると、醜い顔のゴブリンが一体出現した。小学生ぐらいの身長で手には短剣、皮の鎧を着ていた。
まるで親の敵の様にゴブリンは睨んでくる。
「ゴブリンは一体だと大変弱い種族です。集団になると厄介ですが、知性は高くはありませんし、対応を間違えなければ簡単に倒せるはずです。では始めましょう。」
それを合図にゴブリンが向かってくる。サイは剣を構えて迎え撃つ。
単純な突撃だった。短剣の一振りを跳ね上げて、がら空きとなった胴を横に薙ぐ。ゴブリンは、ぐぇとうめき声上げてよろめく。そこに止めの一撃を容赦なく見舞う。
「お見事です!サイさんは筋が良いですね。剣術スキルには動作のアシストがあるのですが、それでも良い動きです。」
「いや、それほどでも。自然と身体が動いてあっという間でした。」
それではとルビアさんが言って、三体のゴブリンを呼び出した。
「次は三体のゴブリンです。冒険をしていれば一対一だけの状況は少ないと思います。ただ単純に戦うのではなく、一連の流れをイメージして戦ってみてください。」
ゴブリン達はサイを包囲する。ぐるぐると唸ってこちらの様子を伺うゴブリン達。
ここは思い切ってこちらから仕掛けてみる。上段から一撃、一体のゴブリンの頭目掛け振り下ろす。見事に剣が頭蓋を砕く。ゴブリンはそのまま仰向けに倒れ絶命した。
背後に気配を感じてすぐさま向き直り、剣を受け止め、弾き、突きを見舞う。残されたゴブリンは仲間が倒された事で興奮状態。口から唾を吐き罵倒してくる。残ったゴブリンも切り伏せて終わった。
三体のゴブリン達は、光の粒子となって消えていく。あの醜い姿とは裏腹にとても光は綺麗だった。
「倒しましたね。ではメニューを開いてアイテムを確認してみてください。アイテムを取得したはずです。」
取得アイテム ポーション3個が追加されていた。初めてのドロップだ。
「さて、最後にですが、召喚魔術を行ってみましょう。別に難しくはありませんから大丈夫ですよ。魔力を消費して青ムクを召喚してみましょう。文言は自然と頭に浮かびますからそれを唱えて下さい。」
待っていると頭の中に言葉が浮かんでくる。今まで感じたことのない感覚。その言葉を口に出す。
「汝、我が下へ来たれ、この身の盾とならん。青ムク!!」
自分ながら恥ずかしいのだが、思い切って呪文らしきものを唱える。何の変化も見られなかったと思った時。
ちちちちちち
青い小鳥が肩に止まったのだ。言うなれば青い雀だった。肩が気に入ったのか、羽の毛づくろいを始めてしまった。此処まで再現しているなんて凄いなと更に評価を上げた。指で撫でてやると嬉しそうに鳴いた。
「ふふ、可愛いですね。大事にしてあげて下さいね。ではチュートリアルはここまでです。これからいよいよ、本番の始まりです。多くの未踏の地をその足で踏破して下さい。多くの仲間を作って下さい。」
ルビアさんはそう言うと呪文を唱える。
「狭間の門番よ。我が声を聞け。汝は我が僕、客人をかの世界へ誘え。」
突如、何もない空間に黄金の扉が現れる。扉が開き中は光で満たされている。その先に何があるのかは分からない。
「良い冒険をして下さい。幸運がある事を願っていますね。」
「はい。ありがとうございます。これの中に入っていけばいいんですね。」
そして、扉の中に入る。ルビアさんが手を振って、がんばってね。わ・・・。最後の方は聞こえなかった。