会議、暖かさを囲んで
放課後。
六人は揃って廃棟へ向かう。
「みんな道順覚えときなよ」
先頭に立つ雹が言う。
「ま、迷うようなとこでも無いけど」
廃棟の前に立つ。
木造建築の校舎、想像していたよりもボロいな。
階段を昇り、軋む廊下を歩く。
「此処だね」
雹が足を止める。
ドアの近く、上の方に『2-A』と書いてある。
「人の気配がする」
「佐塔音伊が来てんじゃないの」
勢いよくドアを開ける雹。
「?」
教室の外に居た六人は、中から広がってきた匂い、あまり学校で嗅ぐことは無い匂いに首を傾げる。
其の匂いの正体は部屋の光景を見るとすぐに分かった。
が、首は依然傾いたまま。
「何してんの?入りぃや」
部屋の中央辺りに置かれたパイプ椅子に座る女性。
服装はあまり特徴の無い白のジーンズ、白いシャツ。
髪は金色の髪を後頭部で結んだ所謂ポニーテールで、長さは高めのところから首筋まで。
「君らが幽霊研究部の子らやね」
白い服と金髪に映える褐色の肌。
そして一番特徴的なのは、関西弁。
「なんや、女の子ばっかやん。君、ハーレムやな」
俺を指差す其の女性、かなりの美人さん。
「兎に角、そんなとこに突っ立ってないで入り。此れ、みんなの為に用意したんやから」
そう、其の女性に気を惹かれていたが、もっと気にすべきものがある。
女性の前には大きめのテーブル、其処に置かれているのは…
「何で鍋なんかやってんの?」
雹が俺たちの疑問をぶつける。
「美味しいからに決まってるやん」
「へぇ、教師って馬鹿でもなれるんだ」
「失礼な子やな。此れでも…いや、何でも無い。ええから入り。其処に椅子あるから」
壁に立て掛けてあるパイプ椅子を差す。
「さ、座って座って」
テーブルを囲むように、先生の隣に時計回りに雹を先頭にして五十音順に座る。
ただ、当然の如くマカは先生に怯えているので俺が先生の隣に座り、マカは俺と紗奈の間に座る。
「はい、器と箸」
先生が調理室から持ってきたと思われる器と割り箸を全員に配る。
味付けもテーブルに置いてあるポン酢を始めとして様々なものが用意されていた。
「あの…大丈夫なんですか?こんなところで鍋なんかやって」
「問題無いよ。此処の火災報知器壊れてるみたいでね、全然鳴らへんねん」
「鳴る鳴らないの問題じゃないと思うんですけど…」
「此処には他の先生来ぃひんし、バレへんかったらええねん」
呑気に笑いながら鍋に鶏肉を入れる先生。
(変な人だな…)
(そうだね…)
俺とマカは先生に聞こえないように話す。
「自己紹介しよか。知ってると思うけど、ウチは佐塔音伊。君らの顧問やね。音伊って呼んでくれたらええよ」
音伊先生はにこっ、と笑い、雹に自己紹介を促す。
全員が一通り自己紹介を済ませ、一段落つく。
「みんな箸進んでへんやん。ウチが全部食べてまうで?」
「いや、食べるけど。つーか材料はどうやって?」
「ウチの自腹。感謝して食べてな」
態々自腹で用意したのか…
「ところで先生って、担当の教科って何なんですか?」
みんなあんまり気にして無いようなので俺が聞く。
「教科は担当してへんよ?ウチは養護教諭や。分かり易ぅ言うと、保健室の先生やね。縁が無い人は無いから知らんでも無理ないわ」
「入学式の時に紹介があったがな」
「え?」
「わ、私は入学式前に入院したから…」
「私は転校してきたから」
マカと雹が言い逃れる。
「私は知っていました」
「一応全教師の顔と名前は覚えておいた」
入学式にも居てずっと通ってたのに覚えて無いのは俺だけかよ。
「覚えてへんのは別に構わへんよ。今覚えてくれたらええ」
「はぁ、すみません」
「はいはい、お食事会は此処まで!」
一番食べていた雹が満足気に切り出す。
そして此処までと言いつつ鍋をつつく箸は止まっていない。
「鍋食べに来たんじゃないんだよ」
「じゃあ其の箸を置け」
「やだ」
器に鱈と白菜を放り込んでいく雹。
「で、議題は?」
時雨が雹の箸を箸で抑える。
「む…えー、では!第二回部活会議を始めます!」
「第二回?第一回はもうやったん?」
