創造、無事を越す
二時間目の授業の終わり、時雨は帰ってきた。
「何だったの?」
雹が時雨に聞く。
「ただの神様だった」
「ふーん」
「……ふーん、で済ませられるようなことじゃねぇだろ」
神様がこんなところに居るもんかよ。
「神様だって暇だったら街ぶらくらいするでしょ」
「…すんのか?」
「知らん」
時雨は首を横に振る。
「今度ウチんとこの神社の祭神に聞いとこうか?」
「祭神様は誰なんだ?」
「知らない。大したこと無いような奴だった気がする」
神様に対しても此の態度。
「面白そうだから聞いといてくれ」
「あいよ」
「何の話してるの?」
マカが自然に会話に入ってくる。
もう時雨や紗奈、雹とは緊張せずに話せるようになっているようだ。
まだ、警戒を解いてはいないようだが。
「マカは神様信じてる?」
「え?うーん…信じてない、かな」
「へぇ、意外」
「そう…?」
「うん。毎日神様に手合わせてそうなイメージ」
「私には…そう君以外は要らないから…」
「そ。まあそんな気もしてたよ」
雹は椅子に座って机に突っ伏す。
「想儀もこんなに愛されてるんなら、いつか神様になっちゃうかもねぇ」
「ならんだろ」
「そうとは限らないよ?人間が神様になった事例は結構あるからね。祀る人が居れば神様になれるよ」
「俺は…なりたくねぇなぁ」
好かれるのは悪く無いが、祀られるってのはなぁ…
ん?時雨と紗奈は祀られたんじゃなかったか?
二人は神様じゃねぇのか?
「どうした?」
「え?いや、何でも」
時雨を横目で見ると、時雨と目が合った。
「言いたいことがあるなら言っておけ。いや、時間と場所、というものがあるか」
時雨は一先ず理解したといった風に視線を逸らす。
「…雨が降りそうだな」
「今日の予報は晴れだったけど」
「自然の全てを把握出来る筈も無いだろう。ああ、確実では無いからな。私だって把握しきっている訳では無い」
「まぁ…時雨がそう言うなら降る確率は相当高いんだろうな」
「あまり、過大評価してくれるなよ」
時雨の視線は晴れた空へ向けられたまま。
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昼休みになると時雨は紗奈を連れて他に異変が無いかを探しに教室を出て行った。
雹も用事があると言って教室を出て行く。
俺は霙が作ってくれた弁当を持ってマカの前の席へ。
此の席の奴は俺と同じように少し離れた席の友人のところへ弁当を寄せている。
一応許可を貰って、着席。
「久々だな。こうして二人で弁当食べるのも」
「うん」
二人きりでは無いが。
「お、其れ美味しそうだな」
マカが開けた弁当箱を見て、鶏肉の照り焼きを差す。
「上手く出来たか分からないけど…あげるね」
マカは鶏肉を箸で抓んで俺の弁当箱に入れる。
「サンキュ」
美味しくない訳が無い。
「そう君のお弁当…いつもと違う…」
「ん?そ、そうか…?」
流石マカ、見抜かれるか。
「雰囲気は変わったかもな。ま、気にすることじゃないよ。ほれ、卵焼き」
お返しにマカの弁当箱に卵焼きを入れる。
マカは少し卵焼きを睨み付けていたが、箸を動かして卵焼きをそっと抓んで口に運ぶ。
「違う…」
「どうした?」
「んーん、何でも無い」
マカはニコリと笑い、卵焼きを咀嚼する。
美味しそうに食べているので良しとしよう。
「そういえば、部活って何するんだろうね」
「さあ…墓地とか行くんじゃないのか?彼奴がそんなただ「行く」だけで済ませる訳がねぇけどな」
絶対イベントなりアクシデントが起こる筈。
「其処が彼奴らしくていいんだけど」
「少し騒がしいくらいが…楽しいよね」
お、マカにしては珍しいことを言う。
しかし、其の言葉とは裏腹に悲しそうな表情が見えたのは気の所為だろうか。
「ただいま!」
其の時、クラス一騒がしい女生徒が教室に入ってきた。
「部活作れたよ」
雹が一枚の紙を持って此方に近付いてくる。
其の後ろに、少しわくわくした様子の翠雨。
「あれ、彼奴らまだ帰ってないの?」
「ああ」
「そっか。ま、いいや。はい此れ」
俺とマカの間に紙が置かれる。
「何だ此れ」
「見たら分かるだろ」
紙の上の方に『幽霊研究部』、其の下には俺たち部員の名前。
部長の雹、もとい霙を始めとして五十音順に名が並ぶ。
更に其の下には部室名。
「廃棟二階A教室?何処だっけ…」
廃棟って…あのオンボロ校舎か?
「彼処、だね」
マカが指差した先、窓の外、此の教室から見て斜め後ろ、南の方にある校舎。
距離は近くも無く遠くも無く、といったところ。
新しく此の校舎が造られた為使われなくなり、ところどころ朽ちてきているらしい。
行事がある時以外は普段から誰でも入ることは出来るが、特にやることも無いので誰も入らない。
此の手の廃校舎によくある心霊現象は今のところ確認されていない。
「何で廃棟なんだ?」
「もう此の校舎に空き教室無いんだって。で、幽霊研究部だしちょうどいいだろ、って」
「…其れ誰が言ったんだ?」
「此処の担任」
「幽霊研究部の顧問は?」
雹が持ってきた紙には記載されていない。
「佐塔 音伊、だってさ」
「……誰だ…」
聞いたことは無い筈…
「マカ、聞いたことあるか?」
「あるとは思うんだけど…誰かは分かんないな…」
「翠雨は?」
「私は知っている。が、見たら分かるかも知れないから黙っておこう」
「分かんねーと思うが…」
もう一度頭の中で検索してみるが、思い当たらない。
「まあ今日の放課後会うから其の時聞けばいいじゃない」
「今日の放課後?」
「うん。用事が無ければ今日から毎日放課後に部室に集合ね」
「そこら辺は普通の部活だな」
「研究部、っつってんだろ」
雹は呆れ顔で肩を竦める。
「そういうことで。私はご飯食べるから」
雹は自分の席に着き、霙が作ってくれた弁当を開ける。
俺と雹、そして自分の分まで弁当作ってるって、凄いよな。
翠雨は其の儘自分の教室へ…は行かず、雹と何かを話し始めた。
「佐塔先生…どんな人なんだろうね」
「さぁ…男性か女性かも分からんしなぁ」
「女性っぽい名前だけど、どうなんだろう」
今は、放課後を待つしかない。




