探索、廃墟の記憶
「先生は関西人なの?」
「そらせやろ。引越しはあったけど全部関西やったで」
「何で此方に来たの?」
「親戚が此の辺に住んどってな、一回遊びに来たことがあんねん。そん時に一緒に遊んだ地元の子がおってな…同い年らしいねんけど其の子に会う為に此処に越してきてん」
「それだけの為に?」
「まあそう言われると思たけど、ウチにとったら大切な思い出でな…ウチは髪を金に染めてしもたし、えらい昔のことやからすれ違ったりしても分からんやろなぁ…」
雹が音伊先生から昔話を聞いている間、私は二人の後ろを黙って歩く。
特に話に入ろうともしない。
というか何処まで歩くのだろう。
「あ、此処だ」
「ん?」
正面に見えたのは、廃墟。
見たところ一階建てのようだ。
あまり大きくもなく、小屋と言った方がいい。
「目的地か?」
「そういう訳じゃないけど。気を付けてね、何が出るか分からないから」
「分かった」
雹を先頭にして小屋へ入る。
「なんや、ちょっと涼しなったな」
「そう?」
音伊先生は寒さを感じたようだが、私や雹は気温の変化を感じていない。
「気味悪いなぁ…」
「怖い?」
「別に。ウチが怖いんは気の狂った人間だけや」
「そんなこと言っても騙せないよ。人間は恐怖を感じた時に体温を下げようとする習性があるからね。翠雨はどう?涼しくなったって感じる?」
「いいや」
「雹ちゃんは博識やなぁ…まあちょっとは怖いけどもやで?ヘーキやヘーキ」
音伊先生は背筋を伸ばす。
強がっている風にも見えないので実際大丈夫なのだろう。
「うーん…何か生活感のある小屋だねぇ…」
「此れといって探すものはあるか?」
「此処に無さそうなものがあったら教えて」
「分かった」
床に散らばる木材を蹴散らし探索する。
「うん?ううん…?」
「先生、どしたの?」
「静かに…」
音伊先生が真面目な顔で口元に右人差し指を当てる。
そして足元に落ちていた長めの棒を拾い上げ、私に懐中電灯を押し付ける。
「誰や!」
音伊先生は大声を張り上げ、部屋の隅の棚へと棒を向ける。
「先生、下がって」
「ウチに任せとき」
雹が前に出ようとしたが、音伊先生はそれより先に走り出し、棒で棚を砕く。
…素人の太刀筋じゃない。
「にゃあ」
「ん?」
棚の陰から出てきたのは三毛猫だった。
「何だ猫か…あ、あ、捕まえて!」
雹は慌てて指示する。
音伊先生は棒を捨て、猫を捕まえに掛かる。
「よっと」
あっさりと猫を捕まえる音伊先生。
「上手いね」
「小さい頃によく近所の猫と遊んどったし、動体視力も高い方やしな。ほんでどうすんの?」
「貸して」
音伊先生が雹に猫を渡す。
「ううん…ありがと。じゃね」
猫を離す雹。
「何か分かったん?」
「なーんにも」
そうは言うが、何か分かったんだろう。
そんな顔をしている。
そして…少し哀しそう。
「何も無い顔やないで」
「ホント、何も無いよ。いいから行こ」
雹はさっさと小屋を出る。
「何や、時々変やな、あの子」
「時々ではないですよ。変でない時の方が少ないです」
「そうなん?」
「はい」
間違ってはいないだろう…
私と音伊先生は雹の後を追って小屋を出る。