「昨日やった」
「ウチも寄せてくれたらよかったのに」
「無茶言うなよな。さてさて、夏休みも終わって心霊の季節とも言える夏が…えーと…なんだ、その、兎に角!」
「纏めてこい」
「うっさい、黙ってろ。えー、まずはアンケね」
「アンケ?」
「アンケートのこと。じゃあ時雨から。幽霊信じてる?」
「何を言ってるんだお前は」
「いいから答えろ」
人として答えろ、ということなんだろう。
「そうだな…信じてるよ」
「理由は?」
「理由!?うーむ…見たことがある」
「へー、そりゃ不思議な体験したね」
すっとぼける雹。
「次、翠雨」
「信じている。理由は見たことがある」
「何だお前ら、愉快な人生だな」
雹はあくまで一般人、ただの学生を演じている。
何故そんなことをしているのか、さっぱり分からんが。
紗奈も同様の返答をする。
次にマカの番がきた。
「マカは?」
「私は…信じてない、かな…」
「理由は?」
「死んだ人が此の世に居る訳が無い…居るんだったら悲しむ人だって居ないと思うから…」
「最もだね。彼の世という世界があるなら幽霊が此の世に来る必要、理由は無い。いや、来ることも出来ない。彼の世の意味が無くなるからね」
「うん…」
マカは少し顔を伏せる。
「あ、今のはあくまで私個人の意見だから。聞き流してくれて結構。次、想儀」
俺は時雨たちと同様の答えを返す。
「最後に先生」
「ウチも居らんと思うなぁ。というより居てほしないね。怖いから」
「お、先生怖がり?」
「そういうんやなくて…何て言うんやろ、ウチは幽霊見たこと無いから分からんのやけど、もし人間と見分けつかんような幽霊が居って、其奴がウチと旧知の仲やとするやん?怖ない?急に居らんようになるかも分からんし、そもそも友人が幽霊ゆうんが怖いわ。生きてる人間と見分けつかんのやったらもう此の世界滅茶苦茶やしな」
驚かされる怖さ、おぞましい姿に恐怖するのではなく、其処に有るのに「無い」ということが怖い。
そして、其れが「有る」のか「無い」のかの判断が出来ないし、気にも止めない。
でも、もし其れが幽霊なら…
音伊先生の言うことは分かるが、幽霊と同居している俺が賛成するのもどうかと思う。
「ふむふむ。信じてる人が多いのか」
「待て、自分はどうなんだよ」
「私?私は信じてるけど…知ってるっしょ?」
「まあな」
此処で信じてないとか言ってくれると思っていたが、特にそんなことは無かったぜ。
「で、其のアンケをどう活用するんだ」
「いやちょっと肝試しでも」
「アンケ関係無いじゃねーか」
「別に関係あるなんて一言も言ってないじゃん」
「そうだけど…」
どんな意図で肝試しなんて…つーか肝試しか。
あの時の記憶が…
チラ、と時雨の方を見る。
「どうした?」
「いーや、何でも」
俺も気にするような人じゃないし、時雨も忘れている訳が無いだろうが、いや、案外忘れているのかも知れない。
時雨は何でもソツなくこなせそうな見た目に反して抜けているところが多い。
「日程は今日でいいよね?」
「ホントにやんのかよ」
「やるに決まってんでしょ」
雹は本気の目でみんなを見渡す。
「予定がある奴手上げて」
誰一人として手を上げない。
「じゃあ参加したく無い奴手上げて」
同じく皆の手は下がったまま。
「みんな暇なんだね」
「お前が誘ってんだろうが」
「暇じゃなけりゃ来ないでしょ。先生もいいの?」
「顧問やし、夜中にやるんやろしみんなの保護者として行かなあかんやろ。面白そうやしな」
此のメンツで襲われてどうこうなることも無いだろうけどなぁ。
「時間は…22時。集合は此の学校の正門前」
何処かで聞いたことのあるような。
「何処へ行くんだ?」
時雨に問われた雹は不敵な笑みを浮かべて――
「三手南影墓地」
そう告げた。
「そりゃまた陰気なとこを選んだな…」
「お、知ってんの?」
「ちょっと、な」
嫌な思い出だ。
「ま、そーゆーことだから。遅刻厳禁ね。じゃあ第二回部活会議終了!じゃね!」
意気揚々と片手を上げて部室を出て行く雹。




