《時雨、同時異話》
想儀は風呂に入ったので、この機会に気になったことを聞いてみる。
「一つ聞いていいか?」
「はい、何でしょう」
「私たちは七百年も生きた…生きたってのはおかしいか。存在し続けてきた。なんで今更生き長らえようと…不便だな。何故ああまでして、存在しようとした?」
紗奈は少し迷ったように視線を逸らしたが、直ぐに合わせた。
「少し…難しいですね。存在したいから、人間でいた頃と同じです。人間風に言うと生きたいから、です」
「私たちは謂わば、あの場所に縛り付けられていたようなものだ。祠が壊れれば、解放される。つまり成仏だ。死んでいるんだ、別にそっちでも構わなかったろうに」
紗奈は心無しか俯いたような気がした。
「時雨様が、外を見たい、と仰ったので…あの時から私は必死で…って、死んでるんでしたね」
何百年も前のことだろうか。自分は最早覚えていない。恐らく、呟いた程度だろう。
「時雨様に、何とかしてあの場所以外の、現代の景色を体感して戴きたかった。時雨様が動くには、動く人間が必要でした。しかし、人を捜すことができる範囲は限られ、祠がいつ朽ち果てるかも分からず、私は焦りに焦って…。多少強引にでも、依り代を移さねばと」
大昔の小さな呟きを今まで覚えていて、そのために今までの時間を使っていた。
やることがないとは言え…
「ありがとう、紗奈」
私は、大した人間では無かったというのに。
「私は時雨様のためなら、如何なる苦痛も耐え凌ぎ、必ずや願いを叶えてみせます。今回は時間が掛かってしまいましたが…」
ここまで慕われていたとは…気付けないものだろうか。
「そこまで重くなくてもいいがな」
軽く笑ってみせた。
これ程のこと、礼を返せるだろうか。
「いえ、今回の礼は全て玖乃川様のものです。私は無理矢理引っ張ってきてしまっただけですから」
紗奈が玖乃川様に感謝と謝罪をしなければ、と呟く。
「勿論…想儀にも感謝はしているし、礼も返すつもりだ。しかし紗奈、お前にもだ。お前がいなければ…私はここに居ない」
「……有難う御座います」
彼女は一瞬驚いて、笑顔に戻り、一礼をした。
想儀が戻ってきた。
もう少しだけ、もう少しでいい。
「そうだ、私たちも風呂入ってきていいか?」




